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いのちのつながり 社会のつながり

生命(いのち)のつながり

人生百年時代といわれ、最近は長寿命であることにスポットが当てられることが多い。ヒトの最大寿命は凡そ120歳と言われるので、ほぼこれに近づいています。しかし、個体の寿命が長いことが、果たして生物にとってそれほど重要なことでしょうか。

陸上植物の進化の道筋を描いた進化系統樹をみると、コケに始まり、次第にシダ類のような維管束植物、二次組織をもつ種子植物へと進んだことがわかります。これによって、いわゆる樹木は耐久性を増し、太くそして高くなって、光合成に必要な光の獲得競争に有利になりました。

樹木の進化は、さらに裸子植物(針葉樹)から被子植物(広葉樹)へと進みますが、両者を比べると、一般に前者の針葉樹が長生きです。広葉樹は組織・機能の分化が進み、光合成能や環境適応力にも優れています。種分化も多様で、大きな進化、発展を遂げていますが、個体の寿命は針葉樹に比べて一般に短いのです。個体の寿命が短いほうが、種としてはむしろ環境の急激な変化によく適応でき、世代交代が円滑に進むためだと考えられています。(『木の寿命』2020年10月5日)

ヒトの場合はどうでしょうか?
人体細胞は凡そ37兆個から成り、個々の細胞分裂は50回程度とされています。極く一部の細胞(生殖細胞)を除けば、分裂に伴い遺伝子の両末端部のテロメア配列が次第に短くなって、分裂に限界が生じるためです。これは、細胞のガン化リスクを抑えるメカニズムと考えられているようですが、いずれにしても新陳代謝が衰え、細胞の劣化や老化はなかなか避けられません。このために、細胞の寿命にも限界が生じます。

しかし、生命の本質は、詰まるところ(個々の生命体の)長生きにあるのではなく、命の持続、つまり、いのちをつなぐことにあると考えると納得がいきます。いかに遺伝子を生きながらえさせるかが大事なことなのです。遺伝子のプラットフォームである個体は、周囲の環境変化に適応できるように常に新しくにしておく必要があり、新陳代謝が必要です。しかも、有性生殖では遺伝子の組み換えが起こり、新たな組み合わせが可能になります。次世代では、より優秀で適応力に優れた個体が残ることにつながるのです。

社会のつながり

同様に、社会もまた健全な世代交代の仕組みを作っておく必要があります。人生百年になると、人間の生き方、ライフスタイルも自ずから変化していきます。還暦を迎える前後の年齢で、多くのサラリーマンは定年を迎え、第一線から外れるのが当たり前の社会がつい20世紀までありました。いまでは、仕事に関しては定年65歳、さらに70歳に向けた議論が進んでいます。しかし、寿命の延伸に伴い、それでも定年後に残る10年、20年、場合によってはそれ以上の余生をいかに健康に、そして意義ある時間を過ごすかが大事になってきました。

一方、サラリーマン生活に見切りを付け、早期・希望退職も増えているので、早い時期に生きがいや楽しみを見つけて、好きなことをすることも一案です。ダブル・トラック、マルチ・トラックの多様な職業の道を選べる時代になってきたともいえます。

もちろん、仕事が好きなことに通じる人は、そのまま仕事に没頭すれば済むのですが、生活環境は大きく変わることを覚悟せねばなりません。いずれにしても余生を、人生を楽しむ時期と心得て、前向きに捉えることが大切なようです。

論語に、「知之者不如好之者、好之者不如楽之者(之を知る者は之を好む者に如かず 之を好む者は之を楽しむ者に如かず)」とあります。知識として知っているだけの者は、これを愛好する者には勝てない。また、愛好者もこれと一体となり楽しんでいる者には及ばないのです。

しかし、個人ではなく、組織の立場からは、見方も違ってきます。先日、関係するNPO法人で、役員定年制の導入が論議になりました。ちなみに東京都のNPO法人で役員定年制を導入している組織は30%とむしろ少数派です。NPO組織は概して歴史が浅く、創業世代が一線で頑張っているため、組織の持続という課題に直面するのはこれからです。

ビジネスや仕事を離れて別途NPO活動に関わるのは、多くの場合、仕事が一区切りついた人生の後半生ではないでしょうか?ボランティアとして、これを好み、楽しむ人達がNPO活動の中核です。このため、ともすれば同世代・同好の中高年の士が集まり、ムラ社会の内輪の会に陥りやすいのです。会員が増えなければ、その平均年齢が毎年一年づつ上がり、馴れ合いとなり、気の付かないうちに組織のエネルギーと志気が低下する。活力の低下と共に、情報収集力と創造力が衰えて社会の動きに付いていけないということになりかねません。

定年制ばかりでなく、医療保健制度や年金制度などの社会保障制度について、わが国の将来の世代間の衡平性を担保する仕組みを今から考え、論議しておくことが大切です。現在、企業の定年制については、就労人口の確保を狙い、また高齢者の安定的な雇用確保に向けて、(1) 定年制そのものの廃止 (2) 定年の引き上げ (3) (再雇用など) 継続雇用制度の導入などの制度改革が求められています。技能継承のため定年制を廃止する企業もあり、当然定年制の導入はむしろ「今の時代の動きに逆行している」との意見もあります。

いずれにしても、変化の激しい時代にあっては、企業トップにはこれまでにない新しい発想力とビジョン、そしてなにより挑戦する志とエネルギーが求められます。組織持続という観点からも、若手を育て、登用するほうが理に適っている場合が多いのではないでしょうか。

NPO組織の場合も、同じです。役員定年制では、組織の特性や導入のタイミングなどについて慎重な検討が必要ですが、若者が積極的に組織に加わり、世代交代と新陳代謝がスムーズに進むシステムが組織の活力を維持し、持続させます。
「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」 マッカーサー司令官の言葉が思い出されます。

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