見出し画像

誰も知らない三角関係

あの人は今どこで何してるかな。
ギターをうまく弾く、お洒落さん。
『タンタンの冒険』のタンタンそっくりのあの人。
自分とは不似合いだと思いながら、いつのまにか恋をした。
そのことを伝える日は来なかった。
なぜなら彼は私の友達が好きな人だったから。
困ったことに、私たちはいつも三人一緒だった。
そのうち、彼女の想いが通じてふたりは恋人になった。
私はそこから離れようとした。
けれど、二人は三人でいることを好んだ。
それはもう拷問だった。
いつも遠くの景色を見るようになった。
私がアルプスの少女ハイジなら彼女はルパンのフジコだった。
あまりにかけ離れていて、彼女に嫉妬心などはなかった。
私はどんなに転んでもフジコにはなれないと分かっていたから。
でもなんだか悲しかった。
「失恋でもしたの?」
素っ頓狂に彼は聞く。
そうだよ。君に失恋したさ。
そう心の中で言いながら、
「別に…。だって、好きな人とかいないから。」
と小さく答えたら、
「女は顔やで!」
とハツラツと肩を叩かれた。
一瞬にしてフリーズした空気は冷たかった。
その直後、私は彼女と顔を見合わせて爆笑した。
温度の上がった空気の中で、彼は慌てて言い直した。
「違う違う!女は顔じゃない!って言いたかった。」
でも、もうどうでもよかった。
(この人、好きだわ。)そう、心から思った。
そして、私には私に似合う人がいるんだろうなと妙に納得した。
ペーターみたいな人がきっといる。
いつか出会える。
張り詰めたような苦しい日々を、まさか君が壊して笑顔にしてくれるとは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?