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電脳病毒 #36_226

 廃棄電脳《コンピューター》の残骸が散らばる小山。そこを徐は徘徊する。塑料《プラスチック》の鋭い破片が、薄い布靴の底を刺していく。その破片を靴底から抜き、徐は遠くへ投げ飛ばす。ふと足下を見る。口が開いた肩掛け鞄。屈んで鞄を残骸から掘り出す。徐は中身をあらためる。その中には、英語のメモ数枚、壊れた関数電卓、小型の短波広播《ラジオ》が隠れている。広播《ラジオ》を取り出し、徐は電門《スイッチ》を入れる。音は流れてこない。
 小山の向こう、赤帯の入った軍帽が動く。素早く身を屈め、徐は様子を窺う。この填埋場を警護する兵隊が数人。彼らは襟元を開け、酒に酔い上気した顔で通り過ぎる。彼らの後ろ姿を見送り、徐は小山を駆け下りる。そのまま填埋場を抜け出していく。
 填埋場の入口付近。軍の輸送車が数台止まり、兵隊が暖をとっている。政府の休日支給で、街に繰り出していた帰りだろう。徐は彼らに見咎められぬまま、家路を急ぐ。