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恋慕わしく想ふところ。ー下の巻ー

1)

「遅くなりましたぁー!」

飛び切り明るい声でホテルのフロントに駆け寄る。

フロントマンが
あっ!という顔をして、一度裏のオフィスへ引っ込む。

数秒の後に現れたひとりの男性。

「ご無沙汰してましたー!」

お互いに笑顔で頭を下げ、少しばかり懐かしい再会。

あぁ。来られた。漸く、漸く、ここに来られた。

再会のお相手はkさん。

今を遡ること(やっぱり)8年前。
みはると母は、このkさんの粋な計らいで此処のホテルにお世話になることが出来た。

以来、常宿だ。

赤穂ロイヤルホテル

播州赤穂駅からは少し離れているが、ホテルの前にある小さな小さな川を挟んで、目の前は赤穂城!という好立地。

今回で4回目。

最早、勝手知ったるもう一つの家みたいなもんだ。(ん?図々しいか)

でも、この表現はあながち間違っていない。

フロントでわざわざ宿帳(言葉が古い ^_^;)なんか書かない。

「あぁ。(ナンにも書かなくて)良いです。良いです。」

顔パスだ。

更に続けて

「もう、(ナンにも言わなくても)知ってますもんね。」

こちらの手間も省いてくださるが、向こうの手間(館内の説明etc)もkさんはあっさり省いてにっこり。

千葉からこんなに離れた地に“馴染みの場所”が有るというのも、なんか嬉しい。

2)

では、折角なので8年前の粋な計らいも書いておこう。

おいおい、又かよ!

とお叱りを受けそうだが、登場するのは此処でも“るるぶ兵庫”。(JTBパブリッシングさん、ありがとう)

みはる、42歳の6月。

なんだかトテモトテモ赤穂に行きたくなった。
それも討ち入りの日に!

勢い込んで買い求めた“るるぶ兵庫”に

リニューアルオープン!

と書かれた囲み記事が有った。

どうやらホテルのロビーを写し出したと思われる写真付き記事。

電話番号が載っていた。

どーしよーかな。

あぁ、どーしよーかな。

ええい!ままよっ!

ぎゅっと携帯を握り締めダイヤルをプッシュ。

トルゥルゥルゥルゥルゥ…。

コール音に心臓が爆発しそうになったが、もう後には引けない。

それでも、相手が電話に出ないうちに切っちゃおうか…などと逡巡していると

「はい。赤穂ロイヤルホテルです」

と、こっちではほぼ耳にすることの出来ない不思議なイントネーションで、電話に出たお方。

みはる、額に汗しつつ

「千葉の者です。忠臣蔵の大ファンです。るるぶを見て(電話を)掛けています。討ち入りの日に行きたいです。その日は、ホテル割り増し料金ですか?予約はいつから取れますか?」

緊張の余り、早口にまくし立てる。

電話の向こう側から

別に討ち入りの日でも割り増し料金ではないこと(アホな質問だったか 笑)

予約は3ヶ月前から取れること

をゆっくりとゆっくりと説明してくださった。

然し、その次。

なんだか、偉い遠くから面倒臭いヤツが電話して来たよ…

と思われたかどうかは定かではないが

「この電話で予約、お取りしましょか(↑↑)?(語尾、上げ=関西訛り)」

と聞いてくださったのだ。

ぱぁーん!!

みはるの中で忠臣蔵への愛が弾けた。
付け加えるならば
この、今、正に電話をしているホテルに愛が弾けた。

「行きまーす!」

12月に行きたいのならば、本来は9月から予約開始の筈なのに。

色々矢継ぎ早に尋ねたのに。

ちっとも嫌そうな声をしないで、ソレカアラヌカ、来ても良いよ!と。

この方こそがkさんなのだ。

みはるの #旅する日本語
「忠義、一途に恋心」
のエッセイの中に(勝手に)ご登場頂いた人物。

今、みはるファンのあなたの中で(笑)、点と点がひとつになった瞬間。

おめでとうございまーす!!(笑)

とにかく、以来、ずーっとkさんにお世話になっている。

今回はじゃらんで来たが、いつもはホテルにダイレクトに電話を掛けて、kさんにお部屋を抑えて貰うのだ。

みはるはそんな優しいkさんと
そして、勿論、kさんだけじゃなく、誰も彼もが優しい
赤穂ロイヤルホテルの皆さんに、ちょびっと千葉土産を持っていくことにしている。

文字通り“気は心”だが、ぴーなっつ最中。

ホテルの皆さん、このぴーなっつ最中が仕事の合間のおやつに出る度に

千葉から、うるせぇのが来た!

