読書感想文「新説 坂本龍馬」町田 明広 (著)

 小松帯刀である。つくづく,小松である。19世紀,その地政学的位置のため,自ずと開けてしまった薩摩藩が,「国家」を意識したとき,旧弊を打破することを決断。その薩摩を率い,先導したのは,のちに英雄視される面々ではなく,小松帯刀であったのだな,と認識させられる。
 坂本龍馬とは,自由であったのかもしれないが,それほど独立した存在ではなく,場面を限ってみれば,小松の部下だ。「日本国」の「海軍」を勝海舟も坂本龍馬も必要だと思ったものの,それを幕府が手を引いてしまった以降,その構想の庇護者となった薩摩・小松のもとで動くパーツとしての龍馬であったのだ。
 司馬遼太郎は,近藤長次郎と坂本龍馬をあえて混同させたのではないだろうか,一人の英雄を作り出すため,近藤の活躍を捨象しリーダーシップや才能を重ね合わせてしまったのでは,と思わせる。
 幕末に活躍した坂本龍馬なる人物はいた。マスコミを通じた憧れやヒーロー視から,ようやく歴史学において坂本龍馬が位置付けられる時代になったといえるのだろう。


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