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もうすぐだよ、楽しみ過ぎておかしくなりそうなので愛を叫ぶ!

 きっかけは、9年前。夫と息子に誘われてだった。

 当時小学6年生だった息子とは、さすがにいっしょに遊ぶ時間はなくなり、いっしょにふざける時間も減り。幸いおしゃべりが好きだけど、共通の話題が減ってきた。だから観たいと言う映画なら私もできるだけ観て、感想や話題を共有したいと思った。

 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」が、最初に観たMCU(マーベルシネマティックユニバース)作品。
 SFの荒廃した世界や痛そうなシーンやハラハラした展開などを、映画には当時求めていなかった私は、気が進まなかった。
 今でこそ、MCUが好きだとか書いているけど、30代から40代にかけての私は苦手なジャンルの映画だったのだ。

 なのに夫が誘ってくるではないか。「可愛いアライグマが出るよ」だけを売りにしたって私の心は簡単に動かないぞ。
 
 ……だってなんか武器持ってるよ。
 二足歩行のアライグマが映画予告で流れる。
 「ほうら可愛いでしょ」
 夫が誘ってくる。

 ……でもなんか悪そうな顔でニヤリとしているよ。
 「悪くはないよきっと。大丈夫だって」

 そしてダメ押しは息子の「僕も観たいなあ」。

 しょうがないなあ。
 二人に付き合うかあ。とスクリーンの前に座った。

 もちろんああいう世界を描かれる以上、「大丈夫」とは思っていなかったし、ある程度は覚悟していた。でも思ったよりずっと笑える場面が多くて、思ったより選曲がロックで楽しくて、思ったよりその世界は美しくて、思ったよりずっとずっと愛があった。そして不覚にも心を揺さぶられた。

 それでもまだそういう世界は視覚的に好きになれず、MCUからの気持ちは遠い。3年後に「2」が出ると知った時も「二人とも気づいていませんように」と黙ってやり過ごそうとした。

 もちろん二人が気づかないわけがない。
 「2が出るよ」
 「可愛いロケット(アライグマの名前)見たくないの?」
 「1面白くなかった?」
 夫と息子が誘ってくる。

 えーだって。
 モゴモゴ返答していた私は、いつの間にやらスクリーンの前に座っていた。

 そして両側に座っている二人が引くほど泣いた。しゃくりあげる声を殺すのに必死。
 あんなに「こういう世界はちょっと」とか言っていた私は、異星人の盗賊、ブルーの身体と顔で、頭に赤いトサカがあるいかついヨンドゥの、大がつくほどのファンとなった。もちろん一回の鑑賞で済むはずがない。
 キャラクターたちの成長ぶりもすばらしかった。ならず者だった皆が愛おしい。
 映画を撮ったの誰。初めて気になって、ジェームズ・ガンの存在を知った。笑えて、選曲も好みで、一人ひとり愛おしく感じさせて、なんてなんて愛を感じさせるんだろう。

 でもまだそこからMCUへと気持ちがつながらない。過去の作品を観ていこうなんて思っていなかった。好きになるのには時間がかかっているのだ。

 その翌年の「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」。
 「ガーディアンズ」のメンバーたちが出るよ。と夫が知らせてくる。「ちょこっとなんでしょ」「そんなの急に観て理解できるんだろうか」などと言っていたら、「僕は観たい」。今回は息子がいっそう積極的だ。

 気づくとスクリーンの前に座っていた。

 そしてハニワみたいな顔で観終わった。

 ナニコレヒドクナイ?


 その翌年公開の「アベンジャーズ/エンドゲーム」につながるにしてもだ。「インフィニティ・ウォー」は、非常に打ちのめされた状態で一旦終わる。
 元々映画に入りこみやすい私は、その状態に耐えられず、少しでも良い方に展開しないかと考察を始めてしまう。
 それがMCUにハマるきっかけとなった。

 ハマり始めた頃に「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3」の脚本が出来上がったと、ジェームズ・ガン監督の発表があった。
 爆上がりな気持ちを自分の中に感じながら、静かに楽しみにすることにした。

 が。
 その直後、ジェームズ・ガンがディズニーから解雇されてしまう。

 そこからさかのぼること約10年の、そこまで有名ではなかった彼の、ネットでの発言が取り上げられたのだ。それは幼稚で下品で、笑えないヒステリックな内容だった。
 ショックを受けて、大げさじゃなくしばらく泣いて暮らしていた。何をしていても悲しくて気分が晴れない。

 もうガーディアンズシリーズは観られないのかな、と絶望した。「3」があったとしても他の人の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」はきっとテイストが変わる。似たものに仕上げたって、真似事だなと白けるじゃないか。どうにか復帰してほしいと希望を探した。
 ファンたちは署名で、主要キャストたちも公開書簡で、ジェームズ・ガンの復帰を訴えた。皆、発言は決して擁護しないと明らかにし、でも彼の作品、映画製作を通しての振る舞いで、成長を観てほしい、彼の人柄と今後を信じようとの思い。Twitterでも上がってくるそれは、スタッフやキャストたちのおせっかいな熱い愛であふれていた。皆の、思いのこもった言葉を読んでは体の奥底からため息が出る。たしかに彼の過去の発言は愚かだった。ジェームズ・ガンも発言を悔い、キャストやファンに謝っていた。

