読書感想文「ナショナル ジオグラフィック日本版 2020年11月号」ナショナル ジオグラフィック (編集)

 「まるごと一冊 新型コロナウイルス特別号」だ。
 とりわけ,ジャーナリストのフィリップ・モリスが寄せている原稿が興味深い。「2020年という年は,私たちの生き方と死に方に,想像を絶する変化をもたらした。旅立つ者は独りで逝き,残された者は,独りで悲しむ。葬儀の在り方は見る影もないほど変わった。…新型コロナウイルスにより,死は人類が経験した中で最も孤独な旅となった」。そうなのだ,新聞の死亡告知欄はすっかり,変わった。高齢社会において,当分,安定業種だと思っていた葬儀業界について想う。
 「新型コロナウイルスは,抜目のないウイルスだ。階級やカースト,人種や貧富の差などの社会的格差に長年苦しんできた人々が,特に感染しやすい。また,このウイルスは基礎疾患のある人を狙う」。だからこそ,「人類がこのウイルスや,今後発生するウイルスに勝つためには,世界が今よりも公平で公正な社会の集まりにならなければならないとということだ。ウイルスとの闘いにおいて,人類全体の強さは,私たちの最も弱い部分をどれだけ強くできるかで変わってくるという,明白な真理が改めてはっきりした。人類が全体として生き残れるかどうかは,万人の健康と社会正義の間に直接的な関係があるということを,今以上に深く認識できるかにかかっている。そして社会に根深くはびこる極度の貧困をなくすため,断固とした措置をとる必要がある」。
 私たちの隣人や毎日接する人たちには,低所得だったり,基礎疾患を有する人たちだったり,高齢だったり,エッセンシャル・ワークに従事する人たちだったりと感染し重症化・死亡するリスクの高くなる存在がいる。そうしたさまざまな困難と直面している人たちととともに生きている,この社会なのだ。
 「数」だけが伝わる日々において,感染症という見えなさは,決して,伝わらなさではない。しっかりと社会を見るために,「数」ではない現実をしっかり見ることを今号のナショナルジオグラフィックは教えてくれている。新聞では無く月刊誌だからこそできる仕事をした,と称えたい。


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