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人の心のうちなんて分かるはずがないから

若くて才能のある人が亡くなって、
その人の名前の読み方さえ分からなかったわたしでさえだいぶ動揺していたみたいだ。今朝は久しぶりにテレビをずいぶんと見てしまった。
  
それでみんなが
「どうして」
とか
「誰かに相談できなかったんでしょうか」
とか
「悩んでいる人は抱え込まずに相談してください」
とか、
いろんな事を言っているけれど、
相談できなかったからこそ亡くなることを選んでしまったんだろう。

よしんばもし、彼にそれを聞くことが出来たとして、
例えば「人生に絶望したんです」とか「仕事に疲れてしまったんです」とか
「こんなことを悩んでいたんです」とかの、聞きたかった「なぜ」を聞いたところで、ああ、それは死にたくなりますよね、だからあなたはそうしたんですね、分かりました、とはならないだろう。

なぜならわたしたちがほんとうに言いたい、胸の中の言葉は

「あなたがいなくなってとてもさびしくて、かなしくて、やりきれない」

であり

「あなたが感じた絶望が怖い」

であり

「これからも自分が生き続けることが不安でめんどくさくて自分だってやりきれるかどうかわからない」

であり…今自分のこの胸の中にある気持ちさえ私たちは捉えることが出来ずにいて、その言語化出来ない、向き合って直視することの出来ない思いのエネルギーを「どうして」「誰かに相談できなかったんでしょうか」という言葉に肩代わりさせているだけだからだ。

自分の中にある思いすらわからないのに、ほとんどの人が赤の他人であろう人の心のうちなんて分かろうはずもない。ましてやメディアを通して表現されている顔を見て、その人の奥にあるものなんて見えると思うほうが勘違いもはなはだしいのだ。その事に改めて気づいてしまうことも、きっと私たちを悲しくさせている。

わたしはボディーワーカーという、人の心身に関わる仕事をしていて、仕事柄いろんな方とセッションルームでお会いするのだけれど、突然ふと語られる「実はわたしは‥」というお話に、「あなたがそんな経験をしていらしたなんて、そんな思いを持っておられるなんて、世間の誰も思わないでしょうね…」と絶句することはしばしばある。

私自身でさえ、「和葉さんはいろいろうまく行っていて羨ましいです」なんて言われて「へ?誰のことですか?!」とびっくりしたり、「和葉さんでもそういう事あるんですね!」と言われて、まてあなた私の何を知っているの、笑…と苦笑してしまうことがある。人は見たいものを投影してすべてを見る。

つまり、もう自分のことさえわからない、肝心なことほどわからない、ましてや人のことなんて分からない、というこの「分からない」の構造が2重3重にある、それが人の心というものなのだ。

だからわたしは「身体のこと」をやっている。

身体と心はつながっているのだ。だから「意識化出来ない意識の領域」に
働きかけるような気持ちで身体と関わることを選んでいる。

悩んでいる時、それを「悩み」だと認知できたら相談することも、自分の状態を疑って何か手を探すこともできるかもしれない。でも真に悩んでいる時それは本人にとって悩みではなくて「事実」である。

この世界は生きるに値しなくて絶望しかないのだ、という事実であり
自分は人に比べてまったく何もなく存在してはいけないのだ、という事実であり、
私の人生は失敗して取り返しがつかず、生き続けてもいいことなんてない、という事実がある世界を生きてしまっている以上、
相談してどうこうなるものではない、というのがその人にとってのその時の事実であり真実なのだ。

これは(というか書いてることすべてがだけれど)私の私見だけれど、芸術や芸能に関わる人には「メタに見る」方向性に強く才能を持つ人と、「深く深く」突き詰めてもぐっていく方に強く才能を持つ人に大きく分かれて、まれにその両方を兼ね備える天才がいる、という感じではないだろうか。前者は宇宙人っぽくなり、後者は地球人ぽい業の深い感じになり、苦しみの質が違う。統合失調とうつ、ぐらいに違う。

わたしはもともと理系で、数学が一番真実に近い学問だと思っているけれど、数学者には発狂する人が多い。みんながなんとなく「世界とか、生きるとかって、こういうことだよね、そうだよね」って合意しているレベルを超えた深さにもぐってそこにあるものを見るのは、かなりの体力がいる。

以前、武術家の甲野善紀さんとワークショップをさせていたただいた時(あったんです、そんなことが)武道も、その世間の合意を平気で超えていく世界だなあ!と思ってとても面白かったのだけれど、武道の場合、「肉体」というどうしようもなくこの世的なものを足場にして行く分、ヘルシーさが担保されやすいように感じている。(あと、オタクはなんだかんだ「強く愛する!」という気質を持っているから、相当に変でもその愛でこの世にグリップできる。)

