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キャプテン・ラクトの宇宙船 プロローグ&第1話

  〇 プロローグ

 扉の外、廊下をせわしなく行きかう人の気配。小さくかちゃ、かちゃと、銃器と装甲服のこすれあう音。
「内部で手引きしたやつがいるな」
 となりに座る男の小さなつぶやきに、彼女はブルッと身をふるわせた。
 いまだに少女のような可憐さを残すその顔がくもる。内心の不安を伝えるように、男の腕にすがっていた手にぎゅっと力をこめた。
 二人は夫婦だった。照明を落とされた暗がりでよく見ることができなくても、長いつきあいの連れ添いが今どんな顔をしているかは、容易に思い浮かぶ。彼女を勇気づけるため、いつもどおり、大丈夫というように微笑みを浮かべているのであろう。男は彼女の肩に腕を回しだきよせた。
 だが彼女も聡明であることでは人後に落ちることはない女性だった。
 不安で身をふるわせていたとしても、今の状況はきちんと把握できている。夫の気づかいはうれしかったが、大丈夫という状況にはほど遠い、ということは自明だった。
 海賊船におそわれた。
 いきなりドッキングして乗り込んできたのだ。これは何もさえぎるものがない宇宙空間では異常なことだ。ステルス性の高い軍艦だって、近づいてくればどこかでわかる。
 しかも、回線を遮断される前に外部センサーにつないで確認した時に見た限りでは、海賊船の外観は商用船と変わりなく、ステルス性など皆無の様子だった。つまり、まったくの無抵抗で海賊船を受け入れた、ということを表している。
 こちらの内部に協力者がいなければ、まず不可能なことだ。しかしそれでは大きな疑問が残る。それほどの準備をしてまで、なぜこの船を襲撃したのか。
 この船は調査船だ。仲間を送り込むにしろ、船員に金品をつかませて手引きさせるにしろ、そこまで手間をかけておそうのならば、高価な積み荷を満載した貨物船をねらうほうがいいはずだ。
 すると目的は積み荷ではなく、人……?
 彼女がそこまで考えた時、今までブリッジからの遠隔操作でロックされていた扉が、するりと開いた。
 廊下から差し込んだ光のまぶしさに目を細める。シルエットは二人。銃を持っている。
「出ろ」
 短い言葉のイントネーションでも、外見と合わせれば出身地がおぼろげにわかる。極東の方だ。彼女の出身地との関係はあまりよくない。
 その懸念のとおり、一人が近寄り、乱暴に彼女を引き立てようとした。
 彼女の整った顔立ちを見て、その男が下卑た笑みをうかべた。
 夫がすぐさま割って入る。もう一人の男が一歩前に出て銃を構え、剣呑な雰囲気になる。
 だがそれ以上事を荒立てる気はなかったようだ。一つ舌打ちをすると、ついとあごをしゃくって扉へとうながす。
 連れていかれた食堂には、調査団のメンバーが全員集められていた。
 ミーティングにも使われる食堂は、全員を収容するのに十分な広さがある。だが、いつもとちがい手ぜまに見えるのは、そこに濃い色のスペーススーツを着た海賊たちもいるからだ。その海賊と談笑している船員の姿がある。あれが内部から手引きした者なのだろう。
 調査団のメンバーは皆おびえた様子で部屋のすみに固まっている。そちらへ二人も追い立てられた。こわばった顔の人々に向かい、彼女は小声で問いかけた。
「何が起きたんですか? なぜ海賊が私たちを?」
 調査団の団長である教授もわからないと言って首をふった。おとなしく待つしかないようだ。二人は集団のはしに身を寄せ、皆といっしょに不安げな視線を海賊に向けた。
 ふと彼女の口から別の心配事がついて出る。
「あの子大丈夫かしら」
 そのつぶやきを耳にした夫がすぐに答える。
「大丈夫だよ。イチコたちもいるし周りの人たちも助けてくれるさ」
 その言葉にうなずきながらも不安はぬぐえない。
 彼女が心配していたのは家に置いてきた子供のこと。
 つぶらな瞳でいつも彼女を見つめる、可愛く愛しい、自分の身よりも大事な我が子のことだった。
 無事にまたあの子のもとへ帰りたい。
 彼女はそう願った。


  一 〈はやぶさ〉出航

 おや?
