【 劇場版「美少女戦士セーラームーン Eternal」《前編》 】 感想vol.024 @あべのアポロシネマ スクリーンプラスワン 21/2/21
21/日/ビスタ/監督:今千秋/脚本:筆安一幸/作画:只野和子(キャラクターデザイン)
月に代わっておしおきよ!と、言われて痺れたあの日は昔。まさか劇場で再開する事になるとは、夢にも思わなんだ。
昔のテレビアニメ放送は、男の子であった私の胸さえも、熱く焦がしてくれた。毎週土曜日の夜は、興奮しながら観ていたものです。
そして、その後のステーションブレイクで流れる『暴れん坊将軍』には、いつも驚かされていた。白馬に乗った松平健がカッコいい。まあ、こっちは観てなかったけど。
可愛らしい主人公たちが必死の覚悟で戦う姿。敵もなかなかにグロテスクで、残酷描写も多かった気がする。そして適度に放り込まれるギャグ。そういったものが、私の心を捉えていたのでしょう。
曲も素晴らしくて、『ムーンライト伝説』をよく口ずさんでいたものですわ。
本作は『美少女戦士セーラームーン Crystal』の劇場版。こちらは、昔のテレビシリーズとは違い、原作を忠実に描く事を基本としているらしい。漫画は未読なので、比較する事は出来ませんが。
新テレビシリーズも未見のまま劇場にて観賞。入場者特典がある事を知らず、セーラームーンのカードダスを渡された時は、急激に恥ずかしさが込み上げてきた。おじさんを辱めないでよ。
上映が始まり、いきなりつまずいた。全然話が分からない。
後で分かったことだが、今作で描かれる「デッド・ムーン編」というのは、昔のテレビシリーズで云う所の『SuperS』に相当する。私が熱中して観ていたのは、その一つ前の『S』までであったのだ。
ウラヌスやネプチューンが出ているから大体分かるだろうと高を括っていたのが痛恨の失態。道理で知らない訳だ。それでも理解しようと頑張りました。
作画の印象は丁寧。十番商店街などのお馴染みの背景は、セル画時代を思わせる様な手書き風であったし、変身シーンもなかなかカッコいい。ギャグ・シーンも健在で、昔ほどドタバタ感はなかったが、ああ、こんな感じだったかなと懐かしさを感じられた。
ただ残念なのは、やはり声優交代。うさぎ役の三石琴乃を除いて、一新されてしまった。当時を知る者としては寂しい限りだが、これは致し方ない事だ。
だが往年のファンを大事にしているのだろうか、起用も配慮がなされ、当時の声優に近しい声の人を当てている。
ただどうしても、レイちゃんとまもちゃんだけは戴けなかった。レイちゃんは富沢美智恵の高飛車な感じが良かったし、まもちゃんは古谷徹のあどけない感じが良かった。今作ではどちらも大人び過ぎていて、ちょっと冷たさが勝ってしまっている。
そして重要なのが、劇中で再三に渡って描かれる、東京タワー。
高度経済成長期に東京のど真ん中に建てられた、近代日本を象徴する電波塔。やはり東京を東京たらしめんとするものは、いつだって東京タワーなのだ。
セーラー戦士とタキシード仮面が守るものは仲間。仲間=人類。人類=地球。地球=日本。日本=東京。東京=東京タワーという図式が成り立つ。
地球を守護に持つ、まもちゃんの家の窓は、いつもカーテンが開け放たれ、そこからは東京タワーが望まれている。東京タワーが安全である限り、世界の平和は保たれているのだ。
田舎者の私としては、「けっ、いっつも東京ばっかじゃん」と拗ねていたが、この事に気付く事が出来てからは、「東京って良いよね」って思っている。また東京タワーを昇りに行きたいものよ。
ストーリーについて。うさぎ達は十番高校に進学(レイちゃんはエスカレーター式にT.A女学院の高等部に進学)し、まもちゃんも医学部に合格、ちびうさも元の時代に帰る事となる。更には今世紀最大の皆既日食が見られるという事で、桜舞う四月はお祭り騒ぎ。未来に戻る前に、共に日食を見る事にしたうさぎとちびうさ。新月が太陽を覆い初め、次第に辺りが薄暗くなる中、二人は助けを求めるペガサスと出会う。ゴールデン・クリスタルの封印を解く事の出来る、選ばれたる乙女を探しているのだと。なんやかんやで未来に戻る事を辞めたある日、ちびうさの夢の中にペガサスが現れ、力を貸してほしいと告げる。時を同じくして、デッド・ムーンサーカスを名乗る謎のサーカス団が街にやってくる。一団の狙いは悪夢の力により、幻の銀水晶を手に入れて、月と地球、やがては宇宙までも支配しようと目論んでいるのであった。日食以後、体調に異変をきたしたまもちゃん。しかし、うさぎを思うあまりに言い出せずにいた。そのうさぎも、自分のせいでまもちゃんを危険な目に合わせてしまっていると悩む。ちびうさは、ペガサスから「乙女」と呼ばれて、必要とされる事に喜びを感じる。やがてそれは、淡い恋心となって小さなその胸の裡に兆す。一方、街を襲う傍若無人なサーカス団と戦うセーラー戦士たち。「夢」を操る敵との戦いの中で、理想と現実のどちらを選ぶべきかと悩まされるも、仲間を守るために、その命を燃やすのであった。
いや、複雑。こりゃ難しいって。80分で描くには要素が多過ぎるもの。
そりゃ速足感が出ても仕様がないわな。大人を相手にしているのなら、120分でも良かっただろうが、一応子供向けという前提条件があるのだろうから、この尺で見せ切らなければならなかったのだろう。
物語を理解しようと追いかけ過ぎて、なかなかに疲れてしまったが、エンターテインメントとしては楽しめた。
ストーリーの根幹となるのが、それぞれの「夢」について。セーラー戦士たちも、普段は純情可憐な少女なのだ。ごく普通の女の子が抱く様に、それぞれに将来なりたいものという夢がある。しかし、セーラー戦士である以上、プリンセスセレニティであるうさぎを守るために戦わなければならない。
そうなのだ。彼女達は単に襲い掛かる脅威と戦っているのではない。愛する仲間を守る事を第一優先として戦っているのである。世界人類を守るという意識は非常に壮大だが、重圧が多き過ぎる。だか、共に戦う仲間を守るという風に範囲を狭める事で、自身のモチベーションを保っているのだ。これによって仲間を守る=世界を守るという事が可能になっているのだ。
見上げた自己犠牲の精神。例え自身の夢が叶わずとも、大好きな皆が無事でいればそれで良い。なんと慈愛に満ちた人類愛ではないか。
将来になりたいものがないと悩む若者が最近は著しく増えたと聞く。そんな人は、身の回りの人の為に役立つ事は何かと考える事から始めるのも良いかもしれない。
前編は内部戦士の活躍がメイン。後編は、いよいよ外部戦士のお出ましだ。果たして、はるかやみちるはどんな活躍を見せてくれるのか。後編に続く。