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【野球の力】「嫌い」よりも「好き」が多い方が良い。

もともと野球なんて嫌いだった。

90年代後半は、今よりテレビでの野球中継が多かった。
特に土曜日の21時は危険な時間帯。野球中継が延長することが多いのだ。

私はこの時間にやっているドラマが好きでよく見ていた。そしてそのあとに放送される歌番組を見るのがお決まりだった。

小学生の私は眠気に打ち勝てるほど夜に慣れてはいない。
「じゃあ録画して寝よう!」と今なら思うが、当時はまだ録画機能が今ほど発達しておらず、指定した時間しか録画はできなかった。
もしも野球が30分伸びればドラマも30分後ろ倒し。録画の最初の30分は野球で、ドラマの最後は録れていないなんてことはザラだった。
30分でも録れていればまだ良い方で、全部野球中継……なんてこともあったが。

まぁそんなわけで、私にとって「野球中継延長」は敵でしかなかった。

ちなみに、神奈川県出身の両親と野球少年だった弟は、当時横浜ベイスターズファンだった。
98年に優勝したときは、大盛り上がりしていたことをよく覚えている。私自身がそのときどうだったかは忘れてしまったが、多分そんなに喜んではいなかったと思う。


さて、そんな野球嫌いだった私がまさか2016年になってハマるんだから世の中何があるか分からない。

きっかけはよくある、「恋人からのお誘い」である。
「見ても面白くなさそうだし」という理由で断り続けてきたが、ふと、恋人の好きなものを自分が好きになれたら楽しいかもしれないと思った。
そして8月の終わりに初観戦が決まった。なんの因果か、両親と弟が好きだったベイスターズの試合を見に行くことになるのだ。
(彼も神奈川出身なので、よくあることなのかもしれないが)

その日は仕事終わりに行くことになっていたので、スタジアムに到着したのは18時半頃。私が到着するころには相手に7点差をつけられていた。
もしかしてとんでもない試合に来ちゃったのでは……と思ったが見てみないことには分からない。
ほとんどの観客は意気消沈していたし、なかにはヤジを飛ばしている人もいた。
隣にいた恋人も申し訳なさそうにしていたが、個人的に勝敗は気にしていなかったので、ときどきルールを聞きながら球場の様子を楽しんでいた。



試合の合間にチアやマスコットキャラクターが踊ったり、ファンがフライキャッチするイベントがあったりなど、球場に来ている人を楽しませる工夫がたくさんあることに気づいた。

さらにフードメニューも充実していることに驚いた。
球場で食べるものといえば焼きそばか唐揚げくらいと思っていたが、選手考案メニューや球団オリジナルメニューなど、ファンが嬉しいフードやドリンクが揃っている。しかもこれがどれも美味しいのだ。

一番驚いたのはマスコットキャラクターである。見覚えのある星型のキャラクターがいないのだ。

「なんかめちゃくちゃ丸い……たぬき? いや、猫……? がいる!」

DB.スターマンというらしい、まるまる愛されボディの可愛い奴がスタジアムをトコトコ歩いている。
どうやら球団名が「横浜DeNAベイスターズ」になったときにマスコットが変わったようで、スターマンはホッシーくんのペットのハムスターという設定らしい。
私はもう、彼の愛くるしい動きに釘付けだった。


きっとこのまま負けるんだろうし、選手だってこの点差は諦めているだろう。マスコットが可愛いことを知ることができただけでも良かった……そう思ったときだった。

ベイスターズの選手が打ったボールが高々と空に弧を描き、そのままスタンドに入ったのだ。それが、私が初めて見たホームランだった。
そしてその瞬間、観客が大きく沸いた。

「選手もファンも諦めていないんだ」

私の中には高揚感があった。

結局試合はベイスターズの負け。おそらく内容的にも良いものではなかったのだと思う。
でも、私は恋人に頼んで別の日の試合のチケットを取ってもらった。ホームランを見たときに感じた気持ちを、もう一度味わいたいと思ったからだ。


その年、ベイスターズはクライマックスシリーズ初出場を決めた。チームとしては12球団で最後だったらしい。
出場が決まった瞬間、スタジアムから大きな歓声が聞こえたことを覚えている。(たまたま近くを散歩しながら試合経過を見ていた)


私はこれ以降、月に1~2回ほど観戦に行くようになった。選手や球団のことを調べ、気づけば恋人以上にハマっていた。
知らない誰かと一緒に勝ちを喜べる楽しさ、負けを共有する嬉しさ、応援に応えてくれる選手、観客を盛り上げようとしてくれるスタッフ。
「なんだ、野球って面白いんだ」と知ることができたのだ。

観戦に行けない日にスマホで試合経過を見ながら一喜一憂するのはもう癖。
母親には「あんたが野球好きになる日がくるなんて」といまだに言われている。子供の頃の自分が今の自分を見たらきっと驚くだろう。


野球を好きになったことで、上司との会話が増えた。一緒に観戦に行ける同僚がいることを知った。仲間が増えた。そして、毎日が少しだけ色づいた。
「嫌い」より「好き」が増える方が絶対に楽しい――。そう思った。


2020年になり、当然のようにチケットを購入し、新しいシーズンを楽しみにしていた。私にとって、野球は日常の一部になっていたのだ。

でも、そんな日常が日常ではなくなった。今、世界の多くの人が命の危機に直面し、さまざまな自粛を迫られている。
野球に限らず、好きなアーティストのライブや映画、飲み会やパーティーなどのいわゆる娯楽は、当たり前にできるものではなかったのだと知った。

私はまたいつの日か、人で埋め尽くされた横浜スタジアムに行き、そこにいるファンとともに大きな声を出して選手を応援したい。
子供の頃は見ることができなかった優勝する瞬間をこの目で見たい。

早くそんな日が来てくれることを心から願い、今日も自宅で過ごすことにする。


ちなみに、野球を好きになるきっかけをくれた当時の恋人とは、もう連絡はとっていない。
野球が楽しいと教えてくれたことに、心から感謝している。きっと彼に出会わなければ、今も野球が嫌いだったかもしれない。

#応援したいスポーツ #野球 #野球観戦 #横浜DeNAベイスターズ

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