って思ってるかな。

あっ、イヤイヤ。

今年も、書き入れ時=12月14日が来たなーって思うのかな。

初めてお世話になった時も偉かったのだと思うが、どうやらkさんはもっともっと偉くなって、確か

副支配人

って呼ばれていた。

kさんがホテルで頑張っている限り、みはるはホテルの浮気はしない。

ずーっと、ずーっと

赤穂ロイヤルホテル

だ。

今では、忠臣蔵のお祭りも大事だが、ホテルに行くこともおんなじ位大事。

みはるファン(しつこい)の皆さん!

赤穂ロイヤルホテル、覚えてね♪

3)

「明日は花岳寺へ行って下さいね。」

赤穂駅からホテルまで連れて行ってくれたタクシーの運転手さんは、そう言った。

ん?

もしや、貴方は…。

一昨年、赤穂に来た時も、みはる達にそう声を掛けてくれた運転手さんがひとり。

もしや、貴方は…。

なんだか上手く伝えられずにタクシーを降りてしまったが、同行人と頷き合った。

あの人だよね…。

郷に入れば、郷に従え

みはる達は討ち入りのその日(12月14日)、ホテルで朝食を終えると、先ずは赤穂駅で記念撮影をし、歩を花岳寺へと進めた。

花岳寺は、代々の浅野のお殿様を祀っている由緒正しきお寺。

でも、実を言うと、お祭りの日には来たことがない。

嘗ての、大石内蔵助さん達の偉業を讃える日は、賑々しく赤穂の街を練り歩く“義士行列”がメインなので、花岳寺まで手が回らないのだ。(ごめんなさい (。>д<))

でも、あの運転手さんは、一度ならず二度までも

花岳寺を推して来た。

今年こそ、行こうじゃないか!!

境内に入って数分、そこに居た人たちが大きくどよめいた。

あれ?

あれ?

あれー!?

ぎゃー!

高橋英樹さん!!
(もっと良い写真…有るんだけれど、地元の人たちが写っちゃてるの。ごめんね _(^^;)ゞ)

いきなり、メインディッシュ来たー!!

そう。
何を隠そう…隠す必要ない!!

数年前から、義士行列は、名立たる俳優さんを大石内蔵助さんの役に立て、勇壮に行われているのだ。

みはるは、赤穂の街が、初めて大石内蔵助さん役に俳優さんを呼んだ時から結構見ている。

松平健さん
中村梅雀さん

そうして、今年は高橋英樹さん!!

赤穂のお祭りに集う人々は、いつからか、名時代劇俳優さんを討ち入りの日に見られるようになり、ただでさえ賑わうお祭りは、もう、芋を洗っている海のような有り様なんだ。

背がちびっこくて、人垣を掻き分けられないみはるは、するするするーっと上手に前に出て、目下の所、赤穂に来た時の“すんごい有名な内蔵助さんを見る率”は100%と相成っている。

すんばらしー!

いつもは赤穂の街に張り巡らされるロープのこちら側から、今か!?今か!?と待ちわびる、大石内蔵助さんとその仲間たち。(おいっ!その書き方)

今年は一等早く美味しい所を味わえた。

運転手さん、ありがとう。

この次もみはる達を車に乗せてね!
そんでもって

「花岳寺行って下さいね。」

って言ってね。

4)
さて、今年のお祭りは余程ツイテいたらしい。
いつも、見たい!見たい!と言っているクセに何故か見られずに居た、からくり時計のからくりも見られた。

からくり時計は息継ぎ井戸の場所に有る。

江戸城の松の大廊下で起きた事件を赤穂に知らせる為に、江戸から赤穂までたったの4日半で着いた(元)赤穂藩士ふたりが、大石邸を前に息も絶え絶えに喉を潤した井戸。(即ち、息継ぎ井戸)

それが残されており、その場所に時計台が有るのだ。

いやぁー!やっと見られたよ!

