読書感想文「天智朝と東アジア 唐の支配から律令国家へ」中村 修也 (著)

 敗戦後,社会体制はどう動くことになるのか。領土や権益を巡って,開戦した後,終戦は互いの停戦合意に調印した後,決着する。この当たり前の視点から「アフター・白村江の戦い」の検証を試みた意欲作である。
 負けたのは,倭国だ。当然,特使もやってくるし,進駐してくる大規模な一団もある。唐の世界戦略にも組み込まれることにもなる。首都・飛鳥が駐屯により抑えられてしまうのは当然だし,本国への通信・連絡手段も整備される。
 倭国内でも大規模な派兵による疲弊や混乱が生じたのだが,現地の様子を伝えるメディアがない時代である。為政者が替わったことを知らしめる取り組みが「見える化」されなければ,国を治められない。
 国が破れたことで失ったものを,公式な記録に残さなかったこと,いや残せなかったことは,豪族の権力が分立する世の中において,やむにやまれぬ事態だったのだろう。いつの時代においても戦後を生きる人たちは重い者を背負うことになる-これを再確認する一冊だ。


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