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引き継ぎに失敗した。引き継げる役割と引き継げない役割の違い。

※この記事は「実践」「解説」に分かれています。

カヤック人事部の柴田史郎が「実践」、カヤック社外人事部の神谷俊が「解説」、2人でそれぞれのパートを書いています。「エピソード(リアル)」と「つまりそれってどういうことか(概念・構造)」を知ることができる、という実験的な記事になっています。

【実践:柴田】
人事部長を引き継ごうとして失敗した

人事部の佐藤さんに人事部長を引き継ぐために、自分がやっている内容を説明した。「それはできない」という結論になり、佐藤さんは別の部署に異動した。これだけ書くと悪いように聞こえる。こっちのほうが会社全体、トータルではよい。人事部は困るんだけど。佐藤さんはバックオフィスじゃなくて事業部に異動して既に活躍している。今回は、人事部長を引き継ごうと思ったけど佐藤さんには無理だった話を書く。

引継ぎをしようとしたとき、とりあえず人事部で集まって話した。3日ぐらい。いろいろ話したが全部省いて、私が書きたいところだけ書く。「柴田さんが何をやっているかわからない」というコメントが出ていた。私の感想は「別にわからなくてもいいのでは?ゼロから再度考えて、必要なときに質問するぐらいで」だ。でもたぶんこれは違うらしい。人事の松浦さんがいっていた。「過去の知見をシェアするみたいな発想がない。」確かにそうだな。でもシェアの方法がわからない。佐藤さんは、何回か話したら理解してくれて、その上で「無理だ」となった。それ以外のメンバーへの説明はその前段階で止まっている。

そこで佐藤さん(人事部長は無理だといって、部署異動した人)がアイデアをだした。「柴田検定」という、他の人からみて柴田さんがどういう役割だったかを聞く、という案だ。googleフォームでつくって、回答できる人にしてもらう。質問は以下。

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人事部のメンバーが予想する項目はチェックリスト(画面にのってるのは一部だけ)で回答してもらって、それ以外の自由記述欄もある。自由技術欄で、いくつか公開できそうなものを公開してみる。

・よくわからない管理系のあれこれをとりあえず話す人
・採用に関すること全般。社外の方からカヤックに応募したい人がいるなどの紹介を受けた時や、人事に関わることについての質問を受けた時などは対応をお願いしていた。
・社内ルールを変えたり、新しく作ったりするときは柴田君に相談していた。人事という意味もあるが、全体的に会社を把握したうえで、こうあるべきという案を作れる人という認識のもと、相談相手としてふさわしいと判断した。
・(全社的な)社内行事全般の相談。要件定義とタスク割りが管理部門で一番早いため。これも人事部長だからというよりは、個人の能力的な話。他にも得意な人いるかもだけど、柴田君が僕の中では一番相談しやすかった。
・キーワードは「全社視点がある人」です。全社視点が必要だなと思う物事の相談は、基本柴田君にしています。
・いろいろある気がしたけど、「人事部長としての」がつくと特にないことに気づきました。単に柴田さんに期待しちゃってることは下に書きました。
・柴田さん個人になんとなく期待してしまっているのは、「誰に聞いたらわからない事で、カヤックっぽい回答の参考例が欲しい時」。理念の現実を両方踏まえた上で、どこが気にするポイントなのかがわかる回答がもらえそう。あと、現場は現実、それも短期の現実優先で動くので、会社の長期を見てそうな人のサンプルとして良さそうな印象。人事かどうか関係なく柴田さんに聞きそうなんですが、
逆に言えば、新しい人事部長がそれを聞きたくなる人だったらそれはそれで面白そう。
・誰かがやった方が良いけど、誰がやったら良いのかがよくわからないことをどう進めたら良いのかを相談する。
・相談したこと自体の効果。(解決するかしないかに関わらず、話したことによって相談者の中で整理されたり、一旦冷静になるという効果。これをやった方が良いという漠然とした直感があっているかどうかを確認できる)
・結果的に優先順位がついていく。やらないことの良さ。(柴田さんが受け取ったのちに進められないことは優先順位が下がることにより、物事の優先順位が決定されていく。それが良いのかどうかはよくわからないが、結果的な果たしている機能としてあるような気がする。)
・抽象的な整理。(これは、役割なのかどうかは良くわからないのですが現状を整理するために抽象的なところに一旦持っていくという機能。でも、これがどこかに展開されているのかどうかがわからないので、それが役割なのかどうかがわからない。もしかしたら、一度あげた抽象度を下げて、効果に結びつける人がいたら何かが格段に変わるのかもしれないと、今、気づきました。)
・「受け止めてくれる力」×人事部長という掛け算で、自身のキャリアについて、誰かに相談したい、と思ったときに最初の3名に確実にはいる。期待していたことというよりは、人事部のメンバーを一見マネージメントしていないように見える、その柴田さんだからできるマネージメントは偉大と思っていて、柴田さんが抜けて、急に、人事部がこぢんまりしてしまわないかは心配、一方で、それはタスクとして委譲できるものなのかどうかは分からない。目に見えない価値を大事にするというか、人事部のメンバーを信頼しているというか、はたまた全く信頼していないというか笑 そこは、失われて欲しくないので、上手く行くこと願ってます。
・特に対応がセンシティブなところを対応してくれる人。人事周りで困ったことがあったら、相談するかた。

