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3D円グラフの使い方を真面目に考えてみた

私たちがデータを表現する際に使われるグラフには多くの種類があります。円グラフはその中でもポピュラーなもののひとつですが、折れ線グラフや棒グラフと違って使い道が限られることもあり、積極的な推奨をされることは多くありません。

特に批判が多いのが、円グラフに厚みをつけて斜めの角度から表現した3D円グラフです。ExcelやNumbersといった多くの表計算ソフトで作成できるにもかかわらず、「3D円グラフは絶対に使ってはいけない」と主張する人も少なくありません。余談ですが私は「3D円グラフは法律で禁止すべき」というジョーク?をデータ可視化関連のイベントや懇親会などで3回ほど聞いたことがあります。すべて違う方でした。

ただ、ExcelやNumbersにしても、グラフとして実装しているからにはきっとユースケースを(たぶん)想定しているでしょうし、「ダメ」と言われると逆に何とかして可能にできないか考えたくなるものです。せっかく存在するものを「使うな」で終わらせるのも寂しいですから、今回は3D円グラフがどのような場面なら誤解なく&効果的に使えるかを真面目に考えてみたいと思います。

なぜ3D円グラフを使ってはいけないのか

そもそも、なぜ3D円グラフを使ってはいけないのか?

一言でいうと「元のデータと視覚的な印象が大きく異なる場合があるため」です。実際に見てみましょう。円グラフとは、複数の要素から構成される全体を円に見立て、その内訳を表現するものです。たとえばある要素が全体の40%を占めていれば、視覚的に表現される扇形の面積も40%になります。

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ちなみに円グラフには中心があるタイプと中心がくり抜かれているタイプがあります。英語ではPie chart(パイチャート)、Doughnut chart(ドーナツチャート)と呼ばれて区別されます。おいしそうな名前ですね。使われる場面、使い勝手とも両者はそこまで変わりません。強いて挙げるならパイチャートの場合は要素の角度(円の中心部分)が見えるので要素の大小比較が比較的簡単である、ドーナツチャートの場合は中心部分の空白に何か情報(アイコンや合計値など)を入れやすいことがあります。

さて3D円グラフは、円グラフに厚みをつけて斜めの視点から見るものですが、これによって手前の要素は大きく、奥の要素は小さく見えます。以下の例では各要素とも同じ20%ですが、手前に位置する要素の方が大きく見えると思います。

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これが無用な印象操作に使われることが非常に多く、3D円グラフが非推奨とされる理由の第一です。おそらく巷で「3D円グラフを使ってはいけない理由」としてまず最初に挙げられるものだと思います。また消極的理由として、円グラフで表現可能な情報は大半が棒グラフでも代替できるため、一律禁止としてもさほど困ることがないのも一因だと思われます。

逆に言うと、使い道を考える立場からは、このデメリットさえ何とかすれば3D円グラフを効果的に使えるということになります。

3D円グラフでは手前と奥の大小比較が難しいということは、手前と奥の要素で大小比較がもはや不要なほど差がついていればよいのではないか。つまり「手前が大きく見える」ことを前提として、圧倒的に大きな要素が奥に配置されることが第一の条件です。また、手前が大きく表示されるということは、通常であれば小さく表示されるような要素も拡大されるということで、小さな値の要素同士を見比べたい・列挙したい場合に3D円グラフが効果的となりそうです。まとめると、ある要素がどう見ても圧倒的に大きく、かつ他の小さな要素に注目したい場合に有効となりそうです。

さらに欲を言えば、円グラフは内訳を示すグラフなので、内訳に類するデータであればよいでしょう。このようなデータ形式ですぐに思い当たるのは、ある業界のシェアを示すデータです。つまり、業界1位が圧倒的なシェアを占めている&グラフを見るユーザーもそれは最初から知っている状態で、どこが2番手になるかが注目されているようなデータだと理想的です。

誤解を与えない3D円グラフの試作

というわけでデータを色々と探したところ(もちろん本来であればグラフからデータを探すことは基本的にないのですが、今回は企画趣旨が趣旨なので)、ドローン業界のデータに行き当たりました。

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出所:Drone Industry Insights

ドローン業界は中国の深圳に本社を置くDJIがシェア76.1%と圧倒的なシェアを占めており、2番手を米国のIntel、香港のYuneecなどが争っています。ちなみにDJIは中国の未上場スタートアップ企業の中でも5本指に入る時価総額で(5位でも時価総額150億ドルというところがすさまじい規模ですね)、昨年時点で2021年には上場するのではないかとの観測が囁かれていました。

今回の趣旨に適したデータだったため、試しにビジネス誌風のタイトルをつけて作成してみました。

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ユースケースとしては、DJIが圧倒的に1位であることは前提とした上で、それ以外のプレーヤーを細かく見たい・どこが2番手争いをしているか知りたい場合にこのような表現になるでしょう。これなら手前と奥の要素を比較することもなく、要素の大小が誤解される可能性を最小限に減らすことができるかと思います。また、3D円グラフの(悪い)特徴である「特定要素が大きく見える」ことを活用して、普通のグラフなら細かすぎて見づらい2番手〜4番手も比較的見やすくなっているはずです。

この手法をシェア以外で使うとしたら、たとえば1日を表現したグラフでもありうるかもしれません。よく「◯◯さんの1日の使い方」などを24時間で表現するビジュアルがありますが、実際に表現したいのは日中の仕事時間(9時〜19時くらい)であることが多いでしょう。場面にもよりますが、そこにフォーカスするために3D円グラフを使うのも有効かもしれません。

また応用として、アニメーションを組み合わせる手段もあります。すなわち、最初は通常の2D円グラフで全体を表示し、値の細かくなる要素を集中的に説明したいときにアニメーションで3Dに切り替えて当該部分を拡大するという手段です(そのようなビジュアルをUGCで表現できるツールがあるのかどうかはわかりませんが)。

まとめ

以上で、3D円グラフが非推奨となっている理由、それを克服するためのユースケース考察、事例を挙げてのグラフ試作まで進めてきました。

実際に作った感想としては、やはり極めてユースケースが限られ、かつユーザーの理解度もきちんと把握しておく必要があるなと感じました。比較的リテラシーが高く、表現するデータや表現手法に対してある程度知識のあるユーザーを対象とするケースが適しているでしょう。今回はもともと「3D円グラフを使ってみよう」という趣旨で始めたものなのでビジュアル作成までこぎつけましたが、たとえば「シェア1位のJDIを除いて棒グラフにする」といった、3D円グラフを使わない形での代替手段も可能です。実際の業務中でここまで使用頻度の低い手段をあえて選択するかと言えば、正直に言って可能性は低いでしょう。基本的にはセオリー通り、強い理由がなければ使わない、くらいで考えておくのがよいかと思います。

一方で、3D円グラフを使ってはいけない理由は「誤解を招きやすいから」であり「3D円グラフだから」ではありません。私個人の意見としては、円グラフは使い道が極めて限られること、3D円グラフは中でも特に誤解を招きやすいことには賛成しますが、いついかなるケースでも絶対に間違っているとまでは思いません。問題なのは誤解を招くようなデータの伝え方であり、それは3D円グラフでも折れ線グラフでも地図でも変わらないはずです。実際にデータを「伝える」ことを仕事としている方は、今回のように非推奨とされるデータ可視化があれば、一度実際に手を動かして「なぜ使いにくいのか」「なぜ誤解を招きやすいのか」確かめてみるのもよいトレーニングになると思います。


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