成長企業に降りかかる難題~管理職が『一枚上手』な部下に翻弄されてしまう~
会社が成長すれば、必ず問題が発生します。
その『問題』のなかで、最も悩ましいものといえば、
『管理職が一枚上手な部下に翻弄されてしまう』
というものではないでしょうか。
創業初期から会社を支え会社の拡大に大きく貢献してくれた管理職が、会社の成長に自分の成長が追いつかず、苦しむ場面が増えてきてしまうのです。
会社の成長に併せて採用力も向上するのが常であるため、会社が成長すればするほどに創業時よりも優秀な人材が採用できるようになってきます。
その結果『管理職とメンバーの力量が逆転する』といったことがおこり、『一枚上手な』部下の言動——指摘や批判といったものに管理職が翻弄され、適切なマネジメントが維持できなくなってしまうのです。
会社が成長する過程において、私自身もこの問題に何度も対処してきました。
もし対処法を知らず誤った判断をしていたとしたら、会社の成長は遙か昔に止まってしまっていたことでしょう。
それでは、私たち経営者はこの問題に対してどのような対応をすべきなのでしょうか?
その答えは『当該管理職者の降格』です。
会社経営において、『降格人事』はとても重要です。
能力が役職と釣り合わない人員が上司にいれば、組織全体が弱体化してしまうからです。
だからこそ、そういう人はきちんと降格させなければいけないのです。
しかしながら、その決断ができる経営者はなかなかいません。
自分と仲の悪い管理職には厳しくできても、自分と仲の良い管理職にはついつい甘くなってしまう……というのはよく見る光景です。
経営者とて人間です。降格人事によって人間関係が崩れることに恐怖を感じることもあるでしょう。
しかし、その気持ちに流されることなく厳しい判断をするのが経営です。
急成長する会社は例外なく、適切な『降格人事』をためらわずに実行し、適切なマネジメントを維持しているのです。
例えば、ユニクロの柳井正さん。
1990年代後半に玉塚元一さんや澤田貴司さんといった優秀な人員を中途採用でどんどん入れて、ユニクロの若返りをはかりました。
それに加えて、古くからいた方々を自ら説得し、役員から退いてもらったそうです。
『優秀な人員を採用する』ところまでは多くの経営者ができることですが、後段部分を実行に移すのはなかなかできることではありません。
現在の会社があるのは彼らのおかげ。
そういった方々と、会社の未来を考えてどう向き合っていくか。経営者はヒトではなく、組織全体をみて意思決定しなければならないのです。
……と、偉そうなことを書いておりますが、何を隠そう私自身も『降格人事』の決断をなかなか下せなかった経験を持っています。
エージェントグローを創業する前、私は雇われ社長として働いていました。
その企業には、初期から会社を支えてくれており、私の右腕として頑張ってくれていた『Aさん』がおりました。
私はその頑張りを認め、Aさんを会社にとって初となる上級管理職に抜擢したのです。
Aさんは人当たりのよいとても愛嬌のある方で、他の社員からの人望もありました。
個人的にもAさんとは仲良くしていました。
上級管理職への抜擢後、転機が訪れました。
Aさんが上級管理職に昇格してから、会社が期待するパフォーマンスを発揮できなかったのです。
Aさんの後から入社してきたメンバーは、率直に言ってAさんより数段上手でした。
彼らからAさんに対する指摘があった際に、Aさんは感情的に対応してしまいました。
その結果、本来であれば些細なことであったはずなのに大炎上してしまうなど、適切なマネジメントができているとは言い難い状況が何度も発生してしまったのです。
Aさんの近くで仕事をするメンバーから『なんであの人が管理職なんですか?』という声も聞こえ始め、『何とか彼を成長させることはできないだろうか?』と思慮を巡らせました。
Aさんの役に立つような書籍を勧めたり、高額なセミナーを受講してもらうなど、あらゆる施策を考えAさんの成長をバックアップしようとしたのですが……。
その後も状況が好転することもなく、他の一般管理職陣からも『あの人は本当に大丈夫なのか』などと不安な声が寄せられるようになってきたのです。
そのような状況を目の当たりにした私は、悶々と悩み続けました。
『彼の成長を待つことはできないだろうか?』
『彼を降格させた場合、何も知らない他の社員はどう思うか?』
頭を抱える日々が続きます。
これがもし、『チームメンバー同士の不仲』といった問題であれば、配置転換などの対応策で事足りたことでしょう。
しかし、今回は『自分より一枚上手のメンバーの言動——指摘や批判を抑えられない』、すなわち適切なマネジメントができていないという問題です。
これは管理職の能力不足が原因であり、そこをなんとかしなければ根本的な解決とは言えないのです。
悩み抜いたあげく、私はひとつの決断をしました。
Aさんに降格を言い渡したのです。
Aさんが上級管理職に昇格してから7か月。苦渋の決断でした。
今になって振り返れば、『もっと早く降格させるべきだった』という後悔の念が押し寄せてきます。
降格させるまでに様々な問題が起こっていましたし、Aさんの成長を支援するためにたくさんのコストをかけていました。
Aさんにかけていた分の時間、お金を他の管理職、メンバーに使っていたとしたら……。
もっと会社は成長していたと思います。
降格人事を告げたあとしばらくして、Aさんは会社を去っていきました。
しかし、そのことに対しての後悔はありません。
もしあの時に判断を誤り、Aさんに甘い対応をとってしまっていたら……。そして、それが当たり前の対応になってしまっていたら……。
会社の成長は確実に止まっていたでしょう。
その後も同じような問題が多々発生しましたが、毎回適切な判断ができたのはこの経験があったからこそだと考えています。
会社の成長のためには『降格人事』が必要不可欠である。
すべての従業員のためにも、経営者がそれを忘れてはいけないのです。