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タイの幼児教育を見てみた

2022年11月、タイの幼児教育を見てきました。
どんなだったか書き記しておこうと思います。

見たのはタイ南部(ランタ島)の
幼稚園(3-5歳児)と保育園(2-5歳児)。

ランタ島は、
タイリゾートで有名なプーケットを東へ約100㎞。
自然豊かな隠れたリゾート地。
日本ではあまり知られていませんが、
欧米からの観光客や滞在者が結構います。

ちなみに、
タイは仏教国のイメージが強いですが、
このあたりはイスラム教徒が多いエリアです。

ランタ島の場所

ちなみに、
タイの幼児教育施設の区分は
ユネスコによると以下のとおりで、
今回見たのは、
国立の幼稚園・保育園でした。

https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000147249 より

で、実際に見る前に持っていた
自分の「先入観」はこんな感じでした。

  • 幼児期を小学校の準備期と捉え、認知能力重視

  • いわゆる一斉保育がメイン

では、実際にみてどうだったのでしょうか。
なおこれは、
タイの幼児教育全般について示すものではなく、
あくまでも今回視察した
2施設から感じたことになります。

カリキュラムについて

認知面へのアプローチ

保育室の環境から、
就学準備期として認知面への活動アプローチが
意識されていることが伝わってきました。
とくにワークブックについては、
さまざまな領域のものがあり、
デイリースケジュールの中にも
それを実施する時間が組み込まれていました。

曜日や数の説明
英語表記も
1月から12月。
数の英語表記。
スカーフの色と言葉。
イスラム教徒の多いエリアであることがわかる
ワークブック
内容を保育者がチェック

情緒面へのアプローチ

非認知といいますか、
情緒面へのアプローチとして
ユニークだと思ったのが
瞑想の時間です。

静かな音楽が流れる中、
輪になって座って目を閉じたり、
音楽に合わせてゆっくりと体(上半身)を
動かしたりしていました。

プロジェクト型保育の実施

そして、
何よりも大きなインパクトがあったのは、
プロジェクト型保育
(プロジェクト・アプローチ)
が実施されていたことです。

紹介してもらったのは、魚のプロジェクト。
子どもたちが魚の絵を描いたりするのはもちろん
魚屋さんを見に行ったり、
魚屋さんの保護者に
園に来てもらって話を聞いたり。

テーマについて
子どもが探究していくことを
大切にしているとのこと。

そして、一年間で生まれた探究の姿を、
教師は報告書としてまとめ、
行政に提出することになっているようです。

報告者を見せていただいたのですが、
厚さ1cmくらいあって、
写真とともにそのプロセスが表されていました。

プロジェクトの報告書
左は3歳児、右は2~3歳児

毎年これをつくるのは
かなり大変とのことでしたが、
それでも、国としてプロジェクト型保育を進め、
各地からその報告書が上がってくるというのは、
施策や仕組みという点で、
大きな影響力があると感じました。

調べてみると
プロジェクト・アプローチは、
タイの教育省が作成した
幼児教育カリキュラムのマニュアルに
学習方法の一つとして
2003年から明確に記載されているようです。

https://researcharchive.vuw.ac.nz/xmlui/bitstream/handle/10063/8619/thesis_access.pdf?sequence=1

ということは、
かれこれ20年近く
取り組んでいるということですね。

そういうこともあってか、
お話を聞かせてもらった保育者は
プロジェクトアプローチでは
子どもたちがこんなことをしている、
あんなことをしていると、
自信たっぷりに話す姿がありました。

国家として、
プロジェクトアプローチの意義を見出し、
現場での実践を強力に推し進めているわけです。

活動のバランスをはかる
デイリースケジュール

上記のように、
日々の生活が
認知的な活動に偏ることなく、
バランスよく展開されているように感じました。

見学する以前に抱いていた先入観は
見事に違っていたわけです。

このあたりのバランスを取ろうとする意図は、
デイリースケジュールにも
反映されているように思いました。

見学させていただいた時間帯は、
保育者が主導する、いわゆる一斉保育で、
音楽に合わせて踊ったり、
歌ったりしていました。

その一方で、
デイリースケジュールを見ると、
保育者がイニシアチブをとって進める時間と
子どもが選択して遊ぶ自由遊びの時間を
組み合わせているのが読み取れました。
ただ、日本の幼児教育以上に、
時間が結構きっちりしているという印象ですね。

毎日の活動スケジュール

環境構成はどうなっているか

ジャンルを意識したおもちゃや素材

自由遊びの時間では、
壁際に収納された
おもちゃや道具を使っている様子。

科学、算数、造形、積木などの種類に分けられ、
その種類名もプレートで明示されていました。
認知的な学びとして
経験してほしい分野を明らかにして、
環境構成しているんですね。

一方で、それらは壁にくっついていて、
コーナー保育のような
環境構成ではなかったです。

基本的には、
保育室は広く使えるように
中央のスペースを空けておく
いわゆる体育館型の環境構成でした。

ブロックコーナー/科学コーナー
アートコーナー
ごっこ遊びコーナー
ドラえもんもいた
絵本コーナー
素材

机や椅子については?

そもそも床はタイル張りでした。
一年中暑い国だからなせる業ですね。
日本だったら、
冬は寒くてとんでもないことになりそうです。
そして、今回視察した2園とも椅子はなく、
ローテーブルを活用して
さまざまな活動を行っていました。

ローテーブルを持ってきて、ワークを行う様子

ICTの活用も

日本でも保育へのICT活用の機運が
ようやく高まっていますが、
タイの保育室にもありました。

モニターが保育室にあって、
保育の活動でも活用している様子。

また、音楽は、
スマートフォンを
bluetoothでスピーカーに接続して
流してました。

うちより進んでる!という
日本の園もあるかもしれません。

保育室にはモニターが

まとめ

先述のとおり、
実際にみる前の先入観は、
小学校の準備期と捉えた
認知能力重視の幼児教育で
一斉保育がメイン、というものでした。

日本でよく見られる幼児教育に比べると
たしかに認知能力の重視や
一斉保育の活動が多い印象は受けましたが、
そればかりということではありませんでした。

むしろ、国として
プロジェクト・アプローチを早くから導入し、
認知・非認知能力を育てようとする意図を
強く感じました。

プロジェクト・アプローチを
日本に広めたいと思っている身としては、
本当に大きな衝撃でした。

より深く見たい部分としては、
そのプロジェクト・アプローチの
進め方でしょうか。

お話を聞いた感じだと、
プロジェクトのテーマは
固定されているわけではないものの、
ある程度枠組みが示されている
印象も受けました。

そういった中で、
子どもの対話や参画の程度、
保育者の関わり方等、
よりリアルな場面を見てみたいなと。

いずれにせよ、
良い意味で先入観は大きく違っていて、
視野を広げて学び続ける必要性を実感しました。

世界は広い。
学びは続く。

視察先の広報物


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