RHYMESTER「The Choice Is Yours」

この曲が気になって気になって仕方がない。どこが特に?と自問してみるけど、全部気になる。頭がごちゃごちゃするので、①歌詞、②なんでこの曲作ったの、③私はなんでこの曲が気になるの。と、とりあえず問いを3つ立てた。③は今のところ言語化する力が絶望的にないけど、①②について整理する文章にする。

①歌詞
何度聴いても、胸がキュッとなる。最後の畳み掛けが。怖いからじゃない。むしろ、優しいパパやママ、先生に自分だけに言ってもらった言葉みたいに。背中を押されるような。自分で考えて、自分の言葉で自分が考えたことを言う。「さあ歌いな」は、聴いてやるから来いよ、と言っているようにも、すでに自分がそうしているからキミも怖がらずにやってみたらいい、と言っているようにも聞こえる。

選ぶのはキミだ 決めるのはキミだ キミだ
考えるのはキミだ 他の誰でもないんだ
揺れるのはキミだ 踊るのはキミだ
叫ぶのはキミだ 嘆くのはキミだ
笑うのはキミだ 他の誰でもないんだ
さあ歌いな
La La La ... The choice is yours

歌詞より

徹頭徹尾選択を迫るメッセージで圧が強い。選ぶ、決める、考える。そして、揺れる。自分で考えずに他人の意見を見聞きして流されている場合ではない。嘆く未来も待っているかもしれない。いや、待っていた。と2022年現在の私は思う。

②なんで、この曲作ったの
「The Choice Is Yours」は、2012.8.22リリース。アルバム『ダーティーサイエンス』先行シングル曲だ。つまり10年前の曲で、その1年前、2011年3月に東日本大震災が起こる。
音楽ナタリーのインタビューによると、この曲を作ったきっかけは震災とその後の世論の動き(このアルバムを作ったきっかけと言ってもいいと私は思う)。長いけれど、Mummy-Dさんと宇多丸さんの言葉を引用したい。

Mummy-D まず「The Choice Is Yours」っていうタイトルが出てきたのが、「フラッシュバック、夏。」(2011年7月発売)を作り終わった頃だっけ? まあ要するに、3.11のゴチャゴチャが冷めやらぬときだったのね。真面目な話をすると、最初はテーマが原発問題に向かっていきそうだったんだよ。「脱原発なのか、推進なのか、あなたならどちらを選択する?」みたいな。でもその後の世の中の流れを見て、自分たちもいろいろ聞いて感じていく中で、問題はそこだけじゃないなって思えてきたんだよね。だから、これは別に原発の歌じゃない。原発に限らず、何かを放置してきた自分たちに責任があるんじゃないか。今後も日本にいろんな問題が出てくるだろうけど、そのときに放置してたら同じようなことが起こっちゃう。そう感じたので、もうちょっと包括的な歌にしようと広がっていったんです。

──確かに特定の問題に限ってもいないし、“怒”の感情一辺倒でもないですね。

宇多丸 やっぱりいろいろ知れば知るほど、そんなに単純な話かっていうね。なんでこんなことが起きて、なぜ今こういうムードになっていて、どうしてそれにちょっと違和感を感じるか。俺は、戦争の前と後の日本人の態度とちょっと似てるような気がするんだよね。完全に被害者みたいなこと言ってるけど、本当か?みたいな。とにかく何か事が起こると人のせいにするっていうのが、元々悪い癖だったんじゃないのかと。そういうところまで立ち返って考えたんですよね。

音楽ナタリーの記事より


「何かを放置してきた自分たちに責任がある」
「完全に被害者みたいなこと言ってるけど、本当か?」
2人の言葉にあるように、物事に主体的に自分の選択として関わっていくことの大切さを痛感し、叫びたい。その衝動を聴き手にそのまま伝えようとしているのがこの曲だ思う。胸に迫ってくる。

②なんでこの曲作ったの(2)
先の音楽ナタリーの記事には、この曲の引用元も紹介がある。
1973年リリース Jackson Sisters 「I Believe In Miracles」
翌年には、共同制作者のMark Capanniがセルフカバーした。この人の他の曲を聴いてみたいと思わずにはいられない声と曲。RHYMESTERの「The Choice Is Yours」は、この2曲、特にMark Capanni ver.を引用している。