 何でこんな子がこんなところに?
 道行くみんながふり返る。
 歳のころは十か少し過ぎたぐらいか。その子はとても愛らしい容姿をしていた。
 やわらかな栗色のふわふわした髪。まつ毛の長い大きくつぶらな瞳。ちょこんとかわいらしい鼻。甘いイチゴのようなふっくらと赤いくちびる。赤い新品のスペーススーツを着て、ピンクのぬいぐるみをかかえ、長い黒髪の女性がその後ろに付き添う。
 小惑星四九八番トウキョウのヒノデ宇宙港十五番埠頭へ続く通路では、明らかに浮いた存在だ。この先は個人商船の船着場で、旅客用ではない。そこに用があるのは、己の才覚で宇宙をわたる、よく言えば腕に覚えのある、悪く言えばすれっからしの、そんな宇宙船乗りばかりなのだ。
 トウキョウの低重力の中、ふわふわとただようように進む母娘とおぼしき二人は、場ちがいだった。
 その時ゲートの警備員は、仕事にあきて、席を外すきっかけを探していた。ちょうどやってきたその母娘は、いい口実に思えた。それにおっとり品のよさそうな母親は、地味だが人形のように整ったきれいな顔立ちで、お近づきになれるなら一石二鳥だ。
 そんな下心もわいてきて、警備員はにこやかに二人に声をかけた。
「もしもし、もしや道にお迷いですか? この奥は個人商船の船着場ですよ。旅客船の乗り場はこの通路をもどって左手になります。なんでしたら送って差し上げましょうか」
「えっ、あの……」
 いきなり声をかけられて、母親はとまどった様子。子供はじっと見上げている。
 警備員はその子供にも愛想をふりまく。
「やあ、おじょうちゃん。かわいいぬいぐるみだね」
 それを聞いた子供は、むーっと顔をしかめた。
 何も言わずに、ぽんとぬいぐるみを放り投げると、すいっと腰のベルトから銃をぬく。そして警告もなしに、いきなり太ももめがけて引き鉄を引いた。
 その間一秒にも満たない早わざだ。流れるような動作で手に収めたその銃は、それまでのその子のかわいらしい印象にはそぐわない、小ぶりだががっちりした作りの物だった。高い電圧の電気をおびた極細極小の針を打ち出す、スタン・ニードル銃だ。
 撃ち出された針は太ももにちくりとささると、ばちっという音とともに爆ぜた。電気量は最低レベルだが、かなりの痛みが走る。
「あつっ! なにすんだこのくそがき!」
 いきなりの思わぬ銃撃に、警備員がかぶっていた優しい仮面が外れた。悪態とともに手をのばす。その腕を、後ろの女性が身を乗り出して、はっしとつかみ止めた。
「くっ?」
 細身の体に似つかわしくないすごい力。警備員が手を引こうにもふりほどけず、二人の体がもつれる。その時警備員は初めて気がついた。
「アンドロイドか!」
 人々が宇宙へと生活圏を広げている科学技術が進んだこの社会では、アンドロイドは珍しくもない、ありふれた存在だ。だが、それでも気がつかないほどの精巧なつくりに、警備員はおどろいた。きめの細かいやわらかい肌。うるおう瞳は人間のものと寸分のちがいもない。ふくらむ胸はゆっくりと上下動し、呼吸をしているようにさえ見える。
 その時銃を手にした子供が口を開いた。
 その声は、かわいらしい見た目どおりの鈴を転がすような声。けれど内容は、見た目と大きくちがっていた。
「おいコラ! だれがおじょうちゃんだ! そこに二つついてる目ン球はただのかざりか、このぼんくら! オレは男だぞ!」
 口を極めてののしると、目をぱちくりさせて言葉を失っている警備員をしりめに、強く床をひとけりして、その場をはなれていく。
 先ほど子供に投げられたぬいぐるみが、弱い重力のもとでゆっくりとただよって、ようやく床へふわりと落ちた。すると、もそもそと起き上がり、男の子のあとを追って走り出す。追いつくと、とがめるように声をかけた。
