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グリター・イズ・ノット・ゴールド

ネイビーのベントレー・ベンツ、革張りの後部座席に座る「フランシス・ライリー」は緊張をほぐすため、天井を見上げると長い息を吐いた。

助手席からテイラーがケースを渡してくる。受け取り、キーコードを打ち込み開封すると、中には保護液で満たされたシリンダー。中央にはコンタクトレンズらしきもの。

『はめろ』

血中ナノマシンから耳小骨を通じて、聴神経に声が伝わる。神経質な響きをもつ声に従い、コンタクトレンズをはめる。

グリット、自身のバイタルサイン、スーツの脇に吊り下げた銃の残弾数、誤射防止用の敵味方識別サインが表示された。

『任務はただ一つ。中央銀行で流通する"新金貨"を根絶すること。世界経済を乱す火種は全て消せ』

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「当行の利用を見当いただき、誠にありがとうございます。フランシス・ライリー様」

エントランスで、ストライプ・スリーピースの男が恭しく挨拶する。ヘンリー・プールで誂えたネイビースーツにダンヒルのイエロー小紋タイとチーフを挿した自分は、正しく富裕層に見えているのだろうが、値踏みするような、不快な視線がまとわりつく。

「扱うのは不動産の証明と、美術品だ。確か──」
「はい、当行はタックス・ヘイヴンへの手配を行っております。まずはフランシス様の収入証明や不動産関係の書類を精査し──」

耳元でHQのツバを呑む音がひびく。いや、ツバを呑んだのは自分か?こうも早く喉元に手が届くとは。

「セキュリティが気にかかる」
「当行は民間警備会社とナノマシンによる相互監視体制をとっており、非常時には倫敦に点在する常駐基地より保安官が即時派遣され──」

『強盗だ!』と声が響く。男の笑みが消える。わたしは思わずふところの銃に手を伸ばしそうになる──が、瞬時に行員がデスクやふところから短機関銃を取り出し強盗を蜂の巣にする。周りの客は怯えもせず、仲間内や行員と株の話をつづけている。

動揺を顔に出さぬよう、ブリーフケースの持ち手を強く握る。バイタルサインが激しく波打つ。

「──ま、あのように強盗程度は行員で対処できますので」
「……そうか」

「では、応接室へ案内いたします。ふところの拳銃はお預かり致します」

バイタルサインが一際鋭い山をつくった。

【つづく】

アナタのサポート行為により、和刃は健全な生活を送れます。