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静かな電車

久しぶりに旅をしている。東京から九州までを青春18きっぷで行く予定だ。

置いてきてしまったものを取り戻すように。
置き去りにしてしまったものが帰ってくるのを待つように。

各駅停車の電車に揺られていると、ふと大学時代に乗ったロンドンの地下鉄を思い出した。

広告の類が一切ない静かな車内に様々な国の人が座っている。初めての海外旅で少なくない不安を抱えながら座っていた。

当時の自分は大学生で、社会も国も何も知らなかった。一晩目は満足にレストランにも入れず、コンビニで買ったチョコブラウニーが夕食だった。泊まった安いホステルでは水漏れが起きて、困った顔と身振りだけで、部屋を交換してもらった。

二日目以降は楽しかった。ピカデリーサーカスでみた二階建ての赤いバス、足早に歩く大きな体の外国の人たちをみて、自分がいま海外にいることを改めて知った。

何か明確な目的があったわけではなかった。ただただ冒険のようなことがしたくて、駄々をこねるように海外に行った。そこで確かに掴んだものは多くはないけれど、静かだった電車の車内は自分の中に種を残してくれている。

電車の窓から見える外には家の明かりがほんの少しだけ見える。東京とはまったく違う景色だけど、懐かしい気持ちになる。今回の旅は、行き先も泊まる場所もその日暮らしをする予定だ。電車の揺れを体を預けて、風の向くままに進んでいきたい。


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