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成熟社会とネット時代のコモンズとは?

最近読んだ本、シティラボ東京やJSURP関連のイベント等で色々と思うところがあったので自分用備忘(裏とり、頭の整理ができていないところ、あります)。

▼コモンズの今まで ~解体から再評価へ

コモンズ(共有財)は、都市・地域の文脈であれば入会地に代表される。現代では、クリエイティブコモンズに代表されるようにインターネット上での知の共有体などでも使われる。もう少し概念的には文化の様な非物質的な社会資本でも使われている感もある。

ところでこのコモンズ(入会地)、ヨーロッパでは産業革命の時期あたりから、資本や行政により「囲い込み」と称して地域共同体の所有・管理からは排除されてきてしまう。日本(たぶん世界全体)でも高度経済成長期からはコモンズの解体が始まる。

市場経済の世界で「希少性」が価値になる中で、市場にのらないが財(水、燃料、食料…)を供給してくれるコモンズの存在は邪魔だったのだ。後押しした理論としてはG.ハーディンの「コモンズの悲劇」(1968年)がある。人間のエゴにより、コモンズは最終的に荒廃や独占に至るというものだ。

一方、「コモンズの悲劇」への反論も多々ある。E.オストロムは、資源を管理する効率性は市場でも政府でもなく、コミュニティが補完的役割を果たしたときに最も効果的になることを示してノーベル経済学賞を受賞している(2009年)。

いま思えば、市場経済自体が経済活動の一側面を切り取ったものでしかなくて、「コモンズの悲劇」論も市場経済に都合の悪い経済体系を排除するもの…とまで言っては言い過ぎかもしれないが、単純化し過ぎた経済モデルではあったのだろう(だいたいそれを言えば「市場の悲劇」などワサワサ出てきそうなものだ)。

▼コモンズのこれから ~成熟社会とインターローカル

ケイト・ラワース「ドーナツ経済学が地球を救う」(2018年)では、成長前提であった市場経済中心の考え方から、「組み込み型経済」への転換を訴えている。地球(環境)と社会を基盤とした上に経済があり、更にその経済も「家計」「国家」「市場」「コモンズ」の4者から構成される(4者をつなぐのがお金の流れ)というモデルだ。

組み込み型の概念図(出展:ドーナツ経済学が地球を救う)、この本で有名なのはもちろん「ドーナツ」なのだけど、システムの構成要素という点でこの図も負けずに重要だと思う。

さすがにこちらの方が市場(需要供給曲線)だけで説明される社会よりしっくりくる。次の課題は、それをどう社会経済システムとして実装していくかだ。「ドーナツ経済学…」では、協働型コモンズの可能性として、社会的公正の実現(それがもたらす環境への配慮)とグローバルな知識の共有という方向で描いていた(と思う)。ここではもう少し身近な視点で、人口減少が始まっている日本の社会、ローカルのつながりという観点から考えてみた。

▼成熟社会でのローカル・コモンズ

成熟社会と書いたが、要は(市場経済的には)低成長または縮小経済と言ってもよい。身も蓋もないが、経済の担い手かつ消費者である人口が減る中では当たり前でもある。既に日本の地方部では、地価の下落が進んで市場価値がつかない、つまり市場取引では土地が有効に活用できなくなる場所が増えてきている。

そんな極端な事例が、東日本大震災の被災地だ。物理的には一度「リセット」された土地だが、災害危険区域で住宅は建てられない。また、個々の土地の権利は生きていて、これがまた土地の活用を難しくする。つまり、市場価値はほぼなくなってしまう。

とは言え、人はやはり幸せに生きていきたいし、いまある資産(ここでは土地)はなるべく有効に活用したいわけだが、僕が関わった大船渡市越喜来地区の事例では、以下のような取り組みがあった。

一つは、大船渡市による市有地と民有地の一体利用に向けた取り組みだ。市有地の売却と民有地の斡旋を組み合わせて土地を集約するマッチングを行う。浦浜泊地区では実際にイチゴやトマト(実施中)の栽培が行われた。これは市場経済のステージにもう一度引き上げたという取り組み(良い意味で「地上げ」)。

浦浜泊地区、三陸駅前のいちごハウス

もう一つは、地元住民団体による自主的な管理を前提に、復興予算から整備費を捻出して整備した「ど根性ポプラ広場」。単なる行政による整備と思うなかれ。正式な広場敷地はもともと市有地だったのだが、実は広場としては使いづらい不整形な土地で、ちょうど四分の三円みたいな感じだった。残りの四分の一の民有地について、地元が所有者に交渉し、無償で使わせてもらい一体的に地元で整備したところがミソ。使い方がフリーな民有地はバーベキューとお花畑として活用している。イニシャルは政府だが広場+ランニングはコモンズという事例。

