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『「介護時間」の光景』(222)「足」。9.3 。

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。おかげで、こうして書き続けることができています。

(※この「介護時間の光景」シリーズを、いつも読んでくださっている方は、よろしければ、「2002年9月3日」から読んでいただければ、これまでとの重複を避けられるかと思います)。

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。

 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。


「介護時間」の光景

 この『「介護時間」の光景』シリーズは、介護をしていた時間に、私自身が、家族介護者として、どんなことを考えたのか?どんなものを見ていたのか?どんな気持ちでいたのか?を、お伝えしていこうと思っています。

 それは、とても個人的で、断片的なことに過ぎませんが、それでも家族介護者の気持ちの理解の一助になるのではないか、とも思っています。

 今回も、昔の話で申し訳ないのですが、前半は「2002年9月3日」のことです。終盤に、今日「2024年9月3日」のことを書いています。


(※この『「介護時間」の光景』では、特に前半部分は、その時のメモをほぼそのまま載せています希望も出口も見えない状況で書かれたものなので、実際に介護をされている方が読まれた場合には、気持ちが滅入ってしまう可能性もありますので、ご注意くだされば、幸いです)。

2002年の頃

 個人的で、しかも昔の話ですが、1999年に母親に介護が必要になり、私自身も心臓の病気になったので、2000年に、母には入院してもらい、そこに毎日のように片道2時間をかけて、通っていました。妻の母親にも、介護が必要になってきました。

 仕事もやめ、帰ってきてからは、妻と一緒に、義母(妻の母親)の介護をする毎日でした。

 入院してもらってからも、母親の症状は悪くなって、よくなって、また悪化して、少し回復して、の状態が続いていました。
 だから、また、いつ症状が悪くなり会話もできなくなるのではないか、という恐れがあり、母親の変化に敏感になっていたように思います。

 それに、この療養型の病院に来る前、それまで母親が長年通っていた病院で、いろいろとひどい目にあったこともあって、医療関係者全般を、まだ信じられませんでした。大げさにいえば外へ出れば、周りの全部が敵に見えていました。

 ただ介護をして、土の中で息をひそめるような日々でした。私自身は、2000年の夏に心臓の発作を起こし、「過労死一歩手前。今度、無理すると死にますよ」と医師に言われていました。そのせいか、1年が経つころでも、時々、めまいに襲われていました。それが2001年の頃でした。

 2002年になってからも、同じような状況が、まだ続いていたのですが、春頃には、病院にさまざまな減額措置があるといったことも教えてもらい、ほんの少しだけ気持ちが軽くなっていたと思います。

 周りのことは見えていなかったと思いますが、それでも、毎日の、身の回りの些細なことを、メモしていました。

2002年9月3日

『午後4時20分ころ、病院に着く。

 モスバーガーで買った抹茶のケーキを半分ずつ母と食べた。

 いろいろと話していると、昨日の話と今日の話が混じっている。同じ話を初めてのように話をしている。

 記憶の混乱はやっぱりあるんだと思う。

 再放送の水戸黄門を見る。昔からずっと見てきたものは安心感があるようだ。

 夕食には、入院後に母が苦手になったという昆布があって、それを少し残す。

 40分かかって、夕食を終えたけれど、少し早くなった。

 食事途中で、リハビリ担当のスタッフの人が来てくれて、あいさつをして、次にまたそういう集まりがあるので、来ませんか?といってくれる。

 いつも集まって、いろいろな話を参加者がしていて、そして、このスタッフも自分のことも含めて話をしてくれるらしい。

 こうしたリハビリのような作業をしてくれて、そうした人たちが優秀なおかげで、この1年、母も落ち着いているのかもしれない。

 食事の途中に、少し遠いところから、スタッフ同士の雑談で---食事が長すぎると、1階から苦情が来て----みたいな言葉が途切れ途切れに聞こえてきて、それが本当にその内容かどうかわからないのに、ちょっと気になる。

