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急急如律令ノ如ク遂行(オコナ)フベシ

使役霊(ドローン)の景色を共有したわたしは、関西軍の敷地を駆ける。麻の三つ揃えと黒の外套は式神の保護をうけ、わたしを支える鎧と化して、風のよう疾(はや)く、忍び寄る闇のように閑(しず)まり、歩みをすすめる。

歩哨の視界を避けて、心斎橋の路地裏を抜けるとけばけばしいネオンに彩られた街並がわたしを出迎えた。山高帽を深く被り、誰とも目を合わせぬよう、人混みにまぎれる。ポン引きの煩わしい声かけや、酔漢やパンパンの破廉恥な嬌声が耳を苛む。

毒々しい光彩に目が慣れてきたころ、わたしの左腕が痙攣し、わたしの首をめざしてジワジワと距離を詰める。攻勢憑依(ハッキング)か──!ほぞを噛み、わたしは霊的迷彩を施しつつ、足裏に力を込めて、飛んだ。

足元に拡がるビルヂングの一角に、軍事外套を纏う者を見留めた。関西軍の攻勢術師だ。

左腕を切り離す。樫の義手は勢いを喪い、うなだれる。背広の式神が左腕を保持しつつ、ビルヂング屋上までわたしを牽引する。

「関東軍の密偵(イヌ)か」

攻勢術師のひくい声が響く。外套をまさぐり、取り出したのは火術の札。施した霊的防御を突破された理由が判明した。わたしと義手を媒介する木霊は火霊に弱い。

火が吹き上がり、金璽鳥(ガルーダ)を形成してわたしに追従する。あれだけの式神を瞬時に形成、使役する程の腕前──。

出し惜しみは死につながる。

そう思えば判断は早い。義手の外殻を破壊し、金属製の芯金を露出させる。『金』と『水』の護符をとりだし、霊を律令憑依(インストール)する。紅蓮の金璽鳥が鼻先に迫る。

「急々如律令!」

禁窮律令(きんきゅうコマンド)入力──

発動。




攻勢術師は驚愕に目を見開いた。わたしの左腕には金璽鳥の首。もがく陽炎の隙間から見えるのは、水を纏うわたしの義手。

「金生水、火虚水乗──!」



「貴様──軍事探偵・晴明(はるあき)ッ!」


【続ク】

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