ラフィッツ・ラビッツ スピンオフ「EXTRASTAGE 1」


ある日の二階堂家。
すったもんだの騒動があった温泉旅行から帰ってしばらく後の日曜日。青空が広がり涼やかな風が吹くその緩慢とした昼下がりの空気をぶち壊すように、女性の大きな声が響いた。

「各々方!おのおのがたぁ!」

声の主は二階堂碧。二階堂家の三女である。
言葉遊びが好きな彼女は、その時々で言葉遣いが変わる。温泉旅行の行きがけに読んだ時代小説の影響がまだ抜けていないらしく仰々しい物言いになっているようだ。

「であえ、であええい!」
「・・・なに、どうしたの?あおちゃん」

トレーニングウェアで少し息を荒くしながら部屋から出てきたのは長女の朱里。

「しー姉、リングでフィットしている場合ではござらんぞ!」
「ねーねー、「であえ」はおかしくない?」

続いて読み途中の雑誌を持ったまま、次女の瑠璃が部屋から顔を出す。

「るー姉!のんびり「ムー」を読んでいる場合ではないでござる!こんなものが!」

碧が姉2人に持っていた紙を突き出す。
「つい先程、お菓子箱の上で見つけたでござる」

朱里が紙を受け取り、瑠璃がその紙を覗き込む。
「・・・え?なにこれ」
その紙には、短くこう記してあった。

「お父さんと一緒に世界を救ってきます。 桃」

どうやらこれを書いたのは四女の桃らしかった。
朱里も瑠璃も、内容を飲み込むのに数拍を要した。

「めっちゃスケール大きいねぇ」
「うん・・・」
「どういうことでござろうか」
「ん〜〜わかんない・・・」
「アベンジャーなんとかみたいね」
「ズね。アベンジャーズ」
「失敬」
「本気と書いてマジなのでござろうか」
「どうかなぁ。ちょっと盛りすぎな感じするけど」
「ももちんが言い出しっぺじゃないよね絶対」
「どう見たってお父さんでしょ〜。お父さんがももちん誘ったに決まってるでしょ〜」
「海外の、まだ日本に入ってきてない新しいスイーツ探しに行ってた、とかそーいうオチだったりしないかな」
「その可能性も捨てがたし。父上も、ももちんも、特にチヨコレイトには目がないでござる」
「お父さんも一緒、ていうのがどっちにも取れる感じなんだよね〜」

突然の桃からの書き置き。
この17文字から桃の真意を読み取るには、手掛かりが絶対的に少なすぎた。

「ていうかさ、なんでももちんはこれ、お菓子箱の上に置いてった?」
「ん〜、たぶんだけど、わたしかあおちゃんがおやつん時に開けるから、じゃないかな。自分の部屋だとウチらが見つけるの遅くなるし、かといってリビングだと主張強すぎて逆に恥ずかしい、みたいな」
「あ〜、なるほど。最近あたし間食しないようにしてるからな」
「さすがるー姉、鋭いでござるな」
「ふふ。エッジの利いている女・・・、エッジレディって呼んでもいいよ?」
「ちょっと何言ってるか分かんないでござる」
「これお母さんは知ってるのかな」

3人の脳裏に、にこやかに微笑む母・真白の顔が浮かぶ。

「どうかなぁ〜」
同時に3人から異口同音の言葉が溢れる。

「知ってそうな気もするけど・・・」
「知ってたら「面白そう〜私も行く〜」っつって付いて行ってそうな気もするし・・・」
「どちらもありそうでござ候」

桃はまだしも、言動、行動が本気か冗談か読めない父・銀が同行しているということが、この書き置きの内容の真偽に確証が持てず、残された3人を混乱に陥れているのであった。

「これ、考えても答え出ないやーつじゃない?」
「そうね、連絡した方が早いかも」
「しからば、それがしが」

言うが早いか、碧が腕の端末で桃を呼び出す。
が、電源が入っていないアナウンスが流れ繋がらない。

「電源を切っているようでござるな」
「ダメ元でお父さんにもかけてみよ?」
「承知」

しかし、銀も同じく電源が入っていないアナウンスが流れ繋がらない。予想通り、といったところで分かってはいたものの、軽くため息が漏れた。

「ま、そのうち帰ってくるでしょ」
「あの2人なれば、ゆめゆめやられることもござらんであろうし」
「でも、新曲と、ライブどーする?茉莉奈ちゃんの。ゲストで呼ばれてるやつ」
「「あっ」」