「だめだよ、ラクト。いきなり人に向かって銃を撃つなんて」
「そうですよー、らっくん。乱暴ですよー」
 アンドロイドもあとを追い、やはり男の子に注意する。しかしこちらの口調はちょっと間のびした感じ。おっとりとした印象は、見た目だけではないようだ。
 呼びかけられた男の子はラクト・アキシマといった。日系人が多くすむ、この小惑星トウキョウで生まれ育った、生粋の小惑星人だ。アンドロイドのイチコと、ぬいぐるみロボットのミミを引きつれて、十五番埠頭の自分の船へと向かっているところ。
 ラクトはすっかりおかんむりだった。
「三度目だぜ、今日だけで! 船舶登録事務所の受付、保険組合の事務局長、で、さっきのやつ!」
 ミミとイチコが顔を見合わせる。
「しかたないよねえ?」
「らっくんてば、ほんとにかわいいからー」
 二体でうれしそうにうなずいていた。二体は小さなころからラクトのめんどうを見てきた、育児支援機能を持ったロボットだった。ながらく仕えたかわいいご主人様が、世間にもその容姿を認めてもらえるのは、喜ばしいことなのだ。
「男がかわいいなんて言われてもうれしくないっ!」
 それを聞いてラクトはさらにぷーとむくれた。言葉とうらはらに、そのさまでさえかわいらしい。二体はくすくすと笑った。
 生まれた時から本当に愛くるしい容姿だったラクト。少し天然気味のラクトのお母さんシノは、一粒で二度おいしいと大喜びで、男の子の服、女の子の服と、とっかえひっかえしてはかわいがっていた。またそれが本当に似合っていて、あそこの家には男女双子の子供がいるとかんちがいする人もいたほどだ。
 小さいころは素直にされるがままだったラクトだったが、成長すると、自分が何をされているのか気づいた。そのころから、むきになって男らしくしようと口調も変え、すっかり乱暴になってひねくれた。
「くっそ、赤いスペーススーツにしなきゃよかった。赤なんて女の色じゃん。だれだよ、用意したの」
 今もかわいい声で毒づいている。
「赤はリーダーの色とか言ってたの、ラクトだよ」
 ミミがさらりとつっこんだ。
 痛いところをつかれたラクト、ミミをじとーっと見て捨てぜりふ。
「ミミもつれてこなきゃよかった! ピンクのぬいぐるみかかえてるなんてかっこ悪い!」
「ひどーい! ラクトが心配だからついてきたのに。あーあ、昔は『ミミがいっしょじゃないとやだ!』って、どこに行くにもはなしてくれないぐらいだったのになー」
 ミミの不満の声を無視して、大またで飛ぶように進んでいくラクト。足の短いミミはついていくのが大変だ。
「待ってよ、もう……」
 するとラクトは、ぴたりと足を止め不機嫌な顔のままふり返ると、ひょいとミミをだきあげた。放り投げて床に落ちた時についたほこりを見つけて、そっと取る。座り心地がいいように右腕にかかえ直して歩き出し、見上げるミミをじとっとにらんで一言。
「……何?」
「ううん、なんでもない」
 ミミは口元を押さえてうれしそう。イチコもにっこり笑ってる。
 そう、二体の大事なご主人様は、ちょっとひねくれちゃったけど、でも心根は優しいままなのだ。

 ラクトたちは宇宙港のこみいった通路を進んでいく。
 二十三世紀の現在、人類は地球からあふれ、太陽系の他の星にもコロニーを作って住むようになっていた。その数はすでに数千をこえ、その一つがラクトの住む小惑星、トウキョウだ。
 トウキョウは、長径八十五キロ、短径六十キロほどのいびつな形をしている。楕円軌道をえがいて太陽の周りを回り、その距離は地球の二倍から三倍ちょっと。四年と四ヶ月ほどで一周している。一日は二十時間と少し。名前にひかれたのか、日系の移民が開拓を始め、今では多くの人が住んでいる。