「他の人から柴田がどう見えているか」を集めたら、人事部のメンバーは「柴田が何をしているかはわからない」ということはなくなったようだ。それが引き継げるかどうかはわからないけど、何をしているかはわかった。つまり、前進した。

他人から見たらどうなのか、というほうがわかりやすい。これは発見ではないか。引き継ぎは自分でするものだと思っていた。私も上のコメントを見て、どういう仕事をしているのか自己認識を改めた部分がある。他人から見たら、柴田の細かい仕事は関係なく「こういうときに相談する役割だ」という「良い感じのくくり方」で認識されてるから、わかりやすいのかな?

人事部長の引き継ぎについては、まだどうなるかわからない。ただ、この引き継ぎ方法については突き詰めていくと、いろんな応用可能性を秘めているように思う。


【解説 1:神谷】ここから神谷の解説です。


人事部長を引き継ごうとしたけど出来なかったという話でした。
様々な視点から示唆が得られるエピソードです。

今回はこの言葉に注目して紐解きます。

「柴田さんが何をやっているかわからない」

なぜ分からないのか?を説明することによって、人事リーダーが抱える特殊性が見えてくるはず。さらに、その特殊性を通して、様々な示唆が垣間見れるはず。そんな思惑をもってを「解説」していきます。


"何をやっているか分からない”要因(1)多様性

まず、これを読んで頂いている皆さんに、前提情報として、僕から見た柴田さんの仕事を確認していきたいと思います。そもそも、柴田さんは、どういうポジションにいて、どのような仕事をしている人なのでしょうか。

私なりに彼のここ数カ月を思い出しながら、彼の役割に関する断片情報を下記にあげてみました。

・面白法人カヤックの人事部長であり、執行役員です。
・経営会議にも参加しています。
・社長やボードメンバーからの相談を受けたり、情報提供を行っています。
・各部門のキーパーソンと関わり、業務プロセスを一緒にいじってます。
・組織内の重要イベントの企画を練ったり、統括します。
・「面白法人っぽさ」の視点で組織構造や文化に関して何かしています。
(…あと、組織のブランディングとかもやってたな。)
(…発注書と請求書の紐づけを効率化するやつとかもやってた。)
等々
(定型の役割に固執している人ではないので、本当に色々やっている)

やはり、よく分からない。

具体的に職務内容を整理して、彼の役割を推定するのは無理かなと。どういう視点で、どんな領域に関与しているのかを簡易的に把握したほうが、彼の仕事を定義づけられると考え、下記のマトリクスを作ってみました。

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横軸は業務のフィールド、縦軸は視座です。柴田さんは、この図の赤破線あたりを主に動き回っている印象です。この赤破線も固定的ではない。右上の象限をメインポジションに、状況に応じてあらゆる守備範囲をこなすわけです。組織の状況に呼応しながらアメーバのように動いている感じですね。

上記の図は勝手に僕がつくったものですが、柴田さんの仕事をイメージするために、少し一般的な視点を絡めながら補足します。

世間的には、この図の右上から左側のビジネス領域に近接するエリアの仕事をやっている人たちには、HRBP(human resources business partner)という機能名称がついていたり、責任者ならばCHRO(Chief Human resource Officer)CPO(Chief People Officer)といった肩書がついている印象です。戦略人事というキーワードで括られる人たちです。

