帰りの電車賃がない紳士「ゴウムラ」
つい先週のできごと。
『未来と芸術展』という美術展に行こうと六本木の森美術館へ行きました。時間は夕方18時ごろで、通常の美術館は閉館してしまう時間でも森美術館は夜遅くまで間口は空いている。
しかし、森タワーの入り口に休館の張り紙が。昨今、新型コロナウイルスの影響で当面の間は閉鎖するとのメッセージが丁寧に書かれている。ここまできて無駄足だったかあ。往復で交通費300円ほどもったいないことをしちゃった。
あてもなく、六本木ヒルズの周りを音楽を聴きながらブラブラしていると、70代くらいのおじいさまに声をかけられた。えっ、なんだなんだ?
おじいさまは黒スーツを纏っていて、胸元にはサングラス、長い白髪を後頭部で縛っている。俳優でいうと、ミッキーカーチスさんに近い風貌。申し訳ないけどすこし、いやだいぶ怪しそう。
「なんでしょう?」
一応、丁寧に応答した。すると、
「おにいちゃん、500円持ってる!?」
踏み込みかたハンパないな。グイグイくる、この人。持ってないです、すいませんっていって逃げたろうか。いや、しかしお困りのようだ。
「どうされたんですか?」
回避。お金が関わることだし、まずは間合いをとる。おじいさまは…
「財布を落として警察に届けは出したんだけど、和光までの帰りの電車賃借りれるかと思ったらダメって言われたのよ。駅員の人にも貸してくれって言ったんだけどメトロの分は出せるって言ってくれたんだけど、東上線にも乗るからその分は出せないって言われちゃって、困ったな〜なんて。お兄ちゃん、ハンサムだね!」
いや、経緯がまどろっこしい上に、ほめ殺しも通じませんし。
とにかく帰りの電車賃が欲しい、て簡潔に言えばいいのに。かわいいやつめ。
「じゃあ…(お貸ししましょうか)」と言うや否や、
「おにいちゃんみたいな、やる気のある目をしている子はね、オーストラリア行きなさい。こんな日本じゃなくてオーストラリアのメルボルン。そこで、3人くらいでベンチャーやればいいよ。」
電車賃のギブアンドテイクになってんのか、その助言。
てか、いきなりどうしたどうした、おじいさま。でもまあ、
「ありがとうございます!お詳しいんですね。仕事は何されてるんですか?」
俺も悪いな〜。泳がせようとしてんじゃん、このおじいさまを。
「俺?俺はね、映画作ってんの。」
急展開ッ!!くわしくきかせぃ!
「へ〜!素晴らしいですね。どこかでみられるんですか。」
「でも、メルボルンで学校入っちゃダメ。留学は関係ない宿題やらされるから。とにかく単身で乗り込んでベンチャ…」
いや、ベンチャーどうでもよかや!!!映画だっチューに。
「映画、すごく興味あります(自分が役者をやってることはあえて隠してます)。ネットとかで見られますか?」
「いや、ネットには会社の情報もなにも出してないの。」
ボクはスッと身を引きました。このご時世、映像作ってんのにネットに公開してないって怪しすぎません??
ってか、このおじいさま、ナニモン!?
「ど…どうしてですかあ。見たかったな〜。」
「アイデアとか盗まれたら嫌じゃん。自分のものは大事にしないと。」
いや、あんた財布落としとろうが。
「そうですか。」
「おにいちゃん、名刺あったら頂戴よ。」
こっちには情報求めるクセして!?
「あいにく学生なんで持ち合わせてないんです。すみません。千葉と言います。あなたは?」
「ゴウムラってんだよ」
はじめて会った、ゴウムラ。
「とりあえず、400円だけなんですが、とっておいて下さい。では。」
(ホントは財布かさばるくらい100円玉あったんですがケチりました)
「ああ〜助かる。ありがとうね。じゃね。」
ふぅ。とりあえず落ち着いたな。
また、あてもなくブラブラしていると、20分くらいたった頃ですかね。
ゴウムラがウェストウォークから出てきました。
しかも、なんかさっきは持ってなかったビニール袋2つくらい持ってんすよ。おい、ゴウムラ!てめー、俺の400円で買い物してね!?
まじまじ見ていると、目、合っちゃいました。あ、やば。
「おお。さっきはどうもね。」
「あ、お買い物ですか?」
「いやいや、これ荷物。」
スーツに似つかわしくない荷物だこと。
「じゃあ、またどこかで。」
エスカレーターを降りていくゴウムラ。
映画人、メルボルン在住経験あり、そして財布なしのゴウムラ。
いったい、あの男は誰だったのか。まじなんなんだよ。
六本木でお金せびってくるスーツのおじちゃまにご注意を。
展示やイベントレポート、ブックレビューなどを通じて、アート・テクノロジーなど幅広いジャンルを扱った記事を書こうと思います。また、役者としても活動しているので劇場などでお声がけさせてください!