法力
「和尚様、法力はあるのですか」
「法力とな」
「凄い術が使えると聞いたのですが」
「その法力か。それがどうした」
「和尚様は使えるのですか」
「わしは使えんが、昔、使えていた者もおる」
「和尚さんと同じお坊様ですか」
「坊主が使えば法力。他の者が使えば魔道となる」
「魔道ですか」
「まあ、怪しげな術。妖術のようなものでな、坊主が使う法力は悪霊などに使う。憑き物落としとかじゃな。だから人には使わん。それを使うと魔道になる」
「お坊様以外で法力を使える人がいるのですね」
「だから、それは法力とは言わん。しかし、それは昔のことでな。今はそんな法力など使う者などはおらんと思う。表向きはな」
「どうしてでしょう」
「昔の話じゃが、魔道狩りがあってのう。その手の怪しげな術を使う者を退治したのじゃ」
「え」
「人知を越えた術。普通の人間では出来ぬ技。そんなものがあれば面倒じゃろ。ややこしい。だからそんな者どもを魔道と呼んだ。外道とも言う」
「お坊様もですか」
「坊主は人には使わん。しかし、法力そのもは魔道と同じ。怪しげな術に変わりはない。人の力を越えておるからのう。だがなあ、当時のお上は坊主にまで手を出した。魔道狩りをしたのじゃ。まあ、怪しげな坊主もおったからなあ。人に使う坊主もな」
「たとえば?」
「呪詛。これは人にかける。坊主がな」
「あ、はい」
「それでお上は僧侶も狩り出した」
「一緒くたにされたのですね」
「昔の話じゃ。その中にはかなりの高僧がいた。この人は法力を持っている。使える。しかし、一度も使ったことのない人でな。だが、位が高いので、まさか魔道狩りに遭うとは思っていなかった。ところが来たのじゃ」
「それでどうなりました」
「お上が魔道狩りを始めたのは独占したかったからじゃな。そういう術を、実はお上をそそのかし、魔道狩りを進めたのはお上に仕える僧侶じゃった」
「そんなことが昔あったのですね」
「それで、国中の魔道使いが狩られ、絶滅したと言われておる」
「先ほどの位の高いお坊様はどうなりました」
「ああ、消えたよ。法力でな。しばらくの間、姿をくらましたのだよ。だからいなくなった。消えたものを退治出来んので引き上げた」
「その後、姿を現したのですか」
「後日談はない」
「気になります」
「昔話じゃよ。ただのお話しじゃよ」
「ああ、お伽噺でしたか。でも私くしも修行を積み、法力を身に付けたいと思います」
「人に使うでないぞ」
「心得ました」
了