こういう人たちは、ざっくり言うと、人事的・組織的な知見で戦略やビジネスそのものにインパクトを与える人たちです。ビジネスがどのようにして付加価値を生み出しているのか、どうしたら競争優位性を築けるか見定め、HRの専門的な見地からアドバイスを行い、チームをリードする存在です。その意味で、仕事内容も状況に応じて大きく変わる。なかなか職務要件を規定できない人たちです。

また、右下の象限は一般的にはHRSS(Human Resource Shared Service)という機能名称で呼ばれているかもしれません。人事業務の運用や専門的な処理をする人事機能ですね。この人たちの仕事は比較的構造化されており、役割の変化は大きくありません。

このあらゆる領域を彼は駆け回っているわけです。柴田さんは、実際の役職としては人事部長ですが、CHRO的な役割を担っている。実際の機能としては、HRBPであり、HRSSであったりする(もちろん、カヤックにはそのような肩書はないのですが)。そして、時にそれ以外の「何か」であったりする。

このような守備範囲の広さは、小さな規模の組織では珍しくないのかもしれません。人事部長とは組織のなかで「人の事なら何でもやる部署」にならざるをえない側面もあります。さらに、そこに柴田さんの性格や価値観、組織内のメンバーからの信頼、面白法人カヤックの文化・風土の特性(信頼できる人同士で仕事をつくりあげていく風土)などが相まって、彼の仕事は非常に多岐に渡るというわけです。

このような役割の多様性があるゆえに、「柴田さんが何をやっているかわからない」と言われてしまうわけですね。

まずは、柴田さんは色々やっているぞ、という話をしました。

解説を読んだ柴田のコメント
佐藤さんに引き継ぎできないとなったときの振り返り。人事とか気にせずに会社のためになることはなんでもやれることをやろうと考えてやってきたけど、このデメリットについて全く想定せずにやっていたな、これはまずかった。

twitterで見たのか忘れたけど「自分にしかできない仕事をやろう。みたいなこと言うけど、大企業だと自分しかできない仕事は低評価で、誰にでもできる仕事にする人が高評価なんだ。だから自分にしかできない仕事をやるというのはおかしい。」みたいなコメントがあった。この辺に「なるほどなー」となっているのが今の自分なので、神谷さんが解説してくれたような私の動き方は「あまり良くないものだ」という判断になっている。私個人だけで考えると、このほうが面白い人になれるんだろうけど。自分のあるべき仕事のスタイルとして、どういうのが理想なのか迷っているという状況だ。

人事部にいる永安さんという人は、引き継ぎがうまい。どう上手なのかはうまく説明できないのだが、「役割」をつくって、最初は自分がやって、それをいつの間にか次のひとに引き継いでいる。なんでそんなことができるんだ。私はそのまま丸投げしかできない。だから、人事部長を永安さんに丸投げをするという案だけが存在する。永安さんはたぶん丸投げでもいけるだろう、それはわかる。佐藤さんにも採用を引き継ぐとき丸投げした。丸投げというか、何も引き継いでないのに出来る人に依頼するという感じだ。

分野関係なく統合して動けるからこその良さはある。ここはらせん階段状の進化、のようなメリットを感じているのだろう。twitterを引用しておく。Aが「なんでもやるスタイル」で、Bが「引き継ぎできるような仕事のスタイル」みたいなことだ。何がらせん状に進化しているのかは、わからない。


【解説 2:神谷】
"何をやっているか分からない”要因(2)相互作用性

先ほど、柴田さんの仕事について、下記のように説明しました。

柴田さんは、この図の赤破線あたりを主に動き回っている印象です。この赤破線も固定的ではない。右上の象限をメインポジションに、状況に応じてあらゆる守備範囲をこなすわけです。組織の状況に呼応しながらアメーバのように動いている感じですね。

「状況に応じて」「呼応」という言い回しから見て取れるように、柴田さんの仕事の多くは、柴田さん以外の人によって規定されるという特徴を持っています。これは、一般的にCHROやらHRBPと言われる人たちも同様でしょう。

仕事内容が「ビジネス領域(先ほどのマトリクスの左側)」側になっていくほどに、ビジネスとの相互作用の中で仕事が決まっていきます。例えば、特定のプロジェクトを手掛けるクライアントワークのチームを強化するとか、マーケティングで得たものを組織開発に展開するとか、パートナー企業との共同チームの編成などです。