 午後7時に病院を出る。

 虫の声が聞こえる。

 何か惰性で、ここに来ているような気がしている。

 帰り際に、今日も母に「バナナがあるうちには、2〜3日来なくていいわよ」と言われる。 

 少し悲しい気持ちになる』。

 駅に止まる。人が一斉に降りる大きな駅。

 座って、窓からホームを見ていると、階段のある方向へ、みんなが同じように歩いていく。

 足だけを見ていると、信じられないようなレベルの精密機械が大量に動いているように見えた。
                          (2002年9月3日)


 それからも、その生活は続き、いつ終わるか分からない気持ちで過ごした。
 だが、2007年に母が病院で亡くなり「通い介護」も終わった。義母の在宅介護は続いていたが、臨床心理学の勉強を始め、大学院に入学し、2014年には臨床心理士の資格を取得し、その年に、介護者相談も始めることができた。

 2018年12月には、妻と二人で在宅介護をしてきた義母が103歳で亡くなり、19年間、取り組んできた介護生活も突然終わった。2019年には公認心理師の資格も取得できた。昼夜逆転のリズムが少し修正できた頃、コロナ禍になった。


2024年9月3日

 あれだけ暑い日が続いていて、今も気温が低いわけではないのに、外へ出ると大げさに言えば気絶しそうなほど暑かった真夏の感覚をすでに忘れてかかっている。

 今日も雨が降っている。

 しかも、沿岸ほど雨が強まる、ということなので、どちらかといえば、自宅は、海側の地域になると思うので、まだ警戒しなくてはいけないのかもしれない。

 すぐそばに大きい川が流れていて、こういうときの方が、やはり気になり方が強くなる。

 今がどれだけ増水しているのかは、わからない。

 空は灰色で、その上に、また灰色の雲が重なっている。

支払い

 今年の夏はいろいろなものが壊れた。

 そのうち、洗濯機と、湯沸かし器の請求書が届いた。

 気が小さいせいか、そうした薄い書類が家にあるだけでも、なんとなく借金があるようで、ちょっと落ち着かない。

 ただ、どれもうちにとっては高額で、これだけの金額を支払うには金融機関に行ってお金を下ろしたり、振込をする必要がある。

 今も貧乏なので、また貧乏が進むかと思うと、ただの作業に過ぎないのだけど、ある程度の金額だとドキドキするし、それを振り込んだり、下ろしたりして、残高がグッと減ると、ATMの前でちょっと悲しくなったりする。

 なんだか、そういう気持ちになることも情けないように感じる。

中井久夫 

 自分が臨床心理士になってから、できたら、公開講座のような機会でも、同じ空間で話をしている姿に接したいと思うような臨床家の方々がいる。

 そんなことは、まだ未熟な人間の勝手な願望なのだけど、そうして話をしている声を聞いた方の著書の言葉は、それ以前よりもよく理解できるようになったし、言葉にはっきりしなくても、そこにいることで臨床家としてあるべき姿勢や覚悟のようなものが、伝わってくるように思えた。

 もちろん、そういう機会に出会えなかった人たちの方が多かったけれど、そのうちの一人に中井久夫医師がいた。

 とても幅があって、柔軟な視点を提供してくれる精神科医だと思っているが(それでも私には一部しか見えていない気がする)、この書籍は特に読み手としての力が必要に思えた。

 フロイトは神経症、ユングはほとんど分裂病に近かったであろう。 

 人間の精神衛生維持行動は、意外に平凡かつ単純であって、男女によって順位こそ異なるが、雑談、買物、酒、タバコが四大ストレス解消法である。しかし、それでよい。何でも話せる友人が一人いるかいないかが、実際上、精神病発病時においてその人の予後を決定するといってよいくらいだと、私はかねがね思っている。  

 精神科医の自己陶酔ははっきり有害であり、また、精神科医を至高とする患者は医者ばなれできず、結局、かけがえのない生涯を医者の顔を見て送るという不幸から逃れることができない、と私は思う。 

(『治療文化論』より)

 あまり持ち上げすぎるのは、かえって失礼だと思うのだけど、こうした言葉は、やはりある種の達人にしか表現できないように思っている。


(他にも、介護のことをいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。




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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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