 直径百キロに満たない小惑星でも、表面積は東京都よりはずっと広く、日本で言えば四国より少し小さいぐらい。そこを多くの居住区、工場が覆い、地下にも街を広げているので、住む場所としてはかなり大きい。真面目な日系移民が多く集まったため産業が盛んで、食料、造船、精密機械工業など、この辺りの宇宙における一大生産拠点となっている。
 ヒノデ宇宙港は、そんなトウキョウの北極に作られた大型宇宙港だ。多くの物資が行き交うため、とてもにぎわっている。その個人商船の船着場にラクトの宇宙船〈はやぶさ〉があった。
 全長百メートルほどの、両端がしぼれて真ん中が太い紡錘形の白い船体。両わきに張り出した大型のエンジンブロック。商船としてはほどほどの大きさだが、エンジンブロックの大きさが、並ではない船足の速さを示している。
 連絡橋をわたり、エアロックをくぐると、一体のロボットがラクトたちを出むかえた。
「お帰りなさい、キャプテン! 手続きは済みました?」
 人間そっくりのイチコや、ぬいぐるみのようなミミとはちがい、まさにロボットという金属製のがっちりとしたつくり。樽のように大きな胸部。太い前腕。どっしりとした下半身。しかし丸い頭部についた大きくまん丸な目は、どこか愛嬌を感じさせた。
 がんじょうが売りの鉱石採掘ロボット、ロクローだ。
「ん? どうしたんですか?」
 帰ってきたのに返事がないラクトに、ロクローはいぶかしげ。ラクトに代わってミミが答えた。
「また女の子にまちがえられたの」
「え、何でですか、そんなにかっこよく決めてったのに」
 ロクローの返事に、ラクトの顔がぱっとかがやく。
「そう、そうだよな! ありがとうロクロー! お前だけだよ、わかってくれるの!」
 ひしとロクローにしがみついた。せっかくスペーススーツを新調したのに、だれもかっこいいとほめてくれないどころか、何度も女の子呼ばわりされて、すっかりくさっていたのだ。
 ちなみにロクローに搭載されている人工知能は、イチコやミミに比べると少々おとる。なのでラクトの様子を見てフォローを入れるなんて芸当はできず、その言葉は素直な感想だ。おべんちゃらを言えない、いいやつなのだ。
「ロクロー、荷物の積みこみは終わった?」
「はい、キャプテン」
「よーし、じゃあ発進するぞ!」
 機嫌を取りもどしたラクトを先頭に、みんなブリッジへと向かった。扉を通ると、目の前には船着場の仕切りと、そしてその向こうの宇宙空間が広がっていた。
 何も知らなければ、まちがえて外に出てしまったのかとおどろくところ。半円形のブリッジは壁が全てモニターになっていて、外の様子を映していた。手前の、全体が見わたせるところに船長席。そこにラクトはすべりこんだ。正面の席にイチコ、その右にミミ、左にロクローが座る。
 あといくつか席はあるのだが、今この船はこれで全員だ。席についたラクトは、スリムで軽いヘッドセットを頭にかぶる。
 チリッと神経を引っかくような感覚がして、視野の片隅にポッとチェックライトがつく。
 きゃしゃな印象のヘッドセットは、イヤホン、マイク、そして二本のフレームと頭を取り巻くリングでできている。イヤホンとマイクは当然通話用だが、一番重要なのはフレームとリングの部分だ。そこに非接触式の脳神経インターフェイスが仕込まれているのである。
 今ラクトは〈はやぶさ〉と同調し、船の状態や周りの様子を「五感で」感じられるようになっている。拡張認識と呼ばれる、バーチャルリアリティの発展したものだ。
 これを使用している人間は、現実が二重写しになったように感じる。実際の視野と、船のセンサーに接続され拡張した視野が同居しているのだ。周りのドックの様子も手に取るようにわかる。同調深度を深めれば、そのまま思考で船をコントロールすることもできる。
