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ポストコロナ時代の都心業務地区・商業地区を探る

2021年3月26日、東京建築士会中央支部のパネルディスカッションに参加させていただきました。仕事では散々イベントに携わっている訳ですが、進行管理ばかりなので、登壇者側に回ると緊張しますね…。6名の登壇者がリアルに集まる配信型ということで、進行管理も大変だったと思います。

今回のセッション、この1年間で同様のテーマは数限りなく議論されていると思いますが、建築士会という専門家集団(私自身は建築士試験挫折しているんですけどね…汗)であること、また、東京の都心である中央区という場所性をもった議論であることが特徴でした。

下記は、第一線で活躍する登壇者たちに囲まれ、まだ情報を咀嚼できていなかったり、自分の考えも整理しきれていなかったり、ディスカッションも時間切れだったりしたのですが、まずは現段階でのメモです。
※私の解釈を含むため、登壇者の発表そのままの内容でない場合があります。

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柿沼さんの冒頭挨拶に続き、支部長・アプル総合計画事務所の中野恒明さんより趣旨説明。思えば、パンデミックと都市は、18世紀のコレラ流行による近代都市計画の始まりと同時に歩んできました。日本でも100年前のスペイン風邪を機に建築が様式主義から近代主義に変わり、市街地建築物法(建築基準法の前身)や(旧)都市計画法の整備など、通風、採光といった公衆衛生の観点から法や制度が発展してきました。一方、都市の近代化・現代化は、郊外住宅地の発展と共に鉄道や道路などの交通ネットワークを発達させました。さらに、高度成長期やバブル崩壊、都市再生などを経て特に大都市部では高密度化、超高層化、グローバル化が高度に進み、オリンピック・パラリンピックで最高潮に達するか…というタイミングでのコロナ禍となった訳です。中央区は、日本の中で押しも押されもせぬ都心業務・商業地区であり、日本全体の中でも特有の影響を受けていますし、首都の中心として日本全体に与える影響ということもふまえながら、ポストコロナを考えていく必要があります。

最初のパネリストは、三井不動産の加藤さん。コロナ下でのオフィスについて、都心5区という視野からリアルな現状と見通しを語っていただきました。都心5区で1千万坪(6,800棟)と言われる貸床に対して、コロナ禍収束後は約75%程度の出社率になるのではないかという試算を紹介いただきました。また、在宅勤務によるワークスタイルの多様化は、オフィススペースはもちろん住宅スペースの多様化も必然的にもたらします。その時にワーカーのコミュニケーションはどう変わっていくのか、また、それらを支えるイノベーションはどう進むのか…そこはまだ課題ですが、シェアオフィスやウェブ会議を背景とした個人作業ニーズは確実に増加しているのが現状で、コンテナタイプのシェアオフィスなど新サービスも登場したとのことで。一方、会議室など個室だけでは満たせない共用サービスの新規ニーズなど、次の変化もきざしが見えてきているようです(シェアスペース運営者としては気がかりなところです)。

次は、銀座街づくり会議の竹沢さん。銀座街づくり会議の事務局長という視点から、銀座の「困っている」状況を肌感覚をふまえて紹介いただきました。ワーカーも多い銀座では商業全体に与える影響は甚大で、特に飲食店やファッションはダメージが大きいとのこと。一方、顧客の3割を占めるインバウンドが消えてしまった百貨店を近隣住民が支える、宝飾・時計業界では海外で購入していた顧客が国内に回帰…など、一筋縄でも語れないようです。少面積で築年数が古い傾向がある銀座の不動産では、テナントが抜けた後に次が入らない問題があるそうですが、これはコロナ前からの傾向が急になっただけという意見もあります。「ショッピングと消費のまち」として近代の夢とあこがれの象徴だった銀座も、産業構造の変化や代替わりなど時代の潮目に直面するタイミングのようで、地元でもまちづくりの哲学レベルから議論を行っているとのことです。これらのコンセプトは、銀座デザインルール第3版やTOKYO CREATIVE SALONなどに反映されています(明日から歩行者天国再開とのことで早速行ってみました)。