瑠璃から急に現実を突きつけられ、一瞬思考停止する朱里と碧。
「ラフィッツ・ラビッツ」として「アイドル」と「悪党から盗む怪盗」の、二足の草鞋をはく二階堂4姉妹。
この時すでに、新曲のレコーディングと、アーティスト茉莉奈のライブへゲスト参加することが決まっていたのだった。

「もうさ、3人でやろ」

こういう時は決まって朱里が突破口を開く。
切り替えの速さはさすが4姉妹のまとめ役といったところだ。

「だね。こういう事態だからしょうがないね」
「いつ戻るやも分からぬ以上、致し方無し」
「じゃあ、黒ちゃんに連絡入れとこ」

朱里に促され、頷いた碧は端末からラフィッツ・ラビッツのマネージャー黒川に連絡しようとする。

「ふむ、して、ちゃんクロには何と?さすがに「世界を救いに行った」とは言えぬでござろう?」
「そこは海外留学とかなんとか言っとけば?」

疑問を提示した碧にすかさず瑠璃が言い訳を返すと

「あはー芸能人っぽい!芸能人っぽいー!」

朱里がケラケラと笑った。実際しっかり芸能人なのだが。

「ありがちでござる〜」
「たぶんクロ助、信じると思うんだよねぇ。仕事できるけど仕事以外ポンコツだから。んで深く追求してこないと思う」
「悲しいかな、その通りなんだよね〜」

朱里がしみじみと瑠璃に同意する。碧が連絡するとすぐに黒川と繋がった。

「おつかれやまです、黒川っス〜」

「ちゃんクロ、時に、お話がござ候」
「あれ?あおチャンさん、ギャル語やめちゃったんスか?なんだ〜話し易かったのに〜。残念無念スね〜」

ギャル語が碧のマイブームだった時を惜しむ黒川に、無下に朱里が切り込んでいく。

「あのね黒ちゃん、ちょっと急なんだけど、ももちんしばらくお休みするから。よろしく」
「かしこまりっス〜〜〜〜〜え?」
「え?」
「なんスって?」
「ももちんお休みするから」
「マジすか?」
「マジマジ」
「え、どしたんスか急に。なんかあったんスか?」

若干混乱気味の黒川の質問に瑠璃が答える。

「海外留学ね、海外留学」
「・・・。やばばばバハムートっスね〜・・・」

さすがに黒川といえど、こうもあからさまな話は信じないか、と思ったが

「かしこマリーゴールドっス〜」
「「「よっしゃ」」」

心の中でつぶやいたつもりが3人とも声に出ていた。

「ちな、いつお帰りの予定っスか?」
「それがね、まだハッキリ決まってないの。決まったらすぐ連絡するから。ゴメンね」

咄嗟に朱里が返答する。実際いつになるのかは3人にも分からなかった。ひと月後か1年後か。

「承知っス〜。んじゃ次の新曲のRECも3人なんスね〜?」
「そうそう。しばらく3人でがんばるから。会社にはクロ助がなんか上手いこと言っといて。絶対ちゃんと帰ってくるから」

今度は瑠璃が答える。
最後の部分は、心の奥にほんのちょっぴり湧き出ている不安な気持ちを吹き飛ばすために、自分たち3人にも向けられていた。

「瑠璃さ〜ん。じぶん上手いことしか言えないんで、任しといておくんなまし〜」
「それではこれにて失礼つかまつる」
「おつかれやまです〜」

彼がマネージャーに就いてから「おつかれやま」って何?という疑問が毎回浮かぶのだが、些細なこと過ぎて訊くのを忘れる。
今もそのモヤモヤを味わったが、いつものようにすぐにそれは何処かへ行ってしまうだろう。
そんなモヤモヤの行き先よりも、桃と父の行き先の方が断然気掛かりだ。

「これでとりあえずは、OK?」
「そうね、とりあえずは」
「あとは首を長くして帰りを待つばかり、でござるかな」
「だね。とりあえず、2月のライブ、がんばりますか!ラフィッツ・ラビッツ」

「「「レディ・GO!!」」」

ーーーーーーーーー

桃ちゃんを演じる加藤智彩さんがしばらく活動をお休みします。 
それに伴って、お休みの間にラフィラビを稼働させるにしても、なんかバックボーンかあった方が面白いよねと思って前から考えてました。

祐未ちゃん、里紗、茉莉奈も、役をとても愛して演じてくれてるし、お客様にも良い反応をいただいてるし、何より僕自身が好きなんです。

二階堂一家がわちゃわちゃしてるのが。
4姉妹に美香さんの真白さんと藤田くんの銀さんが加わると、書いててホント最高に楽しい。

しばらく3人編成のラフィッツ・ラビッツとなりますが
新曲も出ますし応援していただけたらと思います!

またお話が書けたら公開していきますので!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?