「メンやば本かじり」ほっこり編
二〇二四年はまだはじまったばかりだが、すでに心身ともに疲れている人も少なくないだろう。
今年はなんてはじまりなんだ。
私も、微力ながらもできることはないだろうかと、募金をしたり、あれこれ考えてはいる。
だが、行動をおこすためには、自分の心が疲れていては何もできない。
こんなときは、深呼吸をして、そう、ほっと体の力を抜く。
動くためには、まずリラックスが一番だ。
そんなわけで、今日はほっこりする、くすっと笑って心があたたまる一節を本から引いてみようと思う。
新年最初の「メンやば本かじり」なので、豪華に超大物の作品からだ。
森鴎外の娘である、森茉莉の『貧乏サヴァラン』。
杏をのっけた砂糖ごはん!!
のっけご飯上級者すぎるわ。
さ、さすが森鴎外先生。
さらに、茉莉さん曰く、父親だけでなく、母親も上級者(?)だそうな。
どゆこと!?
お母さん、どういうことですか!?
なぜにバナナが芭蕉の実なのか。そもそも芭蕉はどっから出てきたんや。
さて、芭蕉とバナナの関連は──と、私は自分の頭の中を探ってみたが、惰眠を貪るミジンコしか見当たらない。
いやてか、お前なんでおんねん。
私のミソはどこ行ったねん。
と、胸ぐらを掴んでミジンコを叩き起こそうかと思ったが──ベイビー、きみの胸っていったいどこだい?
ま、そんなわけで、考えても何もないので、仕方なく家の本棚にある『おくのほそ道(全)』(角川ソフィア)をぱらりぱらり。
すると、巻末にある解説に、芭蕉の少年時代の話に目がとまる。
解説によると、松尾家は、「土地の旧家なりの中流生活を維持することができた。」とある。家計が苦しいわけではないのだが、幕府の出した倹約令のために、貧窮に沈んだような日々を送っていたのだろうか。
となると、私の本棚にある、『視覚化する味覚』という本と繋がっていく。
あれ、でも、待てよ。確かにアメリカでは一九〇五年になると、バナナは庶民の食べ物だったかもしれないが、日本ではどうだったのだろう。
森茉莉さんは、一九〇三年生まれ。ちょうど、台湾からバナナが輸入された年に生まれている。で、バナナのセリが始まるのは彼女が二ニ歳のころ。ただ、母親の「芭蕉の実」話は、子供時代と書かれているので、二〇歳以下だろう。となると、母親である志げさんに、バナナは貧さの象徴という感覚があったかだろうか。これはただの憶測だが、そういう意味ではなかったのではないだろうか。
では、なぜに芭蕉の実。
そこで今度は『バナナの歴史』を開いてみる。
すごいな、バナナ。そんな昔から、キミは人間の腹を満たしてくれていたのかい。ありがとう。
ただ、考古学的な資料で証明されているのは、6900年前のニューギニアらしい。
す、すごいな、バナナ。世界中を旅しているやん。
おや。旅といえば──。
そうだ。芭蕉は、芭蕉庵に籠っていたわけでなく、旅をしていたからこそ、作品を生みだせたんだった。
もしかして、茉莉さんの母親である志げさんは、バナナが世界を旅して広まっていったこととかけて、芭蕉の実なんて呼んだのだろうか。
と、言いたいところだが
──あれれれ。『バナナの歴史』の冒頭に、こんなことが書かれているぞ。
おあっ!
新年早々、やらかしてもうたわ!
そもそも、芭蕉という名前は、弟子の李下から芭蕉の株を寄贈され、草庵の名が「芭蕉庵」と呼ばれるようになり、本人も芭蕉と名乗ることにしたと『おくのほそ道』に書いてあったやん!
で、バナナの和名って
実芭蕉(ただし別称。芭蕉とバナナは違う)ですね。
わーい、自分、今年もあほやー。やっほーい。
てか、ほっこりどころか、お前があほすぎて心労がよけいに溜まったって? それは大変失礼しました。
ちょいと、お待ちください。
あほがおらず、この世が天才だらけだったら、けっこうカオスですよ。
なぜなら、あの天才数学者岡潔氏によると
もじゃもじゃて!
あかんやん、人の話、聞いてへんやん、岡先生。
とはいえ、天才とはここまで没入できるからこその天才なのだろう。
もちろん、私は天才ではありませんので、みなさんの声がもじゃもじゃ聞こえることはないでっせ。へへ、ご安心を。
ただし、ときどき頭の中のミジンコがかさかさ騒いでおりますがね。
◾️書籍データ
『貧乏サヴァラン』(ちくま文庫)森茉莉 著
難易度★★☆☆☆ 食へのなみなみならぬ愛が詰まった、エッセイ集。
細やかな表現により、豊かな味わいを得られる本書。もちろん、後味はすっきりしており、さすがとしか言いようがない。いい塩梅です。アイスティを飲むのにも、わざわざ決まったお店まで氷を買いに行かないと気が済まない。チョコレエトは好きだが、子供の口にしか合わないような甘いのは、だめだときっぱり。ただ、彼女のこだわりは、どこか少女のようでかわいらしく、読んでいても楽しいのである。
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