こういう仕事は、市場や顧客の要望によって変化は生まれるし、スピード感をもって対応していくことが求められる。つまり、現場の状況や戦略の進捗に応じて、支援・支持・媒介・促進・補助的な関わりを持つことが多くなるのです。

Storey(1992)という研究者は、人事のこのような動きについて、「助言者(advisors)」「奉仕者(handmaidens)」と表現しています。現場に対して直接的に貢献する主体者ではなく、間接的にビジネスの強化を促すサポーター的な存在です。

また、近年HRビジネス界でよく知られているUlrich(1997)は提供価値(deliverable)という概念を用いて、サポーティブな役割を説明しています。「創出価値」ではなく、敢えて他メンバーへの「提供価値」と表現している点が興味深いですね。つまり、誰かに対して、価値を届ける支援的な存在、誰かの価値創造に役に立つ存在、サポートする存在と説明をしています。

このような動きをしているわけですから、「柴田さんが何をしているか分からない」となるのは当然といえば当然なのでしょう。柴田さんの役割が支援対象の悩みや問題によって変化する。臨機応変な対応ゆえに、そこに一貫性や連続性を見出すことは難しいのでしょう。他者との関わりのなかで柴田さんの仕事が規定されていくために、そのネットワークの「外」にいる人には彼の仕事が見えなくなってしまうのです。

解説を読んだ柴田のコメント
これは確かにそう。相手と状況によって変化する。事業内容が複数あるため、よりややこしくなる。その結果として、人事部の成果の定義、目標設定がすげー難しくなる。そしてこの目標設定の難しさが評価の難しさに結びついてくる。仮に私が社内で働き続けてもよいと思われるぐらいには評価されているとする。じゃあ、人事部の他のメンバーも同じような活動をしないと高い評価にならないのか?とかは考えた方が良いだろうな。というか、今の今まで、同じ動きしたほうがいいと思ってた。それはさすがにないのでは?

解説1も踏まえて別の話。「なんでもやる」はいいんだけど、わかりやすい人事の役割をはみ出したときに、その分野においては、もっと得意な人がいることが多い。自分がやっていいのか?という不安が絶えず発生している。これがきつい。しかし、誰もやらないし、一番得意そうな人も忙しそうで動けないから、とりあえずやってみて、詳しい人からフィードバックもらって修正したり、本来やるべきチームの体制作りから支援したりする。


【解説 3:神谷】"何をやっているか分からない”要因(3)粘着性

柴田さんのやっている仕事には高い「粘着性」があるから分かりにくいという話です。まずは、この「粘着性」という概念について触れていきます。

MITの教授であるVon Hippel (1994)は、情報粘着性(stickiness)という概念を提示し、特定の個人の持っている情報の伝わりにくさについて説明しています。ある特定の領域や人間関係のなかで生み出された知識や情報は、その文脈を共有できていない「外」の人間には伝わりにくいというものです。

例えば、自分の仕事仲間と話題になったホットなテーマを、家族に話しても全然理解されなかったりすることがあります。

これは、そのテーマが粘着性を帯びていたからと言えます。つまり、仕事仲間のあいだで暗黙的に共有している、知識、価値観、経験、人間関係などがあってこそ、分かり合えるテーマだったわけですね。

また、この情報粘着性について研究したSzulanski (1996)は、粘着性を帯びやすい要因の1つとして、因果関係の曖昧さを提示しています。

つまり、状況(原因)によって、対応(結果)が決まっていない情報は
伝わりにくい
ということです。

例えば、柴田さんのやっていた仕事が、

〇月になったら→人事評価のアナウンスをする。
〇〇さんに××と言われた時に→この書類を作成する。

というように因果関係のはっきりしたものであれば、
柴田さんの仕事はある程度周囲が理解しているはずだし、
引継ぎもスムーズにされたでしょう。

しかし、相手、相談内容、時期、業績の状況、文化的な影響、戦略的な影響、自分の業務量など、無数の変数によって、柴田さんの対応(優先度や対応内容)が規定されるならば非常に因果関係が曖昧といえる。

