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【書評】人生はオーディションの連続〜『オーディションから逃げられない』(桂望実)

これも心に染み込む、いい小説でした。『県庁の星』を書いた桂望実さんの、『オーディションから逃げられない』です。

じわじわと涙が出て、ラストの方は頑張ってこらえていないと涙が噴き出しそうでした。

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1、内容・あらすじ

主人公・渡辺展子(のりこ)はいつも「人生はオーディションの連続で、私はいつも選ばれない人生を歩んでいる」と思っていました。

中学で仲良くなった親友は同じ苗字で超美人。いつも比べられてみじめな思いをする。

絵が好きで入った美術部でも、他の同級生が賞を取り、自分は注目も評価もされない。

就職活動でも、仲良し四人組の中で自分だけ内定が取れない。

ようやく結婚して幸せになれるかと思っていたら、旦那の会社が倒産する。

いつも「選ばれなかった」と語る展子ですが、その人生は思わぬ方向に転がっていき──。

2、私の感想

「人生はオーディションの連続である」というのは、ある程度の長さを生きている人なら誰もが実感することだと思います。

前半では、展子が「選ばれなかった」エピソードが次々と披露されます。これがまた共感必至で、学生時代のエピソードなどは「あるある、こういうこと!」と大きくうなずいてしまいます。

ところが、人生の後半で、展子は「選ばれる」方に転じることになるのですが、その過程でも次々と「オーディション」があり……。

ある登場人物がこんなことを言うのですが、本当にそうだ、と思いました。

「完璧な人生なんてないもんだからな。」

展子は「選ばれない、ついてない」とよく言うのですが、展子のお父さんはものすごくいい人だし、妹もよくできた人物で色々助けてくれるし、「人生はトータルで見れば帳尻が合っている」ということを教えてくれる小説です。

たとえ選ばれなかったとしても、自分の持ち場で全力を尽くすことが大事なんだなあ、と思いました。

渡辺展子、という人の人生がとても心に残りました。

登場人物たちが随所でとてもいいことを言うので、たくさん線を引きながら読みました。ベストはここでしょうか。

「友人から言われました。いつでも遣り直せるって。 間違ったと思ったら遣り直せばいいのだと言われて、一歩を踏み出すことができました。そう言ってくれたことに感謝しています。 選んで選ばれて、合格して不合格になって……それが人生なんですよね。」

3、こんな人にオススメ

・「自分はついてないなあ」と思う人
かなり共感しながら読むことができるでしょう。

・今、人生の節目にいる人
進学、就職、結婚など。何かヒントが得られるかもしれません。

・パン屋さん関係者やパンが好きな人
展子の家がパン屋さんで、後半はパン屋さんの記述がたくさん出てきます。パンが食べたくなる小説でもあります。

満足度の高い、素敵な小説でした!

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