駕籠に揺られる場面のからくり。(写真、上)

今年の赤穂義士祭、大収穫じゃ!

5) ~ 一路、千葉へ ~

沢山のキラキラした夢のような時間と
ホテルの方達の優しさを抱き締めて、お祭りの翌日、帰りの飛行機に乗った。

赤穂駅まではkさん自らが送ってくださった。

「名残り惜しいですねえ…」

みはるがあんまり染々と言うものだから、kさんは声を立てて笑っていた。

伊丹空港。

みはると同行人を乗せた飛行機は、夕暮れの大阪の空にふわりと浮いた。

(これが最後だったらイヤだな)

大抵の場合、帰路に着く頃には、家が恋しくなっている。

でも、赤穂だけは違う。
許されるならいつまでも居たい。

帰り道に、これほど心細くなり

もう、二度とは来られないんじゃないだろうか…

そんな風に怯えるのも赤穂だけだ。

6)
ぼんやりと窓の外を見ていると、胸がぎゅーっとなる。

なんでこんなにも赤穂が好きなんだろう?

みはるは若しかしたら、赤穂の後ろに母を見ているのかも知れない。

お祭りの朝は、決まって赤穂の駅で甘酒を沢山貰う。

千葉から来たんですー!

とか言っちゃって。

ホテルの朝食はバイキングなので、白いご飯をたっぷり食べる。

今回の旅。

母は、その姿こそ一緒に居なかったけれど、みはるの心の中に確実に居た。

母が教えてくれた忠臣蔵を愛し、その舞台の赤穂を愛し。

此処にもあそこにも母が居る。

想い出がちりじりに散らばっては、また凄い勢いで集まり、クルクルとみはるの前を行き過ぎる。

みはるはジグソーパズルは苦手だが、この“赤穂”のパズルのピースは失くしちゃいけない。

羽田空港に着く頃に
“もう赤穂に行けないかも知れない…”
なんて弱気なことを思っちゃダメってみはるはみはるに言い聞かせた。

7)
詰まる所、ふるさとなんだと思う。

みはるは東京で産声を挙げたが、その年に千葉に来ている。

50年間、千葉で生きて来て、他の街をろくに知らない。

そんなみはるが、何度も何度も行きたくなる場所。

行きたくて、居ても立っても居られなくなる場所。

播州赤穂駅に堂々たる佇まいでそびえ立つ、大石内蔵助像。

駅員さんも、義士装束の法被でお客さん達を出迎える。

なにもかもが嬉しくて、なにもかもが愛おしい。

ふるさとの無いみはるが、年に一度だけ帰りたくなる場所。

それが赤穂だ。

また、毎年必ず帰れるって訳ではない所が、愛おしさを際立たせる。

♪ 会えない時間が~ 愛育てるのさ~ ♪

秋が始まるほんの少し手前で、“今年は、赤穂どーしよーかなー?”と悩む。

往生際が悪いみはるは、年々立て込んでくるスケジュールを圧してでも行こうとする。

ギリギリの攻防戦が続く、ここ数年。

みはるは自らに誓うように、スケジュール帳に書き入れてしまう。


12月13日から15日までビーっと矢印を引っ張って

赤穂

って。

同行人は呆れたように言う。


「貴方は、毎年、来年は行けないかも知れないって言ってるけれど、絶対に行くでしょ!!」

もうすぐ真新しいスケジュール帳。
来年も、凝りもせず、ビーっと矢印を引っ張るんだろーな。

ふるさとは遠きに在りて想ふもの

なれど

出来るなら行ってしまいたい


恋慕わしく想ふところ

だ。

赤穂城跡に有る大石神社にて(大石神社は赤穂藩士達を奉っています)

ー完ー

みはる

~2019'12'25(水) 深夜

本日の写メ→ 赤穂の塩を使った銘菓=しほ味饅頭と塩キャラメルクッキー(どちらも美味です)

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