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主人公はヘジテイト(気後れ)するものだ

冒険に行く。
謎を解き明かす。
強大な敵を打ち倒す。
嫌いなヤツと協力する。
やったことのない偉業を達成する。
それから、誰かと恋仲になる。

物語の主人公はいつも、私たち観客には到底できないようなことを成し遂げる運命がある。
それは物語が、主人公をそういうものとして扱うからである。
そして主人公が、物語を通して、観客にそのような運命を見せる役割を持つからだ。

しかし、例えばそのような物語・主人公をあなたが誰かに提供しなければならなくなったとする。
それは別に創作でなくとも、何らかのルポやドキュメンタリーでも、とにかく「主人公」というものがいる物語、と捉えてほしい。

そのようなときですら、どこか、その物語が味気なく、興味の持てない、面白みの欠けたものに感じられることはないだろうか。

それは多くの場合、物語に起伏がないからだとされる。
それならば起伏を作ろう、と。
けれど、物語の起伏など一体どうやって作ればいいのか?

その方法はいくつもあるが、中でも「冒頭」にひとつの起伏を作る方法が存在する。
それは、「主人公に気後れさせる」ことである。

朝。鳥の声。
主人公がすやすやと眠っている。
目覚ましが鳴り、おもむろに起き始める主人公。
ボーッとしたまま朝の準備を始め、いつものように家を出るーー
そんなときに、大爆発が起こる。
思わず倒れ込む主人公。
あたりを見回せば火の海だ。まずはここから離れなければ……

……さて、このような状況に陥った主人公が、物語において背負う運命とはなにか?
そう、この爆発の原因を突き止め、犯人を捕まえ、街を平和に戻すことである。

けれど、そんなことを誰がしたいと思うだろうか?

そんな面倒事に関わるくらいなら、さっさと国に補償を求め、荷物をまとめ、どこか別のところへ移り住むべきだ。
そう思うに決まっている。人間として当たり前だ。

つまり、物語の冒頭で主人公を気後れさせるというのは、この「物語」という遠い世界の話を見る「現実」の観客に、主人公も人間なんだと示す方法である。
そのような人間味を見せることによって、まず、主人公に感情移入してもらいやすくなる。
それから、観客にも、これから始まる冒険の心構えをしてもらえるようになる。

※この冒険とは、先述したように、特別な、ファンタジー的な、現実では全く起こりそうもない、そんなものでなくて良い。
むしろ、そうでないドキュメンタリーやルポのほうが、現実に近い分、この「主人公に親近感を抱かせる」方法の恩恵を受けやすい。

なんにせよ。

誰かと恋仲になる。
やったことのない偉業を達成する。
嫌いなヤツと協力する。
強大な敵を打ち倒す。
謎を解き明かす。
それから、冒険に行く。

そんな運命を背負う主人公は、ぜひ立ちすくませよう。
そうすることで、起伏がなく、つまらないと言われる物語に、観客が夢中になってくれるきっかけを作ることができる。

誰だって無謀な挑戦は嫌だ。冒険ではなく、様子を見ていたい。安全な場所で、ぬくぬくと暮らしたい。
なら、主人公が抱くその感情を正直に表現する。
そうすることで、物語は冒頭から起伏が生まれる。
観客は主人公に共感し、主人公が始める冒険に対して、心構えができる。
そうなればもう、物語は受け入れられたも同然だ。

まずは、主人公を気後れする。
そういうものだということを、考えてみる。



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