3番目は、シティラボ東京から平井が発表しました。持続可能な都市・社会をに向けたイノベーションの拠点として2年半ほど前に京橋にできた施設ですが、特に初年度は自主・貸室イベントの開催と、それらを通した交流を主眼として活動を行ってきました。おかげで、1年目は年間約200回の会議やイベントなど好調なスタートを切った…ところで2年目の頭にコロナ禍に直面しました。いわば、リアル空間で「密」の意義を追求してきた立場であり、正直、五里霧中でしたが、自主イベントのオンライン化を行いながら、連続イベントや研修などプログラムの高度化、ネットワークの拡大などに取り組み、活動を続けています。コロナ禍でがむしゃらに1年走り続けてきた今、オンライン活動の蓄積とリアルな空間の場のハイブリッドな活用、また、それらを通して本来の目標である持続可能な都市・社会に向けたアクションを進めていくことが課題です。

4番目は、イトーキの原子さん。オフィスのプロフェッショナルの視点から、ニューノーマル時代のワークスタイルへの考え方を紹介いただきました。コロナ前の2018年から「XORK」(WORK(W)の次の働き方)を考え始めたイトーキ。コロナ禍を予見していたような、より良い場所と時間を選択できる多様な働き方というコンセプトでABW、WELL認証などもふまえたオフィス空間を検討していたそうです。一方、八重洲や日本橋、京橋と言った東京駅周辺では大型再開発が竣工、更に工事・計画も目白押しです。在宅勤務により、オフィスに対するワーカーの意識も変わり、経営陣もオフィスの存在意義を見直す必要があります。ワークスタイルの変化の根底には「自立して働く」という概念が必要です。その上で、単にオフィスがいる、いらないという議論ではなく、生産性を高める職場をつくるために、組織開発や人材育成なども含めて何に投資し、どのような価値を得ていくかという議論が必要になるでしょう(我々もリアルな場に根ざすスペース運営という側面とオンラインを含む企画グループという両側面を持つ身としてより良い働き方を考えねば)。

最後に、芝浦工業大学の志村さんより、豊洲や中央区、月島といった場所の調査成果が発表されました。豊洲は複合機能のまちで、大型オフィスも多く存在します。アンケート調査によると、第1回の緊急事態宣言解除後の平均テレワーク実施率は約68%、今後の見通しは約51%。この結果を豊洲全体に当てはめると、今後とも約39万㎡の未使用床が発生するという試算になります。一方、高度成長期から減少していた中央区の人口はV字に回復しており、かなりの高密度となっています。結果として、浜離宮恩賜庭園を除く中央区の公園面積は比較的少なく、在宅勤務も行われる住宅地としての中央区では、リフレッシュや憩いの「空間」が不足している状況です。高密度・職住近接・複合化する都心では、改めてオープンスペースや自然環境の持つ意味を問い直すと共に、業務・商業といった用途の概念、空間の私有・公有という所有の概念を越えた、ポストコロナ時代の都市計画が求められそうです(職住遊学の豊洲はポスト近代都市計画の実験場に適していそうですね)。

ディスカッションでは、主に、テレワークで床が余る一方で不動産投資マネーも集まるという状況の中で巨大開発をどう考えるか、業務や商業に純化してきた中で今後をどう考えるかといった観点から意見を交換しました。
※まだ正解がない中でのやりとりのため、登壇者の中で私の記憶に残った言葉をふまえた私の考えとして書いています。

