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料理はしないと心に誓った男

ボクは料理を一切しない。

コロナのせいで自粛生活となり、世の中は自炊ブームとなった。Youtubeもテレビも時短だの簡単だのと料理の特集ばかり目に付く。というよりも数年前から「料理男子」がブームとなっていることぐらいはボクも薄々気づいてる。そして嫁さんの「料理をしてほしい」という圧力にも薄々気づいている。

元来頑固な男ではあるがここまで頑なに料理をしないのにはわけがある。


ボクは高校時代、今となっては時効だと思うから言うが一人暮らしをしていた時期がある。ほとんどの人には知らせず、学校にも担任の先生ぐらいにしか知らせてない。まぁいわゆる家庭の事情なのだが1年弱ほど一人暮らしをしていた。

さすがに毎日外食というわけにもいかず、今のようにコンビニの商品も充実していたわけでは無いし、そもそもあっちこっちにあったわけでは無いから当時のマンションの近くにも無かった(そういえば当時よく行った定食屋さんの店員さんいつも何かサービスしてくれたなぁ。まだ元気してるだろうか)。

だからやむなく自分で料理をした。当然今のようにYoutubeどころかスマホもインターネットも無かった。頼るのは自分の勘とセンスしかなかった。確か一番最初に作ったのは焼き飯と卵焼きだったか。

出来上がりを食べて愕然とした。

微妙にマズい…。劇的にマズいわけでは無い。微妙にマズいのだ。

一口目からマズいと箸を止めるのでは無く、食べてる途中から徐々に食べるのがイヤになってくるマズさ。

それから何度か挑戦したがボクの料理の腕が上がることは全く無かった。


そうして一人暮らしも終わり、それから数年ボクはキッチンに立つことはほぼ無かった。

唯一、作ったのは当時流行っていた「中華三昧」という袋めん(袋に入ったインスタントラーメン)を作る時だった。

この中華三昧が好きで何度となく自分で作っては食べた。


それから数年経ち、結婚してボクは自慢げにこの中華三昧を嫁さんに作った(この時もう娘にも作ったような記憶もあるがもう生まれていたのか記憶は定かではない)。

そう、実はいつの頃からかこの中華三昧にボクは少しオリジナリティを加えていたのだ。

自信満々に出したそのオリジナル中華三昧を嫁さんは


「私、これ好きじゃない」


自分で料理のセンスは無いと打ちひしがれた高校時代。それから少し大人になり、中華三昧という唯一自分の味方となった出会いを経て少し自信を取り戻し、堂々と披露したオリジナル…

ボクがキッチンに立つことが無くなった瞬間だった。

それからボクはカップにお湯を注ぐぐらいしかやってない。

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