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「欲しいものはイメージの中にある」
「はい」
「それは想像の世界」
「創造ですか」
「そうではない。空想だ。まだ具体的なものとして手にしていないもの。頭の中だけにあるものだろうが、当然外にもある。他人が持っているものが欲しいとかね。これは創造ではなく、想像。もしそれを得たり持ったりすれば、どれだけ素晴らしいかと思えるようなもの。ここまでは想像だ」
「私は創造者になりたいのです」
「お前は神か」
「いえ」
「ものを一から作るということなど、先ず不可能」
「じゃ、創作はできますね」
「それはできる。神でなくてもな」
「その創作者になりたいのです。クリエーターに」
「エーターか」
「はい」
「そんなもの誰でもやっておるだろ」
「そうなんですか」
「日常的にな。だから珍しいことではないし、大層なことでもない。普通に暮らしておれば、知らぬ間に創作しておる」
「たとえば」
「嘘をつく。これはよくあることだろ。作り話じゃ。立派な創作、でっち上げ。また、事実を曲解して、別のものに仕立てしまう。これも創作だろ。そんなにいいものではない」
「でも、そういうものが欲しかったのでしょ」
「欲しいというより、都合がいいのだろう。その人にとってはいいものだ」
「はい」
「一番の曲者はイメージなんじゃ」
「心の中で思い浮かべる心象というやつですね」
「当然、これは何かを見ての印象で、または何かを感じての印象。だから先立つ何かがいる。そんなものは何処にでも転がっておるがな」
「それをもう一度転がすわけですね」
「おお、いいことを言う」
「当たってますか」
「なんでも当てはまる。何でもありの世界じゃからな」
「思うだけ、ただということですね」
「まあ、思う気はなくても、思うもの」
「はい」
「欲しいものはイメージの中にある。だから、それは永遠に掴むことはできん」
「しかし、それに向かっています」
「何らかの構え方をせんと生きにくいからな」
「構え方なのですか。ポーズのようなものですか」
「イメージ同士のせめぎ合い。これだな」
「イメージ合戦ですね」
「まあ、そういう話はいい。イメージに関わり、イメージに拘りだすと、それは病気」
「はあ」
「余計なことを思わず、ひたすらコツコツと目の前のことをやればいい」
「地味ですねえ。盛り上がりませんねえ」
「イメージに惑わされるよりはまし」
「師匠も、それがありますか」
「大いにある。頭ばかり膨らみ、合うサイズの帽子がなかったりする」
「でも師匠の頭、小さいですが」
「ああ、イメージに拘らなくなったので、小さくなった」
「そ、そんなものですか」
「うん」
 
   了

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