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#15 極夜(2021)紹介

2021年創作第二弾です(原稿用紙63枚、21200字)。

文芸サークル『桃鞜社』の発行するアンソロジー『桃鞜 2021春号』に掲載される作品です(桃鞜社のnoteはこちら)。ちなみにペンネームは「かず」となっています。

「極夜」とは、北極や南極などで観測される、一日中太陽の昇らない状態のことです。つまり「白夜」の反対ですね。

今回の合同誌のテーマは『東京・ゲイ・孤独』でした。
『孤独』、というのが感覚的には十分すぎるほど理解しているはずなのに、改めてテーマとして明文化しなければならないとなると難しいな〜と思いました。さらにゲイの孤独、というテーマなので、どうアプローチしたものかな、と。

そこで浮かんできたのが、「極夜」というキーワードでした。明けない夜はない、なんて表現もありますが、果たして本当にそうでしょうか?

2021年5月16日に開催される『第三十二回文学フリマ東京』の、『桃鞜社』のサークルスペース(ク-38)にて頒布される予定です。他のサークルメンバーの作品も力作揃いなのでぜひお手にとってご覧ください。
自分の個人スペースの方では取り扱いがない(予定)のでご注意ください〜。

作品抜粋

 正面でミラーボールがくるくる回って光を振りまいている。
 胃の中の、未消化の食べ物がずんと揺れるのがわかるほど大きな重低音。スポットライトがまばゆく色を変えながらくるくる回って、場内に光を注いでいる。
 そこにいるのは、男ばかりだった。見渡す限りの、男、男、男……。
 隣で踊るトーヤが、何か言った気がする。視界の端で唇が動いたのを確かに捉えた。しかしその言葉は、場内の喧騒にたやすくかき消されてしまった。きっと何か意味のないことを呟いたのだろう。
 ここに立っていると、そういうことを無性に呟きたくなる時がある。誰の耳にも届かない、何の意味も与えられてない、存在する価値のない言葉を。
 ビートが激しくなって場内の興奮ときらめきが増してくる。俺はトーヤの腰を掴んで股間と股間を挑発的に擦り合わせる。すると、俺のズボンの腰のところに札がねじ込まれた。欲望に素直で大変よろしい。気分のあがった俺はステージに膝をつく。そして先ほど俺の腰に札をねじ込んだ、一番前にいる大柄な客の顎を掴んで、その腫れぼったい唇にキスをしてやった。客が、うっ、と幸福そうにうめく。そんな俺たちのキスを見た隣の客が、嬉しそうな顔をして俺の腰紐に札をねじこんだ。いい、いいぞ、――最高じゃないか。
 唇を離すとその間に唾液の橋がかかった。その透明な橋が照明に合わせてきらきら揺れて、やがて途切れた。
 俺はイベントやナイトで少し卑猥な格好をして踊る――そういう仕事をしている。GOGOボーイ、ってやつだ。いや、正確にはそれは副業になるのか? 本職は、二丁目のバーの店員……いわゆる、店子だ。だけど気持ち的には、踊る方を本職だと思っている。なんというか、性に合っているというか、そちらの方が俺らしいというか。いや、俺が俺でいられる場所(俺が俺でいられる場所:傍点)がそこだって言うのが、一番合っているかな? スポットライトに照らされて場内に充満する興奮した男たちの臭気を嗅いでいると、最高にくらくらするのだ。その高揚感、その興奮は、一度味わってしまうと何物にも代え難い。
 客席の群衆の中の遠藤惑の姿が目に入った。

(続きは同人誌でお楽しみください)

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