なぜこの曲を引用したいと思ったのか。と、私はRHYMESTERの皆さんに訊いてみたい気持ちでいっぱいだ。なぜなのですか。

私はHIPHOPの引用にどういう作法があるのか知らないので見当外れのことを書くかもしれないが、歌詞にその理由を求めてみた。「I believe in miracls」は思わせぶりな態度の相手に、本当の気持ちを見せてほしいと願う曲と受け取ったら良いように思うけれど、風変わりな歌詞でもある。

I don't know what people are saying
Or what games that they are playing
Or if they're playing that same old game on me
People never knowing where they're going or what they're showing
So, come on boys, show a little love for me
I believe in miracles
I believe in miracles
I believe in miracles
Don't you, don't you?
(拙訳)
みんなが何を言っているのか私は分からない。
何のゲームをしてるのかしら。
私にも同じゲームを仕掛けてるとしたら。
誰も分かってないの。自分がどこへ行くのか、どんなふうに見えるのか。
だから、さあ、あなたは私に愛を見せてほしい。
奇跡を信じてる。信じてる。信じてる。
あなたは? あなたもよね?

I believe in miraclsより

特に、"People never knowing where they're going or what they're showing
So, come on boys, show a little love for me" は、恋をしている時の私やあなたよりも、もっと広く人間というものについて歌っている。自分の行く末や振る舞いの意味を誰も分かっていない。この引っかかる歌詞は、「The Choice Is Yours」の歌詞の世界観にも通底している。

また、"I believe in miracles. Don't you?"という歌詞は、もっと直接的にも引用されている。

キミの人生はもっと気高いはず
神に翻弄されるだけじゃないはず
二度と神話は信じないが
その島の奇跡を信じたい Don't you?

The Choice Is Yoursより

「神話」を信じて翻弄されてきた過去を厳しく見つめ、とにかく自分で考え自分を大切にしてほしいというメッセージ。力強く、人生を鼓舞する歌詞に昇華されている。

②の補足
・「I believe in miracls」は、リリース当時ではなく1980年代にイギリスから始まった「レア・グルーヴ」の中で再発見された曲で、80年代末にパブリック・エナミーやアレステッド・ディベロップメントらがサンプリング・ネタに使ったことで話題になったそうだ。
この動きは日本の「渋谷系」にも通じていたはずで、RHYMESTERの御三方もきっとその頃にこの曲を聴いてらっしゃったのではないかと推測する。

・「The Choice Is Yours」シングル盤には、
1.The Choice Is Yours
2.The Choice Is Yours(Instrumental)
3.The Choice Is Yours(Acapella)
を収録(サブスク解禁されている)。
他にMV入りDVDが付いていて、副音声で3人とMV監督tatsuakiさんのお話が入っている。ビールを飲みながらのご歓談のようで、楽しそうだ。MVが終わっても話が長々と続いていて、もうそろそろお開きに…となり、「お相手は〇〇と、〇〇と、〇〇と、〇〇でしたー!」とラジオのように終わるのだが、Mummy-Dさんが随分飲み過ぎたようでテンポよく終わらない。口を開いたMummy-Dさんは咄嗟に「🇺🇦出身Mummy-Dでした」と言う。Mr.Drunkの頭の中はどうなっているのだろうか。偶然とは。

🔴Jacson Sisters ver.

🔴Mark Capanni ver.
La La La のひとつめのLaの歌い上げをぜひお聴きください。哀調を帯びて美しいです。

MVでしょうか。

🔴音楽ナタリーのインタビュー記事

🔴 Public Enemy
「Can't Do Nuttin' For Ya Man」

🔴Arrested Development 「Miracles」


🔵GENERATIONS from EXILE TRIBEが、「I Believe In Miracles」のカバーをしています。
『ALL FOR YOU』(2015.9.16)収録「I Believe In Miracles」


🟠懲りずにもう1回考えました。↓

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