応援し続けたいミュージシャン~岡村靖幸~

 一番好きなミュージシャンは、奥田民生です。

 だけど、周りの「○○のファン」という話を聞いていると、私の熱はさほどでもないなあと思う。何かの曲にガツンと来たこともなければ、彼の言動は全然気にならない。雑誌とかラジオとか全然チェックしない。曲のタイトルもうろ覚え。当然歌詞もうろ覚え。
 だけど、歌っている姿がすんごい好きだ。歌声も歌い方もギターの音も、曲の構成、楽器の構成、歌詞を含めた曲全体の世界観。そして歌がうまい。どのように書けばピッタリくる褒め言葉なのかわからないし、素人の私がどのように表現しても説得力がないかもしれないけど。発声も気持ちが良いし、音も外さない。自分の歌声に酔いしれることもなく、それでいて魂がこもった声を出す。声の出し方に全然カッコつけない。声の出し方や響き方はもちろん、あまり癖をつけない素直な歌い方がまっすぐで伸びやかで気持ちいい。そして色々な色の声を持っている。こんな声も持っているんだとか思うとちょっとキュンと来る。そのうまさはライブでもよく発揮されている。「ライブの方がうまいのでは」と、ファンの間でちょっとしたネタのように言われている。


 でも。それだけと言えばそれだけだ。それ以上の熱い思いはない。曲にまつわる自分の思い出も、サッとは思いつかない。周りの、特定のミュージシャンファンの、ミュージシャンや曲に対する思いを聞いていると、私まで心打たれてしまう。くらい、私にはそういったものがない。

 もしかしたら、そういった意味ではミュージシャンとしての思い入れは、岡村靖幸の方があるのかもしれない。好きかと言われたら、失礼ながら奥田民生の方が全然好きなんです。それに私は、わかりやすいロックの方が好みだ。でも岡村靖幸は、私に色々な気持ちをもたらせてくれた。

 初めて聴いたのは、高校三年生、大学も決まって友達の家に集まった時だ。その家に招待してくれた彼女が、お喋りしながらCDを流してくれていた。BGMとして流れていたCDなのに、時々男の人のささやいている声とかつぶやいている声とかが聴こえてくるので、「なんか言ってるよ~!」と皆で笑った。笑いながら、「でも曲調や音使いが割と好みだな」と思って、間もなく自分で借りてきた。

 彼の色っぽい歌声やセクシーな歌詞には、少々笑いが込み上げてきてしまうのだけど、でも聴けば聴くほど音楽のセンスが好み。一枚目のアルバムも聴きたくなり、借りてきた。

 おお……これが同じ人の作る曲? へーますます面白いなあ。

 というのがその印象だった。こういう曲が好きなのは、私が70年代幼少期に、アメリカでディスコミュージックをさんざん聴いてきたからかもしれないけど、二枚目のアルバムが全然毛色が違うことが面白い。最初に借りてきてテープにダビングしたものをまた聴く。面白い。このサウンド、どうやってこの人は1枚目からこれになったんだろう。どちらも良い。相変わらずささやきやつぶやきには笑いが込み上げるのだけど。でもこれは真似して楽しむところだと勝手に思っている。モノマネさせてもらっています。
 

 今は、ネットで聴けて買う音楽も、昔はそんなものがなかったし、中学生の頃までレコードが多くあった時代だ。高校卒業するころにはCDに切り替わっていたけど、私は好きなミュージシャンのレコードだとかCDだとかをなかなか買わなかった。お小遣いを出し惜しんでいた。なので借りてはテープに吹き込み、それをウオークマンで聴いて通学していた。私は中学から大学まで電車通学で、1時間半近くかかっていたので、電車の中では本を読むこともあれば、ウオークマンを聴いていることもあった。両方の時もあった。家が学校から遠い部類だったもので、一人の時間も長かったのだ。
 CDを買ったのは、多分岡村靖幸のが、一枚目か、何かのサントラに続いての二枚目かだったと思う。

 そうやって岡村靖幸の面白さや音楽のセンスを知ってしまってからは、飲み会とかで「好きなミュージシャンは?」「誰の曲聴いてる?」とか聞かれると、自信を持って「岡村靖幸」と言っていた。

 これが、男子にすこぶる評判悪かった。

 「え~」って引かれたり「あのエッチな歌うたう人やろ?」とか度々言われて、私は非常に気分を害したものだった。だからそのうち、人に聞かれた時には、誰もが好きなような無難なミュージシャンを挙げるようにしていった。

 ところが、夫となる彼との出会いがあったんですね。「どういう音楽聴くの?」と聞かれまして。別にこの人に好かれる必要ないか、なんて思っていた私は、久しぶりに岡村靖幸って言ってみようと気まぐれに思った。
 「えっ……」
 と、絶句した彼を見て「あ~やっぱりこういう反応だよ」。言ったことを後悔しかけたら
 「岡村靖幸の曲を真っ先に挙げる女の人と出会ったの初めて!」
 と嬉しそうに言ってきた。

 こちらこそ、そういう反応する男の人と初めて会った! あの良さを知っているのかと驚く私に、むしろ良さがわかって当然。という反応でした。

 そうやって私たちは音楽の好みについて話したり、分かち合ったりするようになった。
 おかげで岡村靖幸の音楽性が好きという気持ちを隠し続けないで済んだ。夫と私を結び付けてくれたものは、岡村靖幸だったのだ。

 その後、薬物逮捕が何度もあって、私たちはおおいに失望し、最近またしっかりとした音楽活動を継続しているのを見て、又、薬物を断ち切るには一生かかるという情報も見聞きするにつけ、どうか周りの人と共に頑張り続けてほしいと心から思う。彼の音楽性は、ちょっと他の人にはなかなかない魅力があると思っているので。

 ガンバレ。

#邦楽 #奥田民生 #岡村靖幸

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。