このような場合、非常に粘着性が高いため、隣の席にいたとしても「何をしているか分からない」となる可能性が高いと言えます。


「見えない仕事」を見える化して、見えたものは何か


そこで、柴田さんたちはアンケートで彼の仕事を見える化したわけです。

これは、先ほどのUlrichの「提供価値(デリバラブル)」の考え方を利用したアプローチですね。柴田さんの関わりは、間接的・支援的な関与なので、本人は、自分の仕事が結果的にどのような「提供価値」を生み出したのか、自覚的ではないのかもしれない。でも、価値を受け取った側は、柴田さんに何らかの存在価値を感じているわけですから、それをアンケートによって訊くことで、逆説的に彼の仕事を捉える事ができる…そんな発想です。


そこで見えてきたものは何だったでしょう。私はそこに「個人的」なつながりの強さを見ました。

まず「柴田さん」「柴田君」というキーワードの多さが目につきました。文脈からも「人事部長」という役割を超えて、彼個人が人間的に信頼されているのがよく分かる。

また、柴田さんの個人的な強みについても言及されていましたね。抽象化して、要件定義をし、優先順位をつけたり、タスク割りしたりする…そんな強み(人事部長の専門性ではなく、あくまでも柴田さんの強み)が対人関係のなかで充分に発揮されているのも分かります。

さらにこのコメントです。

いろいろある気がしたけど、
「人事部長としての」がつくと特にないことに気づきました。

これらの結果から考察できることは、柴田さんは、「人事部長」として仕事をしていたわけではなかったということ。「柴田さん」だからできる仕事を人事+αの領域でやっていたということです。

自分の強みを活かして、自分とつながっているネットワークのなかで、自分で仕事をつくって、「柴田さん(人事部長としてではない)」の影響力を高め、自分なりの価値を提供していたのです。

このように考えると、今回のケースで考えるべきポイントは、「人事部長を引継ぐ」というテーマ設定なのかもしれません。

実際には、柴田さんしか見えない・できない「柴田さんの仕事」です。それを「人事部長」という一般的・普遍的な役割に基づく「人事部長の仕事」として設定したことで、不安や混乱が発生したわけです。今の「人事部長の仕事」は、柴田さんがつくったものですから、柴田さんしかできない。引き継ぐと言っても「何を?」となってしまうのは分かる気がします。

仮に、そのポジションを誰かに任せるのであれば、「引継ぎ」ではない方法が必要なのかもしれません。さきほどの「粘着性」の観点から考えると、引継ぎが巧くいく仕事というのは、形式知化されており、因果関係が明瞭な業務です。つまり、個人的な特性は関係なく、誰がやっても同じ結果を導ける仕事です。

<引継ぎが巧くいきやすい仕事の特徴>
仕事における個人特性の影響:小さい
前任のアプローチの再現可能性:大きい

前任のやり方が「ベストプラクティス」と分かっていて、それを受け取り模倣することで同様の付加価値を効率的に生み出せるという算段がたっている。だからこそ、「引継ぎ」という行為に経済合理性が生まれるわけです。

反対に今回のケースのように、前任の個人特性が業務に大きく影響していたり、後任にやらせたときに再現可能性が低いと思われる場合は、「引継ぎ」をしてもビジネスメリットは小さいでしょう。

引き継げないとき、どうするか?

その場合は、新たに役割の開発を進める方が効率的なのかもしれません。後任に、チャレンジブルな機会(以前の記事で取り上げた氏原さんの事例のような)を提供し、その機会を通して、自分なりのネットワークや強みの発揮方法を学んでもらうようなアプローチです。

次世代経営者の育成と似ていますね。違うやり方で、そのひとの強みによって、自分を超えさせる。要するに育成・学習機会の提供ですね。かなり長期的・戦略的に進めていく必要があります。

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人事の役割は非常に幅広いです。自分の業務を受け渡す際に、どのように渡すのか。組織の状況、業務の特性、人の特性によって、判断は分かれるのでしょう。「引継ぎ」か、「役割開発」か、業務の当事者である自分が判断していく必要があります。


非常に難しい判断が求められますが、人材不足のなかで非正規社員や業務委託を検討したり、リモートワークの導入によって、明示的な情報共有が求められたりしている今だからこそ、この点については一層、意識的になっていく必要があるのでしょう。

神谷さんの解説を読んだ柴田のコメント
個人名とそこに紐づく仕事の話。これも、今のトレンド的なこと(いや、しらんけど)からすると、こういう「自分の名前で仕事をとってくる〜」みたいなほうがあるべき姿なのかな。自分の特徴を活かした仕事をしている感じはする。

