【書評】切なすぎる記憶の中の恋人〜『君の話』(三秋縋)
これは切ないけどいい話でした。いい話だけど切なくて泣けました……。なぜこんな切ない話を思いつくんだ……。
『君の話』という小説です。作者は三秋縋(みあきすがる)さん、という若手有望株。読み終わった後、しばらく立てないくらいの衝撃があります。
1、あらすじ・ストーリー
「義憶」という記憶改変技術が実現し、商品として売られている世界での話。
主人公は天谷千尋、という19歳の青年です。
親しい友人もおらず、両親とも縁を切って孤独の中で暮らす千尋。今まで生きてきて何もいいことがなかった彼は、全ての記憶を消去する「レーテ」という商品を使用します。
しかし、義憶技工士の手違いで、彼が使用したのは「架空の素晴らしい青春時代」の義憶を植え付ける、「グリーングリーン」という商品でした。
その偽の記憶の中には「夏凪灯花」という幼馴染がいました。彼女は幼馴染であり、家族同然であり、理想的な恋人でした。偽の記憶と知りつつ、千尋は夏凪灯花の甘酸っぱい思い出に浸り、心を慰められます。
ところがある日、彼は夏祭りの人混みに、偽の記憶の中にしか存在しないはずの夏凪灯花を見つけてしまいます。
「新手の詐欺ではないか」と疑い、問い詰める千尋に向かって、灯花は
「君は色んなことを忘れてるんだよ」と謎めいたことを言います。
戸惑いながらも灯花との楽しい生活を送る千尋。しかし、灯花は突然姿を消し、それと同時に彼女の正体が判明します。
そしてここから先、物語は灯花自身の口から語られ……
というストーリーです。
2、私の感想
聞いたことがない設定の話に、ものすごく引き込まれました。そして、とてもとても胸を打たれました。
読み終わって、「これは出会うべき時に出会えなかった運命への復讐の物語なんだな」と思いました。絶望を希望に変えようと必死で闘う物語です。
「なぜあの時に出会えなかった?」という経験がある人には胸に響く話です。
前半は「目の前に現れた夏凪灯花がいったい何者なのか」という謎解きにページが費やされます。並行して、悶えたくなる夏凪灯花との思い出のシーンが何度も挟まれます。甘酸っぱすぎます。
そして何と言っても真の山場は、後半で灯花が語る怒涛の種明かしの部分。
私は「まずい、泣く。泣く。」と思いながら読みました。最後の病院でのシーンでもうダメでした。涙腺が……。
いやー切ない。読んでみればわかります。
『明日の記憶』をちょっと連想しました。
文章が上手でセンスがあり、読ませる作家さんです。比喩表現なんかも秀逸でした。
3、こんな人にオススメ
・甘酸っぱい系の話が好きな人
前半は甘酸っぱさ100%でした。
・恋愛系で泣きたい人
泣ける、と思います。
・出会いで悔しい思いをしたことがある人
きっと共感できるのではないかと思います。
また一人、楽しみな作家さんを見つけてしまいました。今後もフォローしていきたいと思います。
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