キミに左様ならなんて言えない
今から11年前の夏、気付けば僕らは当時史上最高得点を叩き出し、一度も負けることなく世界を制覇していた。
「ヨッシャー!」
Fuck yeahをそう解釈していた彼は我らのDevsのセンターで、常に嬉しいことがある度にそう呟き、ボクらは当たり前のようにアメリカのシェイクハンズを交わしていた。
13年前、できる限り間近でDevsのドラムラインを感じようと、ボクはローズボールスタジアムのスタンドの左端の下迄走り降りて、スタンドのフェンスにかじりつきながらフィールドを食い入るように見つめていた。
そこには既に彼がいた。
後に彼と出逢うことになるとはその頃はまだ想像すらしていなかった。
2年の時を経てボクがDevsに入った時に、初めて彼が自分と同い年だと知った。
既に3年目を迎えていた彼と仲良くなるにつれて、小さい頃はボクと同じ野球少年だったことも知った。
彼の膝が頗る悪かったのはキャッチャーをしていたせいだったことも、伏線を回収するように知った。
「blend and balance」と彼は言いながら、blue smokeという名がついたお香を口に咥え、ボクらのユニフォームを整えてくれるのはショーの前の儀式だった。
彼の言葉には疑いがなく、ボクらの心にも何の躊躇もなく溶けていった。
いつの日だったか彼はバスが出発する前、みんなに「こんなことを言われて俺のことを嫌いになるかもしれないが構わない。ただ、俺はお前らが大好きだ。」と言ったその何気ない言葉が、身体にタトゥーが刻まれたかのように、11年経った今でもボクの身体から消えることはなかった。
彼の抱擁力は言葉をも超えていた。
彼のハグは自分のジェンダーが分からなくなる程の抱擁力を持っていた。
ボクは彼のハグが忘れられない。
眉の上にピアスをあけ、鋭い眼の中にあるブルーアイズに幾度となく吸い込まれた。
ボクが理想に描くイケメン像は紛れもなく彼のことだった。
その11年後の今日、朝から旧友たちのFacebookの通知が止まらない。
Instagramに誕生日でもない彼の写真が羅列していたことは違和感でしかなかった。
嫌な予感は外れていなかった。
何故、、
急過ぎて……左様ならなんて言えない。
理由も分からないまま、9,340km離れた彼が住んでいたところに向かって手を合わせた。
手を合わせた瞬間に妙に実感が湧いて、彼が亡くなったことを肯定したかのような自分に無性に腹が立った。
埃の被った部屋に飾ってあるDevs 09ドラムラインメンバー全員のサインヘッドを手に取り、彼がサインしてくれたところをボクは指でなぞった。
…………………………ありがとう。
クリスという自分の名前が嫌いだったことも、タカと呼んでくれたことも全て、ボクの青春そのものだった。
スレイター、ボクはキミに左様ならなんて言えない。
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