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“mod”で違いを生むプロレスラー丸藤正道

先日、人気ストリーマーのしょぼすけさんにインタビューをさせていただきました。彼はイジメによる影響で引きこもりだった中学生時代に、「何か言葉を発しなければ」という思いでニコニコ動画を配信したことをきっかけに、ストリーマーとしての道を歩み始め、今ではゲーム配信、あるいはイベント企画などで幅広く活躍するようになった人物です。詳しくは5月15日に発行となる「月刊ローチケ」をご覧ください。

さて、当たり前のようにストリーマーの方を取材した…と書きましたが、私自身は10年以上まったくゲームをやっておらず、ゲーム実況の動画を見ることもありません。その世界の知識はゼロなので、取材にあたって、本人のことはもちろん、それに付随することも勉強したわけです。多種多様な世界の人物を取材するためには、毎回たくさんの準備を必要とします。これが大変であり、楽しいのです。

しょぼすけさんは、面白いゲーム、バズるゲームを見つけるのがうまく、そして早く、人気ゲーム「Minecraft」も世に発信され始めた2010年頃から遊んでいて、最近推している「Dread Hunger 」も瞬く間に広まっていきました。Minecraftに関しては、modに寛容であること、ユーザーが自由にできる余白があることが最大のヒットポイントだと言いました。

ゲームに詳しくない方のために説明しておくと、mod(モッド)とは、主にPCゲームにおいて、開発・運営元ではなくユーザーが独自に作成して、ゲームに適用可能にしたプログラムの総称。modを追加していくことで、ゲームをドンドン自分流に改良できるわけです。Minecraftはゲームを遊ぶ人がmodによって自分の世界を自由につくれる楽しさが人気の理由です。ちなみにmodは「MODification(改変)」の略と解釈されています。

少したとえは違うかもしれませんが、Web上に公開されている情報を加工、編集することで新たなサービスを生み出す「マッシュアップ」にも共通するところがあると思います。マッシュアップは元々、「混ぜ合わせる」という意味の音楽用語。異なる音源からトラックの一部を抜き出してミックスして一つの音楽にする手法のことです。これを語源にいろいろな情報をミックスして生み出すことをこう呼ぶようになりました。マッシュアップによって生み出されたアプリやサービスは数知れません。

特別なことをするのではなく普通を特別に変える

元からあるものに足し算をする、あるいは掛け算をすることで、新たなものを生み出す……こうした話をしていて、一人のプロレスラーが頭に浮かんできました。NOAHの丸藤正道選手です。彼は基本のプロレス技、既存のプロレス技にひと味加えることで、自分流を生み出す天才です。

たとえばパーフェクトキーロック。キーロックそのものは大昔から使われている腕を攻めるグラウンド技ですが、現在ではフィニッシュになることはありません。しかし、この使い古された技に回転を加えたり、極め方に変化をつけたりすることで、脱出困難なフィニュシャーに昇華させた技が、パーフェクトキーロックなのです。

また、男女問わず多くのレスラーが使用し、一大会で何十回も繰り出され「もういいよ」となりがちなトラースキックも、彼の場合はひと味違います。相手の死角から足を回し込んで決める形だったり、股の間から打ち込む形だったり、仕掛け方に変化を加えることで、同じ技でも他者との差別化をはかっています。

他にも回転エビ固めをリング内→リング外の形で仕掛けたり、エプロンの狭いスペースでパイルドライバーをやったりと、リングの使い方にアレンジを加えて、基本技をまったく別物にしてしまうパターンもあります。丸藤選手は多くのオリジナル技を持っていますが、今のプロレスにおいて、技をまったくのゼロから生み出すのは大変であり、無理が多いケースも多々見られます。

だとしたら元からあるものにプラスαを加えることで、新しいものを生み出す。これはまさにマッシュアップの考え方です。Minecraftでいえば、modを次々加えていくことで、唯一無二の世界をつくりあげていったようなものと言えるかもしれません。誰かの技を名前だけ変えて使うのではなく、“mod”を加えることでアレンジする。こういう面白さが丸藤選手のプロレスにはあるのです。

私は彼のプロレスは20年以上見てきていますが、常に新鮮な気持ちで楽しむことができます。その理由がプロレスの余白をうまく使う闘い方、考え方にあるのでしょう。危ないことや難しいことをしなくても、プロレスを進化させることはできる。丸藤選手を見ていればそれがわかります。特別なことをするのではなく、普通を特別に変える。それが丸藤選手の天才たる所以なのかもしれません。


※公開当時に掲載していた直近の大会情報は混乱を招くため削除しました。

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