SES業界に『小さな会社』が多い理由
『会社を大きくしていきたい』
経営者が会社規模の拡大を目指すのは自然なことであり、実際にそのように考えている経営者は多数いらっしゃるのではないかと思います。
そんな経営者の方に向けて、以前『会社が急成長して得られた3つのメリット』という記事を書きました。
この記事の中でも述べているとおり、会社を拡大することで得られるメリットはたくさんあります。
しかしながら、ひとたびSES業界に目を向けると『小規模な会社』がたくさん存在することに気付きます。
SES企業の平均社員数はおよそ30名ほど。
なぜSES企業には小規模な会社が多いのか。疑問に思われた方もいらっしゃるのではないかと思います。
『SES企業に小規模な会社が多い理由』は2つあります。
理由のひとつ目は、『企業数が多く、エンジニアが分散している』というものです。
少し前のお話にはなりますが、以前下記のようなツイートを投稿しました。
そもそも『SES』という業態は、『受託』や『自社サービス』と比較して利益を出しやすい構造になっています。
端的に言ってしまえば、参入障壁が低いのです。
だからこそ新規参入者が雨後の筍の如く登場し、SES企業が年々増えていくのです。
エンジニアの数は有限ですから、会社数が多ければそれだけ人が分散します。
その結果、『小規模の会社』が数多く存在する状況になってしまうのです。
ふたつ目の理由は、『社員数の増加に比例して採用の難易度も上昇する』というものです。
これは一体どういうことなのでしょうか?
非常にシンプルなお話なのですが、会社規模が大きくなるとそれに比例して退職者が増えてしまうのです。
『SES企業の経営は誰にでもできる』と仰る方もいるようですが、それは間違いです。
確かに参入障壁は低く利益を出しやすい構造ですので、『経営者になる』というだけであれば比較的容易と言えるでしょう。
問題はその先——会社を成長させて社員数を増やしたいと思ったとき。
多くの人が考えているのとは裏腹に、SES企業が社員数を増やしていくのはなかなか難しいのです。
厳しい言い方になってしまいますが、経営者の採用力不足により小規模なSES企業が乱立する状況を招いてしまっているのです。
『SES企業を成長させるのは難しい』という事実は、『株価』という指標を通じて垣間見ることができます。
例えば、『社員数30名規模のSES企業』があったとしましょう。
この会社を売却(全株式を他者に譲渡)したとしたら、どれだけの株価で売れると思いますか?
もちろん細かい条件や時勢によって異なりますが、およそ1〜2億円以上の値段がつきます。
『株価』は企業の価値を実直に表す指標です。
もし『社員数30名規模のSES企業』がありふれた存在であるならば、株価が『1〜2億円』になることはありません。
逆説的に、『SES企業が会社を拡大するのは難しい』ということを如実に表しているのです。
さて、先ほど『会社規模が大きくなると離職者が増える』というお話をいたしました。
これについて、ちょっとだけ深掘りをしていきましょう。
そもそもの話、『離職率』と一言にいってもその計算方式はバラバラです。
離職率が低く見えるように計算する会社もありますし、そもそも離職率自体を開示していないという会社も存在します。
そのような状況もあり各社の離職率を正しく把握し比較することは困難なのですが、大体の企業においては『およそ15%ほど』ではないかと考えています。
余談ですが、経営の世界では『離職率7%前後なら優良企業』という指標があります。離職率の高い会社では『30%越え』という企業もありました。
閑話休題。
仮に『毎年25名の社員を増やす』という目標を立てた場合、予定通り採用できれば『4年で100名、8年で200名』の会社規模になりますね。
とはいえ、これは理想論。現実には退職者が一定数発生します。
『離職率15%』で計算すると、社員数10名の会社であれば年間1〜2名ほどの社員が退職する計算になります。
退職者がでることを見越して『毎年25名の社員を増やす』という目標を達成しようとすると、『年間26〜27名』の採用ができればよいということになります。
では、社員数が100名になった場合はどうでしょう?
単純計算で社員数が10倍になりますから、退職者の数も10倍になります。
つまりおよそ15名ほどの社員が毎年退職していくわけで、『毎年25名』の目標を達成するには『年間40名』の採用が必要となります。
社員数200名となれば年間30名程が退職していくので、年間55名の採用が必要になってくるのです。
……と、このように、会社の規模に比例して採用人数を増やさなければ社員数は増えていかないのです。
『年間の退職者=年間の採用人数』となった時点で会社の成長はストップしますから、離職率を優良企業並みに下げつつ採用力を上げていく必要があるわけですが……。
誰にでも簡単に成し遂げられることではありません。
特に創業当初は使えるお金も少ないということもありますので、無料媒体や安価なサービスに頼るケースがほとんどではないでしょうか。
『人材募集費』をほとんど使わなければ確かに安く済むのですが、機会損失が増えてしまうというデメリットが存在します。
『ここで勝負に出ればチャンスを掴めるのは分かっているけど、かといってエンジニア一人あたりの採用単価を増やしすぎてしまうのもなぁ……』と頭を抱えていらっしゃる方も多いことでしょう。
私が一番良いと思っているのは、『無料/安価なサービスと有料の求人媒体を併用する』という方法です。
求人媒体を使うときは『経験2年以上のエンジニア1名を採用する予算を30万円以内とする』よう注意してください。
これを実現可能な採用サービスを選択しましょう。
そうすることで、採用コストを抑えながら社員数を増やしていくことができるのです。
ちなみに人材紹介などの『成功報酬型採用サービス』は割高になってしまう傾向があるため、個人的にお勧めしません。
SES業界にもいずれ業界再編の波がやってくる。
私はそのように考えています。
いざその時になってしまえば、力のない零細企業は軒並み淘汰されてしまうことでしょう。
Xデーを生き延びるためにも、採用力を鍛え上げていくべきです。