神谷さんも「カヤックは会話の中に個人名がたくさん出てくる」という話をしてきた気がする。ここがいつも理解できないから、ちょっとこれを機会に考えてみよう。例えば、私も警察官に関しては、あの格好をしていて交番にいたら、警察官個人のパーソナリティはおいといて、信頼して相談するだろう。警官だから大丈夫かなという理由で。しかし、カヤックで働いているときは、それと同じように「この役割だから大丈夫だろう」という判断は全く行わない。そこになにかあるのか。

でもやはりこれも、300人ぐらいで、「知り合いの知り合いで全社員」ぐらいだから成立しているだけな気がする。人数増えたら成立しないのでは?という話だ。あとはたぶん、カヤックは20年かけて300人になっている、という観点もありそうだ。ゆっくり人が増えていった。つまり構成するメンバーの「成熟度」みたいなことによって、3万人でもこの体制でいけるかもしれないけど、時間かかりすぎ、みたいなことはありそう。この300人は毎年相当数が入れ替わっているのだけれども。そこは動的平衡みたいなことかもしれないけど、脇道過ぎるからおいておこう。でも、入れ替わりつつ、ほんの少しだけ大きくなっていく20年というのは結構面白いところだ、たぶん。
最後にまとめ。なんとなくずっと考えていたのは「後任が自分と同じやり方である必要はない」ということ。後任の人がAさんだとして、私は退職するわけではなく会社に残るわけだから、Aさんが得意なことはAさんに任せる、苦手なことはそのまま私が引き継ぐ、Cさんに一部引き継ぐ、とかをやりながら調整していけば、新しい後任の人を中心として「得意なことを中心とした新しい業務分担」ができるのでは、ということだった。ただこれだけだとどうにもうまくいかない。というかほとんど引き継げないな、という感じがしていた。

神谷さんが書いていたように「後任に、チャレンジブルな機会を提供し、その機会を通して、自分なりのネットワークや強みの発揮方法を学んでもらうようなアプローチ」これは使えそうだ。しかしこれが、引き継ぎになっているのか謎だ。

あー、ちょっと待てよ。再現性が低くて、属人的な要素が強い業務は引き継ぎにくい。ただ、再現性が低くて、属人的な要素が強い業務が「その人の強みが最大限発揮されている業務」だと考えており、その集合でチームをつくることが理想だと私は考えている。だから、「チャレンジブルな機会を提供し、その機会を通して、自分なりのネットワークや強みの発揮方法を学んでもらうようなアプローチ」で、自分の強みを発揮できる人の数を増やせば、その人達の組み合わせで、どうにか成果出せるだろう、ぐらいのことを本当は考えていたのかもしれない。

あとは、事業ステージとか、社員数とか考えると、この仕事のやり方だと全然ダメ、っていうことがおきてるんだろうな。いまのカヤックはそこだろう。なので、仕事のやり方を根本的に変えたほうがいいかもしれない、ということを考えている。その結果として「あるべき自分の仕事のスタイルとして、どういうのが理想なのか今、迷っている」という感じになっている。

んー、「属人性が高い仕事」とか、「個人の強みが活かせる仕事」が出来た方が人間は幸せだと思ってやっているわけだが、これが単なる思い込みにしか過ぎないだろうし、ここを客観的に考えるべきなのだろうな。それが言葉にできただけでも収穫だ。好き嫌いでいけば、もう「得意も不得意もでこぼこしてて、でも全体としては成立しているチーム」が好きだけど、これは好みの問題だ。これは「面白法人としてどうあるべきか」という話だな。結論すぐに出ないから、寝かせてずっと考えておいた方がよさそうなテーマだ。

2020/2/28追記:こんな記事が公開されていたのでシェアします。

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柴田:ぜんぜん関係ないのだが、twitterをフォローしてくれたり、ツイートしてくれる人をみて、面白そうな人に連絡して会いに行って話すというのがひとつありだとおもった。ブログ書いた後にフォローしてくれる人は、話しているとある程度興味が似ている人のはずで、たまにやっているがこれがよい。地方の人だとオンラインでいいんだけど。

神谷:それはありですね。僕はTwitterをやっと活用し始めたばかりなので、うまく使えていない。どんどん絡んでくれたらと思います。

過去の記事はこちらをご覧ください。


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