コロナ期に、世間の喧騒をものともせず、みんな死にたくないんだねえ、ほんとに死にかけたことがないんだねえ、っていうかほんとうは何が怖いんだろうねえ、と泰然自若と恐れずにいた先生方は武術・身体系に多かった。

深くもぐる仕事の人ほど「身体」の時間が大事だと最近つくづく思う。

それはわたし自身に対してもだ。自粛期間に、移動や接触を含めた「身体の動き」の時間が減ったら、カラダの疲れは少なかったけれどその分アタマに流れるエネルギーが増えてしまい、マインドの中に自分にとっておなじみの手続きで構築した妄想不安不満ワールドがものすごくリアリティを持つことになり、たいへん苦しかった。

かろうじてわたしは、身体指向のことをやっているので「心のことと思っていることはそのうちの結構が身体の問題から起こっている」という構造を知っていたから、アタマが構築した悩みワールドの波に圧倒されながらもふと凪の瞬間に正気に返ることが出来た。悩みを、悩み、として対処しようとする気になる瞬間がある程度の悩みだったとも言える。

話ずれましたが、深く潜る力って、それをこの世界に安全につなげる橋がないと、ふとした時にけっこう危ういのだ。並外れた芸術家に安定感のある人なんてそうそういない(怒られるかも^^;ちなみにセラピストもですが)。

彼らは私たちが、向き合うことが出来ないような深い問いを、そこまでの真剣さも強さも持ち合わせていない私たちのために探求してくれているのだと思う。真実を見た時、私たちが当たり前に思っている風景は解体されてしまうのだろうと、表現された芸術を味わっているだけでも感じてしまう時があるではないですか。

ここまでつらつら書いたことはきっと、自分自身が見ることの出来ない何かへの恐れをひとまず言葉にして落ち着きたかったのだろう、と、浅いところにある動機を書くとこんなところになる。

仏教が、人生は苦、という結論からスタートするということを知った時、なんてクール!!!と興奮したものだ。神からのトップダウンじゃない、「事実からのボトムアップ作戦」にサイエンスの香りを感じた。ちょうど、身体から人に関わるボディーワークの領域から、ソマティック・エクスペリエンス®を通して心理療法の世界に広がり始め、いろんな方の言葉で語られる人生に触れ、その分自分の心の魑魅魍魎たちともコンニチワせざるを得なくて、ちょっとほんとに生きてるって大変じゃないのもれなく全員!(驚)と思っていたところだったからというのもある。

生きるってことはほんとうに大変なことだ。まったくもってみんなよくやっている。だから「みんなで」やっているのだろうし、その業の深さの分だけ美しさも感動もあってそれをよすがにして生きていくのだ。

基本的にはわたしは生きることを愛するし、地球が大好きですが、かといって「人生は苦」ということを疑いはしない程度には暗いです、笑

何の結論も、アドバイスもない話だけれど、「どうして」「誰かに相談してくれれば」で解消できない悲しみと痛みをみんなで共有しているんだと、そのことに気づくことがちょっと新たな見方を生んでくれるかも知れない。

身体をいつくしんで、人とつながることが、その苦を「闇」、と感じて引きずり込まれてしまう知覚の錯覚にある程度の安全性を担保することになる。

まずは、自分にスペースをあげることから。

人のことも、自分のことも、「分からないんだ」という諦めをきっぱり抱えながらこの世界をみんなで生きていく最初のパーツに、それがなると思う。

悲しい、とっても悲しい、やるせない、怖い、不安だ、と思いながら
ゆっくり息をしよう。

そしてもし、一人で持ってるのもしんどいしかといって誰かに分かってもらえる気もしない、っていう感じがあったら、だまされたと思って「身体を楽にしてみたら?」と提案したいと思う。ボディーワークやらセラピーやらのプロのちからを、なんかのときに使ってもらえたらと思うのです。

それは逃避でなくて、より適切な(あるいは単に別の)悩み方や問い方、というものをもたらしてくれるかも知れない。


(追記)
この記事の反響を読ませていただいていると、この週末、ご自分の中の暗い気持ちが誘発されて苦しかった方も多いようです。
誘発されるよねこれは、みんなの暗い気持ち!
根源的な悲しみ!学習した絶望!
集合意識レベルのものは、1人じゃ持てないから
みんなで分け合おう。

まずは外に出て、ひと呼吸。
それでもダメならプロの力を借りて下さいね。




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