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寝室で3ヶ月眠っていた靴を履いた息子とキックボクシング教室、なんて行ってみた。

その靴は夏前に洗われて、乾かされて取り込まれ、ベランダから一番近い寝室にもう3ヶ月は埋もれていた。上の息子(中3)の普段履き。

出掛けるから靴どこ?ということがなかった。他の靴を履いていたのではない。夏用にと買ったかっこいいサンダルも、3回くらい短時間の散歩で履いたくらい。家から出ていないのだ。

起立性調節障害の症状は重ため、抑うつきつめ、不眠症状あり。昼夜逆転することもしばしば。不登校。いや自宅療養中。

これが彼の現状。

行きたいのに行けない。やりたいのにやれない。

そんなことばっかり積み重ねてきた4年間。

そんな彼が、寝室に埋もれていた靴を玄関に置いたのが昨夜。

「行ける」と確信できるイベント前夜はほんとうに久しぶり。「今日も行けないね、ごめんね」という顔を明日は見ないで済む。前日からほろりと泣きそうな私は、落ち着いてぐっすり寝た。

昼前までしっかり寝た彼は、いつもの外出なら時間がかかる着替えをさくっと済ませて、「持ち物なに?」と聞く。大丈夫、全部揃っているよ。じゃあ行こうか。数か月ぶりの昼の外出にまぶしそうな表情。

行き先は、私の知り合いが開く初心者向けのキックボクシングの教室。私自身一度は格闘技をやってみたくていたところ、声をかけてもらったので飛びつき、もしかして?と息子に声を掛けたら「行ってみたい」というので申し込んだ。

いつもだったらあーでもないこーでもないと心配事を繰り返す道中が、口数少なくゲームの話などして落ち着いている。「落ち着いている」ということが、彼にとってどれほど貴重な時間か。

家と同じように話す彼。こんなふうに出先で「いつもどおりに」話したのは久しぶり。初めての格闘技にドキドキしていた私まで落ち着いてしまう。

ジムの最寄り駅で降りる改札を間違え、道に迷ったのに、時間ギリギリに間に合ったのは、彼が落ち着いていて、私のパニックを防いでくれたおかげ。

ジムはこじんまりとして、でも気迫があって、ああ、なんか闘うところなんだな、と気が引き締まる。彼の表情はちょっと不安げ。

外ではなにかと無理をしやすい彼にこっそり「大丈夫?」と声をかけながら、トレーニングは進む。縄跳び、腿上げ、鏡の前で動きを確認、シャドー、パンチミット、キックミット。

ついていくのに必死な私は、鏡の後ろで彼が動いていることだけ確認。インターバルで「大丈夫?」「うんうん」という会話。

言葉に敏感な彼は、丁寧な指導でも、言葉数が多いと気になる言葉を見つけてしまって萎縮することがある。その点、コーチの方が言葉少なに、実演中心に教えてくれるのはほんとうにありがたい。

ポーカーフェイスに汗を垂らしながらトレーニングする息子は、控えめに言ってカッコイイ。ポニーテールからほつれる髪をかき上げているのを見ると、「ああ、やっぱり外に行きたくなくて行かないわけじゃないのだな」とわかる。楽しそう。

締めの筋トレで彼は見事に懸垂を連続2回披露し、「若いなー」と言ってもらっていた。さすがに苦笑いして飛びおりてきた。そうそう、嬉しいよね。と私も嬉しい。

「動けたのが一番楽しかった」という彼とまた静かに帰り道。おなかを減らして物欲しげにケーキ屋を覗く私を引きずって電車に乗り込む様子は、大きくなったなーと。そのひと言。おかげで散財せずに済んだ。

嬉しい。じわじわと嬉しい。

数週間前から予定を立てて出掛けられたこと、ほんとうに年単位で久しぶり。いつだってドタキャンだった。

今日のこと、noteに書いていい?と聞いたら、「ええー」と言いつつ、「まあいいよ」と言ってくれた。大したことが書けるわけじゃない、大したことを書きたいんじゃない。

ただ嬉しかった。すごく嬉しかった。

彼の靴は玄関に帰った。みんないつだってスタンバイ。あなたがやりたいことをやれる日を、いつだって待っている。


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