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木の国の森づくり

わが国は「木の国」として知られています。

アジアモンスーンの東端に位置し、国土の2/3が森林に覆われているからです。南北に長く、冷温帯である東日本の落葉広葉樹林と西日本暖温帯の照葉樹林を中心に、亜寒帯林から亜熱帯林を含む多種多様な森林と豊かな植生に恵まれてきました。そして、古代よりスギやヒノキなどわが国を代表する樹木の性質を熟知し、使いこなしてきたのです。たとえば、「日本書紀」神代記を見ると、強度と耐久性に優れたヒノキ材は宮殿などの建築材に、また加工しやすく、曲げやすいスギ材は舟材に使うようにと記されています。適材適所に木材を使い分け、用いてきたことがわかります。

木材は、樹木が作る生物由来の材料です。樹を植え、育て、管理することで木材資源を増やすことができます。この点、プラスチックなどの化石資源との大きな違いです。さらに、樹木は大気の二酸化炭素を吸収して生長するので、木材の重量のおよそ半分は炭素です。木材として使用し、その後の廃棄段階でエネルギーとしても、大気の二酸化炭素の総量を増やしません。つまり、木材の利用は地球の気候変動や温暖化抑制に貢献するのです。このため、木材はカーボンニュートラルな材料と言われています。

反対に、伐り過ぎたり、管理が不適切であれば、資源が急速に減少し、森林が荒廃します。歴史を通じて近代までは、日本の森林は、どちらかと言えば、田畑の開墾や建築材、薪などの利用のために、樹木の切り過ぎ(オーバーユース)によって荒れた状態が続いてきました。

たとえば、創建当初の東大寺の建立には滋賀県田上山から多量のヒノキ大径材が伐採され、運ばれました。現在、湖南アルプスとして知られる山地ですが、露岩の目立つ荒れた山肌がいまも続いています。また京都近郊東山山系も平安期以後、用材や薪・肥料の採取が続きました。山地は、細いマツと灌木のみで荒廃著しかった様子が江戸期の都名所図絵などからわかります。桃山期や戦国期には、寺院・城郭の建築に全国各地の森林から大量の木材が伐られています。近年では、第二次大戦時の過伐により山地が禿げ山になりました。

では、現代の森林の状況はどうでしょうか?

敗戦後、国を挙げて植林活動に取り組み、今では、スギ、ヒノキやカラマツなどの針葉樹が植栽された人工林が生長し、ようやく成熟してきました。その結果、近年の森林の(幹材)純成長量は約7,000~8,000万m3/年へと増加しています。一方、木材需要(平成30年)は、年間8,200万m3(丸太換算)です。したがって、量的には国内の需要をちょうどまかなうだけの森林の年間生長量が見込めるのです。つまり、持続的に、そして循環的に国内の森林資源を活用して、自活できる木材資源があるのです。しかし、国産材の利用は、政府の施策により近年大分進んできましたが、まだ上述した森林の蓄積と生長に見合うほどではありません。大変残念なことに、需給のおよそ2/3を輸入材に頼り、国産材のそれは1/3でしかない状況が長く続いています。

自ら植えた森林を十分活用できず、国産材はこれまでの歴史で経験のないアンダーユースの時代になってしまいました。わが国の山林では木余りの時代となり、他方、世界各地からもっぱら木材を輸入する事態となっているのです。

このような木材利用の現状は、森林(資源)管理にとっても、国の環境保全や温暖化抑制の観点からも、健全ではありません。この極端な木材の需給を是正することが必要です。適切な管理によって森林と環境を守るためにも、わが国の木材資源をもっと活用することが大切になってきた所以です。その意味でも人の手が入った人工林や里山林の資源利用と生態系や生物多様性を保全する役割が注目されています。森を育て、わが国の自然を守り、さらに人工林を積極的に活用して、暮らしを豊かにしたいものです。

#エッセイ #環境保全 #森林 #木材

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