中国・アメリカのリーガルテック論文ご紹介

 天津大学副教授の王燃(Wang Ran)副教授が執筆した中国及びアメリカのリーガルテックについての英語論文(”Legal technology in contemporary USA and China” 2020年9月1日、上記リンクご参照)についてごく簡単にご紹介をしたいと思います。

 この論文は、リーガルテックについて政府主導型の中国と市場主導型のアメリカという大きな比較の視点を提示します。そして、中国のリーガルテック戦略、リーガルテックに先進的な地域の特徴、同種事例検索・量刑決定・証拠評価・裁判官のプロファイリング等におけるリーガルテックの活用、さらには企業や大学との連携によるリーガルテックの発展について論じるなどその内容は多岐にわたります。
 例えば、本論文ではリーガルテックを特に推し進めている4つの地域、貴陽、上海、杭州、蘇州における各モデルの特徴を紹介しています。上海では刑事事件における証拠評価(証拠に矛盾がないか、証拠が十分か)に「206システム」と呼称されるリーガルテックの活用が活発であり、杭州ではインターネットコート、ブロックチェーンの活用により民事および行政争訟の全ての手続をオンラインで完結させ、手続に要する期間を大幅に短縮させている等と論じています。
 このように地域差は大きいものの、中国では民事、刑事、行政の各分野においてリーガルテックの活用が進められていることが本論文からは読み取れます。

 さらに、本論文は中国のリーガルテックについての分析を加えるだけでなく、アメリカのリーガルテックの特徴についても著者のUCバークレー留学時の調査を元として、詳しい分析を行っています。中国とアメリカの比較考察を行うことで、双方のリーガルテック及び司法制度の特徴を鮮やかに浮かび上がらせているのが本論文の優れた点です。

 私の知る限り、日本で中国のリーガルテックの状況を充実して論じた文献は決して多くないので、この論文は中国のリーガルテックの発展及びその背景、そして司法制度について理解を助ける価値ある文献だと思います。
 また、著者の王燃副教授はアメリカ留学経験を踏まえた上で本論文を執筆しているため、本論文の内容はアメリカ法を学ぶ法律関係者にとってもお勧めできる内容かと思います。
 中国におけるリーガルテックの活用は日進月歩であり、かつ地域差も大きいので本論文が執筆された後、さらに状況は変化していると思いますが、この分野に興味にある方には一読をお勧めします。
 王燃副教授が今後英語で論文を発表したら、またご紹介するかもしれません。