 署名後は無力感に包まれた。
 ただただMCUへの思いを書き、読み、それまで観ていなかったMCU作品を観る日々が続いた。

 ところが解雇された約9か月後。キャストたちやスタッフたち、ファンの思いも届いたのか、ジェームズ・ガンがディズニーに復帰できた。

 朝の早い時間、流れてきた情報に「早朝だから喜びの声をうっかりあげないように!」とTwitterでファンがさわいでいる。本当なのか確信を得た後はまさしく大声をあげるほどにうれしく、スマホを前に大躍りしたいほどに小躍りし、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3」は再び楽しみなものになった。

 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」は、表面では乱暴で口悪く、映像としても私の気質上どうしても目をそむけてしまうシーンもあるけれど、中身はユーモアと愛にあふれている。そのあふれた愛は、仲間同士への思いとして表現されており、ののしったり笑い合ったり口ごもったり素直になったり、心が揺れているのが観ている側に伝わるのだ。互いへの思いが素直に伝わり、互いの心が成長していくのをとても繊細に感じられる。

 メンバーは、唯一の地球人(厳密にはただの地球人じゃないけど)ピーター・クイル。それからアライグマのロケット。木のグルート。サノスの養女でガモーラ。空気を読めないドラックス
 2からは、サノスの養女でガモーラの妹ネビュラ。クイルと異母兄妹のマンティスヨンドゥの一番弟子クラグリン

 1では、それぞれの世界で悲惨な過去を背負い、孤独だった皆が結束を強めるシーンがグッとくる。出会ってからも気持ちがバラバラだった互いを確かめ合い、奮い立たせるシーン。夫が「あの場面をTシャツにしたい」と言っているほど。私はTシャツにするならグルートの愛に包まれるシーンだな。すべての言葉を「I am Groot」で会話する彼がたった一度「We are Groot」と言っているように聞こえる。
 グルートが死んじゃったと涙にくれていると、挿し木で成長を始める。そのキュートなことと言ったら!

 2では、特に後半、確実に皆の絆を確認し合い、皆が精神的に成長したと感じられるシーンがいくつも続く。
 それが確認できるまでの中盤。愛くるしいグルートとヨンドゥのやり取りがかわいくて笑っていたら、ロケットとヨンドゥのやり取りで「ヨンドゥはこの映画で父親の役割をしているのかな」と気づく。
 ヨンドゥはロケットに「わざと悪いことなんかせずそろそろ自分の心に気付け」といった意味の言葉を投げかける。「I know who you are. Because you are me!」そこがTシャツにしたいシーンだな。夫はクラグリンが好きだからクラグリンがスープをゴキゲンで食らっているシーンだろう。あ、違うか。ヨンドゥの、メリーポピンズのシーンだな。
 Tシャツにしたい話はもう良いか。

 ……夫よ。パーカーにするのはどうかい?
 
 私は長袖Tシャツにしようかな。できればラグランで。

 そしてそのヨンドゥについて「そうだったのか」のシーンが終盤にあり、私はヨンドゥにすっかり心奪われるのだ。

 選曲も大好きで、サントラを聴きこんでいる。映画とリンクした歌詞のロックを流すんだもの。好きになっちゃうよなあ。つい肩に力が入ってしまうシーンも、楽しい曲で気持ちがまぎれる。選曲もジェームズ・ガンがずいぶんこだわっているそうで。たくさん聴いて選ぶ作業は大変そうだし、「2」のオープニングでグルートが踊るシーンは、ジェームズ・ガン自らが踊ってモーションキャプチャのモデルとなっている。

 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を観ることが、もうジェームズ・ガンの成長物語を観ているようでもあるのだ。スタッフたちやキャストたちとの絆もまた映画の中身とかぶって見えてくる。たぶん観ているファンたちの多くはそんな思いもあるはず。

 「3」はオープニングから泣いちゃいそう。もしかしてもう観れないかもと思ったジェームズ・ガン脚本の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」だもの。再び書き直し、撮影できた作品。
 そしてシリーズが今回で終わる。

 今から「終わっちゃうんだ」「悲しい結末だったら引きずりそう」としんどい。誰か死んじゃうかもしれないんだもん。いやみんな死んじゃうかも。やだやだ! 誰もみんな生きて幸せでいてほしい! 夫の肩を揺らす。夫が揺らされるがままにグラングランして「あうあう」言っている。
 しんどくて待っていられないけれど、終わっちゃうのはいやだから始まらないでほしい気もする。
 フークーザーツーーーーー!!! 

 Twitterで繰り返し流れてくる予告動画に「うわ。泣きそう」と身もだえする日々。上映時間は長いけど、ジェームズ・ガンが「1秒たりとも無駄ではない」とか言っているではないか。もう、もう、思いが爆発しそう!!

 5月3日。日本が世界一早い公開。その当日に観に行けるかどうかはわからないけど、観に行く前日は眠れるように、落ち着かなければ。そして観終わったら私、どうなっちゃうんだろう。

 ……。とりあえずTシャツ作ろっかな。



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