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会話する時に入り込み過ぎて

 友達と喋っていたら、話に夢中になり過ぎてコップを倒し、水をこぼした。
 時々やらかしてしまう。
 25年前くらいのその時も、身振り手振りで友達にその話の内容を熱弁していた。「その時にこうしてね、ああなってね」と。話に入り込んでいくうちに身振り手振りが大きくなってきたらしくて、手の端がコンとコップに当たったのだ。

 素敵なホテルのカフェ。
 店員が慌ててテーブルを拭きにきた。

 「すみません」。若い私は恐縮と恥ずかしさでいっぱいになった。
 友達は下を向いて笑っていた。

          *

 話に夢中になると、自分をコントロールできない瞬間があって、すごく恥ずかしい。

 特に、その時の様子を再現する話。何故かリアルさを追求してしまう私は、会話でも演技力を発揮してしまう。

 「ああ~! あんなところにあった?!……って言ってさ」

 なんて言おうものなら、まず私の「ああ~!」がリアルなようで、話し相手がビックリする。「えっ?!」ってなる。
 話の進行の方が大事、と思ってアハッと笑いつつも構わずに話を続ける時もある。でも説明しちゃう時もある。「あっごめん。いやその時にね、びっくりしたのよ。‘ああ~!’って……そう言ってね」とか説明して、話に締まりがなくなっていく。

 さらには、「あんなところにあった?!」の時の「あんなところ」って視線を向けて驚いた顔をすると、話し相手がまた私の視線を追って、そっちを見てしまう。「アハッ。違うのよ、その時にさ。そう思ってね」と話はもっとグダグダになる。
 相手が「ごめんごめん。ああそういうことね」とか笑っちゃうと、話そうとしていた内容なんかもうどうでも良くなって一緒に笑う。
 
 それで笑いが一段落。その後、気持ちを軌道修正して「そう。そんなところにあったのよ」と、すごくもうどうでも良くなったまとめを言う。そして「なるほどね~」なんて終わる。

 自分の心情をリアルに再現しようとし過ぎて、けっきょく話の内容が台無しじゃないか。

 何もそんなに臨場感をあふれさぜなくて良いのに、この前もやってしまった。

 友達に、何かしらのエピソードを話していた。その時の気持ちを思い出しながら「わあっ! って思った」と言おうとしたのに、「わあっ!」の声が、自分で思っていた以上の声の大きさで、店中の、少なくとも私の視界に入っていた人が全員、私を振り返った

 一緒にいた友達が戸惑って笑っている。
 「アハッ! ちょっと思ってたより声が大きくなっちゃった」とか私も自分で言って笑った。
 友達も私も、よく笑うけど普段の声が小さい方。ずっとお互いがギリギリ聞こえる声で喋ったり笑ったりしていたのに。

 なに急に、店中の人を「わあっ!」って驚かせてるんだよ。みんなびっくりしちゃってるじゃないのよ。

 なんて恥ずかしい。
 とにかく恥ずかしい。

 おばさんだから若い頃ほどは恥ずかしくない。でもいつまで経っても「こんな自分」でいるのが恥ずかしい。おばあさんになってもきっとこのままだ。いやもっと制御できなくなるかもしれない。

 ああ。きっとまたやっちゃうんだろうなあ。
 たかだかエピソードなのに。そんなに演技力発揮して、臨場感あふれ出さなくて良いから、私。

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読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。