ど根性ポプラ広場、白線の向こうが公的な広場、手前は無償で借りた民地

最後は、大船渡駅前の「キャッセン大船渡」。土地を一旦は市所有に統合した上で、民間は定期借地で土地を活用し、貸付料金が減免される代りにエリマネ分担金や自主事業費として、まちの育成に使う仕組み。まちづくり会社という新しいコモンズが、行政と民間をつなぎ、土地の所有価値ではなく利用価値に転換させている。

キャッセン大船渡、エリマネの仕組みは【参考】から

今年は東日本大震災の発生から10年ということで、一般の人の生活感覚からは震災のショックもだいぶ薄れてきているのだろうが、被災地ではなく成熟社会が10年加速した未来の実験場という新しい視点でも見てほしい。

▼インターローカルなコモンズ

日本都市計画家協会の研修プログラム「まちづくりカレッジ」では、それぞれ「移住/半移住」「デジタル技術と合意形成」「ウォーカブル」「サーキュラーエコノミー」と今年も4コースが開催されているのだが、僕はシティラボ東京の実施支援担当ということで、ほぼ全ての講座を見るという約得(体力的にはキツい…)があり、実は全ての講座も「コモンズ」というキーワードでつながっていると感じる。

そして、現代のコモンズ(を運営している若手)は、当然のようにインターネット世代でもあるため、過去のコモンズと違って、ローカルでありながら日本中、世界中とつながっている。サーキュラーエコノミーの世界では「重さのあるマテリアルはなるべく小さな範囲で、重さのないノウハウやアイデアはなるべく広い範囲で」循環させるという考え方があるらしい。

ネット上のコモンズが世界全体をグローバルにつなぐとしたら、こちらはインターローカルという感覚か。本来のインターネットって、草の根の活動が世界中につながる可能性を持つイノベーションだったので、こちらの方がしっくりくる。

そして、「ローカル」にもご近所から都市圏まで様々なスケールがある。巨大化・複雑化した社会での民主主義のあり方を探るためにDecidimの様なネット上でローカルのあり方を熟議するツールの試行も始まっている。インターネットを使いながらローカルにこだわった活用を行う地域SNSもある。サイバー空間だけど一定のスケール感を持つとコモンズになるということか?

逆に、リアルな空間の状態や価値をネット上で情報を統合・可視化するものもある。New York City Street Tree Mapでは、一本単位から樹木が持つ環境価値を見られる。都市ダッシュボードの取り組みも国内外で展開している。

ものづくりの世界ではIoT(Internet of Things)が一般的になりつつあるが、まちづくりの世界でもIoP(Internet of Place)として色々な取り組みを横断して見ると、なにかが見えてくるかもしれない。いまのところGoogleで検索してもあまり広まっていなそうな概念だし。。。

▼ところで…

頭でっかちにウダウダ書いてしまったけど、実際に自らの手で実践している若者の話を聴く方が面白いよね、という訳で12月8日(水)19:30〜「新しい豊かさのためのコモンズと地域拠点」。実際にコモンズや地域拠点の取り組みを行う丑田俊輔さん(シェアビレッジ株式会社 代表取締役)と土肥潤也さん(一般社団法人トリナス共同創業)のお二人をゲストにご登壇いただきます!

https://city-lab-tokyo-commons.peatix.com

【参考】

  • 「ドーナツ経済学が世界を救う」ケイト・ラワース

  • 「サーキュラーエコノミー実践」安居昭博

  • 「アイデアズフォーグッド」加藤佑

  • 「a+u 2021年9月号 特集:アーバン・サイエンスと新しいデザイン・ツール」吉村有司

  • 「人新世の資本論」斉藤幸平

  • 「まちづくりカレッジー「サーキュラーエコノミー」で都市をどうデザインするか?〜グローバルの潮流とローカルの実践に学ぶ〜』第1回 12月1日「オランダの最先端サーキュラーシティと日本における食の循環プロジェクト」

  • 「まちづくりカレッジーデジタル活用で実現する共創まちづくり 〜多様な人々の参画を可能にするには〜」第3回 11月30日(火)共創のためのデータ活用と市民参加―先進都市バルセロナを事例にー

  • ローカル・コモンズの可能性|NIRA総合研究開発機構(https://www.nira.or.jp/paper/opinion-paper/2018/post-33.html)

  • 「全国まちづくり会議 2020/2021 in大船渡 <Intergrowing 災害の経験をもとに、共に成長する>」2021年11月27日(土)10:00~18:00(https://www.jsurp.jp/全まち大船渡/)

  • 市有地(被災跡地)と民有地の一体利用に係る事業者等の募集について(https://www.city.ofunato.iwate.jp/soshiki/zaisei/978.html)

  • 大船渡駅周辺地区のまちづくり(https://www.city.ofunato.iwate.jp/site/hukkou/11049.html)

  • NYC Street Tree Map(newyork city tree map)


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