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時雨の恋の唄4

「Kくんってよく料理するの?」
「まぁね、一人暮らしだし。かぐやさんは?」
「私もよくするわ。実家暮らしだけど両親とも家にいないからね。」
そう言ってため息をする。雨が強くなるたびに神社の屋根に当たりパラパラと音がなる。俺たちの息遣いの音も聞こえなくなる。
「そういえばKくんはなんでここに住んでるの?やっぱり学生だから?」
「そうだよ。かぐやさんは?」
「私も学生よ。ということは同じ大学かもね。」
「多分な。俺は民族と文化の研究してるんだ。」
「私は文学。」
研究室あるあるを言いつつ、わかったことはかぐやさんも同じ大学の学生だったことだ。
「まぁ、本当に会っちゃったら気まずいよね。」
かぐやさんは笑いながら言う。俺もその意見には賛成だ。顔を見てがっかりしたり、またその逆もある。それに顔を見ないからこそ会話を楽しめるし、無駄な気を使わなくて済む。
「それもそうだな」

次の日、昨日と同じく雨だ…。大学の図書館で本を探しながら昨日みたいに話せると期待して独り言を言う。
「少し期待してもいいかな?」
「何を?」
「!!?」
「静かに、私よ。振り返ったらダメ。」
「かぐやさん?…どうしてわかったんだ?」
「あなたの声が聞こえたのよ。」
「そ、そうか。」
「今日も雨が降りそうよ…、またあってもいいかしら?」
「もちろん、今日は暇だし…」
「ほんとね?なら」
そう言って俺の両目を手で覆い耳元で
「約束だよっ。」
と囁いた。

しばらくボーッとした後に後ろを振り返る。当然彼女はいない。ただ彼女の残り香は残っていた…。柑橘系を彷彿とさせる爽やかで甘く、夏が近づいていることを知らせるような香りだ。
「……こんなことされたら…、期待するじゃないか…。」
彼女の手の柔らかさ、爽やかで甘い匂い、彼女の美しい声。そして…背中に当たっていたー。
「……これってやばくね?」
授業の鐘がなるまで俺は惚けていた。

つづく

#小説 #恋愛系 #創作 #しっとり #雨

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