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死を間近に見れば、それは世界中より、キミ中に。

友達の犬が死んだ。
もはや絶食に近い状況。お別れ会を開こうと予定を決めた。
そのお別れ会の前日に、亡くなった。きれいな格好ですやすやと眠っているように。というどこにでもある形容詞そのままに毛布にうつらと眠るように息をしていなかった。

それでもこうして最期の姿を飼い主でもない自分が見ることができる貴重なタイミングに感謝する。決して悲しい死に方ではない20年近く生きた犬の大往生は悲劇よりも「お疲れ様」という声とともに労いに近い。

3時間も4時間もお酒を酌み交わしながらどうでもいい話をしながらも時々犬の話にもなる。涙ぐむときもある。友達の家でこの犬の存在は完全に子供のそれと同じで、二人の関係がギクシャクしたり大変な時期も、犬のおかげで二人の絆は結ばれていた時期もあった。犬が二人を繋いでいたんだと考えながら、犬の寝顔を見ていると自然と涙が溢れる。酒の力も相まって。
そうやって上下に感情をソフトランディングさせながら別れの覚悟を少しずつ増やしていく。

飼っているペットの死は、勿論家族同様の死だから悲しい。寂しい。そしてほとんどの場合、飼い主よりも先に逝く。勿論逆はあってはならない。ペットは「死」という概念を知らないから、いなくなった飼い主を永遠に待ち続ける事になりかねない。そんな悲劇よりはこちらが見送る側のほうがいい。

その2日後に職場の同僚の犬好きで知られた女性から、飼っていた犬が死んだという話を聞かされた。数週間前に逝ったという。この犬ももうかなりの老犬で、平均寿命を大きく超えて全うした。

続くなぁ…。

そう思って、彼女の飼っていた犬の話を少しする。会ったことも一度だけあるし、大型犬で人懐っこい犬だった。

そして、今度は、実家の猫がそろそろ。だという。

この猫も20年近い歳を重ねた猫で、先月会った時はフラフラで鼻水が止まらなくて、老猫であることは間違いない。絶食の状態になっているという。絶食は、本人が生命として死の準備を始めていることを意味してると何かで聞いた。2日前から絶食になっているという連絡をもらったので、その日に実家に帰ることにしていたが、なぜかこの日は体調が悪くて身体中が痛み、体温を測ってみたら38度近い熱が出ていた。午前中のことだ。

このご時世、熱は社会悪みたいな存在で、無駄に、あまりに無駄に人を脅かすから、流石に実家に帰ることは諦めた。親にも熱があること、下がり次第明日の夜にでも行くと伝え、その日は寝た。

翌朝、昨日の熱は何だったのだろうというほどに平熱に戻っていて、今日は夜に実家に帰ろうと思っていた。

しかし、その日の午前中に猫は死んでしまった。

親が午前中の仕事から、少し早めに早退して帰ってきたら、ほとんど身動きがとれないはずの老猫は床の毛布から起きて、這うように母親の腕の中に入ってきて、丸まりながら、呼吸が緩やかに止まっていったらしい。母親は猫の名前を呼び続けたが、そのまま腕の中で死んだという。

猫は待っていたのだろうか。
きっと、待っていたのだろう。一人で死にたくなかったのだろう。
猫はよく、死ぬ時は隠れて死ぬというけれど、すべての猫に当てはまるわけではないようだ。

結局僕は、毛布に包まれて今にも起きそうな寝顔の亡骸となった猫と夜に対面した。まだ死後硬直が完全に始まっていないからか、体躯の一部は暖かさを感じるほどだった。何度も撫でているうちに泣きそうになるのを堪えながら、心のなかで親と一緒に過ごしてくれたことに感謝を伝えた。

親はこれからちょっとした時の話し相手もいないようになってしまうのか。そう思うともう少し連絡するペースを増やそうと子供ながらに思う。

そして、今回の件で、僕は2つの死がどちらも一日間に合わない。という奇妙な体験をした。

どちらも前日まで息をしていたのに、間に合わなかった。
それに対して悔しさや悲しさはそこまでない。それは運命だし、同しようもないことなのだから。

ただ、猫の時は謎の発熱が少しだけスピリチュアルな気持ちにもさせた。たまに「家族が病気になると突然謎の発熱が起きる人。」という虫の知らせのような現象を見聞きすることがあるけれど、それに近いものだったのかな。と勝手に思ってしまったりする。不思議な現象だった。

立て続けに二匹と、伝聞で一匹の親しい人のペットが死ぬ出来事が続いてなんともやりきれない気持ちになる。自分の飼っている犬と猫ももうそこまで若くはないし病気だったりする。

だからこそ、こういう哀しい出来事は、前向きに教訓として捉えるしかない。自分のペットに対しても、一緒に入られることが、一日でも長く続くように祈り、そして一日一日を大事にして、共に過ごすことを幸せと感じ、後悔しないように最期のその日まで過ごしていこう。

至極当然のことながら、改めて自分に言うためにノートに。

世界中より、キミ中にしばらく、生きる。

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