▼ポストコロナ時代のワークスタイルとオフィス
全体としてのオフィス床は余剰が出てくることは間違いなさそうです。都心5区の就業率や豊洲のテレワーク実施率を見ると、ひとまずはコロナ前と比べて半分〜3/4程度の需要を仮説として見ておくのがよいかもしれません。もちろん、実際の貸床の単位や移転のバイアスなどは勘案する必要がありますし、業績の違いやテレワークとの相性などにより、一律な収縮ではなくまだら模様の経済を反映するマーケットになるのでしょうが。余った床についても、適切な規模に移転する、一人あたりオフィススペースを拡大する、空間をシェアする、思い切って減築する…など色々な可能性がありそうです。
ただし、いずれにせよ、従来の様な「高効率にデスクを詰め込める島型レイアウト」を求めるニーズはなくなるでしょう。新しいオフィスでは既にそうでしょうが、従来の島型オフィスも変わっていきそうです。オフィスに求められる活動も一律ではなく、企業の成長戦略により変わってくるため、オフィス供給側もより柔軟な対応ができる空間のあり方や個性化が求められそうです。
単なる業務ビルの床ではなく、住宅と複合した空間や屋外空間も視野に入れる必要がありそうです。また、ビル自体、共用スペースのサービスなど、「床を売って終わり」ではなく、マネジメントサービスも新たな訴求ポイントになりそうな気がします。オフィスとまちは融合する方向に向かうのかもしれません。
一方、現実問題として都心部の大規模開発が急に止まる訳でもない中、既存の特に中小ビルでは二次空室の問題が発生し始めています。都心居住、新たなサービス拠点としてコンバージョンのニーズも高まっていくでしょう。コンバージョンに対する規制の見直しは、より必要となりそうです。
本日は都心を主眼としたディスカッションでしたが、郊外や地方との関係も重要なテーマです。

▼ポストコロナ時代のゾーニングと床利用
近代都市計画の特徴である用途純化という考え方自体を見直す時期が、特に都心部では本格的に到来したように思えます。例えば、タワマンだけじゃなくオフィスビルに住んでもよいじゃないかといった居住者側からのニーズ、オフィスが抜けて後が入らないなら別のビジネスを考えなければといった不動産側からのニーズなどがありそうです。別のイベントですが、空き床を農場化するアイデアもありました。
大事なことは、この様な都市の未利用空間の流動化をどのように社会的に誘導するかでしょう。その地域に愛着を持つ居住者や商業者が増える、環境負荷が減る…など。単に床が埋まるという観点だけでは、都市の魅力は高まらず、本格的な人口減少や次のパンデミックなどが来た際に元の木阿弥になってしまいそうです。

▼ポストコロナ時代のインフラとエリアマネジメント
高度成長期は、上下水道、電線、ガス管といった物理ネットワーク型のインフラが連続的・面的に広がりながら都市を支えてきましたが、設備の老朽化、人口減少、まだらな土地利用圧力などを考えると、そのバランスも変わっていきそうです。例えば、コロナ禍の銀座ではポータブル水処理機による手洗いキャンペーンを行いましたが、この様な装置を使えばリノベーションの自由度や屋外の活用が進みそうです。電動マイクロモビリティや自動運転は電車やバスといった路線の概念を変えるでしょう。
また、リアル空間と融合したSNSサービスは住民自身による地域の維持管理やコミュニティ形成を支えるソフトインフラと言えるでしょう。空間自体もデータベース化することで空いている時間をマッチングするようなシェアリングエコノミーも既に実用化されています。
今後のインフラは、ICTを活用した分散型インフラや地域情報サービスへの移行が進み、それにより、人口や建物用途の変化に対する柔軟性がうまれるのではないかと予感しています。また、それらのサービスをうまく活用、運用することで、現在は地価の上昇・維持を還元できる都心の大規模業務・商業地でしか成立していないエリアマネジメントも、より広い範囲でできる可能性があるのではないでしょうか(ここはまだまとまっていない、妄想です)。

世の中でも言われていますが、これらの変化は、本質的には人口の減少や産業構造の変化などコロナ前からの構造的な問題がコロナ禍で加速したという話ではあるかと思います(数年後に振り返ったら全く新しいものが出ていたかもしれませんが)。ただし、社会が変化する時というのは、溜まったものがある日爆発するような、連続的な中でも特異点と言えるタイミングがあるようにも思います。この時代に生まれた人間としては、奇しくも(ほぼ)都市計画法100年・新都市計画法50年に起こったこのパンデミックを、都市にとってよい特異点にするよう努力するしかないのでしょう。

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