 ただ、人間の思考には意外とノイズが多く、それを排除してコントロールするのに訓練が必要なこと、また受け取る情報が増えると脳への負担も大きいということもあり、そこまで深い同調操作は、あまり頻繁には使われない。ラクトも今は浅い深度にとどめる。
 その代わりに目の前の操縦卓のタッチパネルを立ち上げた。さらに半透明のホロウインドウが空中に浮き上がり、船の状況を示す。
 船長席には全ての情報が集まり、ウインドウがいくつも重なるが、ラクトはあわてる様子もなく要所に目を通していく。その様子はラクトが十分に訓練されたパイロットであることを示していた。
 目の前に座ったロボットたちからも報告が上がる。
「機関異常なし」
「レーダー、センサー、オールグリーン」
「管制とつなぎます」
 モニターに管制官が映った。宇宙港全体の船の出入りをコントロールする仕事をしている人だ。
 ヒノデ宇宙港はトウキョウの繁栄を映す鏡だ。多くの船がすれちがい、管制官が船さばきを一つまちがえると、たちまち渋滞してしまう。その責任を背負いこんだ男は、緊張感にあふれた顔つきをしていた。
 ラクトは規定どおりに管制官に呼びかけた。
「こちら〈はやぶさ〉、出航許可願います」
「こちら管制室……あれ、〈はやぶさ〉は自動船じゃ……」
 ラクトの顔を認めた管制官はおどろいた様子で、手元に資料を呼び出して、しばしながめていた。はたと思いいたったようだ。
「ああ、君が例の……。本当に子供なんだな、一人でだいじょうぶかい?」
 それはラクトがここ最近何度も言われたセリフだった。今日は女の子に三度まちがえられたが、こうしてだいじょうぶかと聞かれるのも三度目だ。それは相手の知らぬことだけれど、もううんざりなのだ。返事の声も心持ちとげとげしくなる
「だいじょうぶだから、手続きに許可が出たんです」
「そうだよな。クラスAの自動船だし……。了解、〈はやぶさ〉、出航を許可する。航海の無事をいのる。……と言うか、ウチの子供も君ぐらいなんだけどさ、ほんとに無事でな。がんばれよ!」
 いつもは緊張感をただよわせている管制官が、最後の言葉の時には父親の顔になっていた。最初はちょっときつい口調で答えたラクトだったが、本当に気にしてくれているんだなと思うと、気持ちもやわらいだ。
「ありがとう」
 管制官は親指を立て、はげましの合図を送って消えた。ああいういい人にもかみついちゃうのは、自分がちょっと緊張しているからかもしれない。ラクトは、ふう、と大きく息をついた。
 これがラクトの第一歩なのだ。
 きりっと前を見すえて、指示を出す。
「スラスター出力、十分の一。微速前進、出航する」
「はい、キャプテン」
「了解、ラクト」
「わかりました、らっくんー」
 みんなの声がばらばらだ。ラクトはかくんと力がぬけた。
「もうちょっとかっこよく、声ぐらいそろえようよ!」
「まあまあ、ラクト。あ、急がないと次の船が来ちゃうよ」
「もう……」
 これからこの船を守っていかなくてはいけないのに、こんな調子では先が思いやられる。ぶつくさ言いながらタッチパネルを操作する。
 船と宇宙港をつなぐ係留索が外れ、ゆっくりと岸壁をはなれる〈はやぶさ〉。エンジンのブロックに左右三つずつ並んだノズルから、青白いプラズマ流がふき出した。
 しずしずと宇宙に向かって加速していく。
 小さなミミが背のびするようにモニターをのぞきこんで告げた。
「宇宙港との回線は良好。管制データ受信中。周辺宙域に危険物なし」
 それにうなずいて、ラクトは操舵士席のイチコに指示を出す。
「ベスタへの軌道に乗せろ。出力三分の一へ」
「了解ー」
 〈はやぶさ〉はプラズマ流をきらめかせ、男の子一人とロボット三体を乗せて、星の海へと進んでいった。

〈第2話へ続く〉

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