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データジャーナリズムに興味がある学生へのアドバイス

この間「データジャーナリズムに興味があるんですが、どうすればよいですか?」と学生さんから相談を受けました。ジャーナリスト志望だがデータビジュアライゼーションなどにも挑戦してみたいとのことでした。そのときはその方のバックグラウンドも踏まえて回答しましたが、色々な人に応用できそうだなと思ったので再構成してここに書きます。

まずどのようなスキルを身につけるべきか?

まずスキル面から何を始めるか。私はデータジャーナリストと名乗っていますが、こと記事を書くことにおいてやっていることは普通のジャーナリストと変わらないと考えます。読者(視聴者)が何を知りたいか考え、企画を立て、資料や文献を読み、必要であれば人に取材し、わかりやすく編集して記事なり番組なりにする、という流れは共通でしょう。

その「主な取材先」が人かデータか、の違いがあるくらいで、もちろん一般のジャーナリストもデータの読み込みはするでしょうし、私もデータばかり見ているわけではなく、必要があれば他の資料を読んだり人に取材したりしています。

文系でも大丈夫?

ジャーナリスト志望の方は、いわゆる「文系」(私自身はあまりこの区分に意味があるとは思っていないので、カッコ書きで表記します)が多く、数字やデータを扱うことに尻込みしているケースが多いですが、報道におけるデータの読み込みは文章を読むのと変わらないと思います。きっとマスメディア企業に就職すれば文章を読み書きする訓練は受けるでしょうから、データに対しても苦手意識さえ持たなければ問題はないと考えます。それよりも重要なのは「複雑な物事を要約し、平易に説明する能力」です。

コードやデザインをどう学ぶか?

ここまではいわゆる記者・ジャーナリストがデータを中心に記事を書くことについての話でした。一方で、もし私がやっているようにビジュアルそのもの(たとえば東洋経済オンライン「新型コロナウイルス 国内感染の状況」のようにウェブサイト上のインタラクティブなデータ可視化)を作るのであれば、コードやデザインなどの知識が必要になるかと思います。

大まかにいうと「ウェブサイトを作る知識」+「ウェブサイト上で動的なビジュアライゼーションを作る知識」+「データを集計、解析、整理する知識」に別れると考えています。

私は独学&実践でしか学んでおらず、スクール・動画・書籍などはほぼ使っていないので、教材のおすすめなどはできませんが、基本的には実践中心がよいかと考えます。簡単なウェブサイトを作ってみるところから始めたり、「新型コロナウイルス 国内感染の状況」のコードも公開していますので、それを少し変えてみる、といった始め方でもよいでしょう。

自分でコードを書くところまで行かずとも、たとえばFlourishのようなジャーナリスト向けツールを使うのもよいかもしれません。プログラミングスクールに通うことも否定はしませんが、現在は無料で使えるツールや教材が充実していること(ウェブサイトの公開まで完全に無料でできます)、一般的にスクールの受講料は学生にはけっこうな出費となることから、私個人としてはまず自分で触って・作ってみることをお勧めします。

私自身はもともと社内の別部署でエンジニア的な仕事をしており、その後留学してデザインを勉強して、それから帰国と同時に編集部に異動して記事を書き始めました。ただ一般的には、まず記者の仕事をしてからデザインやコードを学ぶ、という順番だと思います。ひとりでビジュアルコンテンツを作るにしろ、他のエンジニアやデザイナーと組むにしろ、ディレクター的な役割を担うであろうジャーナリストがコードやデザインの知識を持っていると仕事も進めやすいと思います。

どのくらい勉強してから作り始めるべきか?

となると、おそらく迷うのは「どのくらい勉強してから作り始めるべきか?」だと思います。基本的には好みで決めてよいと思いますが、私であれば「最初から何か作ってみる」ほうを選ぶと思います。

まず、基礎知識といっても際限なく広いので、完璧を目指すといつまで経っても終わらない場合があります。特にデータビジュアライズのような複数分野にまたがるものだと、ウェブの基礎を勉強して、サーバーサイドの基礎を勉強して、データベースの基礎を勉強して、デザインの基礎を勉強して、ストーリーテリングを勉強して……、と「基礎」だけでかなりの分量になるはずです。

それよりは、実際にまず作ってみて「過去に作ったことがある」という引き出しを増やしておくのがよいと思います。「新型コロナウイルス 国内感染の状況」も、ほとんどすべての要素は以前に作ったことのある要素の応用です。下記のインタビューでは「1週間で作った」と話していますが、この引き出しがあったから比較的短期間で最初のバージョンを公開できました。

外国語に例えるとわかりやすいかもしれません。「英語が習得できてからアメリカに旅行する」よりは、実際に訪れてみて必要な単語なりフレーズを現地で調べるほうが早いし、頭にも残りやすいのではと考えます。

何より「勉強」する人よりも「実践」する人のほうがはるかに少ないので、実践できる人はそれだけで付加価値がつきます。また自分のポートフォリオを持っておくと、自分の「本気度」を証明できたり、スキル面での自己紹介が手早くできたりと、何かと便利です。

データ、コード、デザインは武器になる

最後に、報道業界、特に新聞や雑誌など活字の業界は「私はデータに疎くて……」と自己紹介する方が多いので(もちろん謙遜もあるでしょうが)、データ・コード・デザインに関して強みを持っておくと、将来の自分の武器になると思います。私もデータジャーナリズムが日本でもっと盛り上がってほしいと考えているので、この分野に挑戦する方は大歓迎です。

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