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SES企業が在籍年数によって還元率を上げると『諸刃の剣』になる

エンジニアへの還元率を上げたい。

そのように考える経営者は多いのではないでしょうか。

しかしながら、還元率を上げるということは会社の減益に直結してしまいますから、簡単に上げられるものではありませんよね。

借入金の返済があったり、会社の利益率がそもそも悪かったりすれば、還元率を上げることを決断し難いことでしょう。

『それでもなんとか還元率を上げることはできないか』と考えた経営者の脳裏をよぎるのは、『在籍年数に応じて還元率を変動させる』という選択肢です。

実際にこの選択をなさった方も、少なくないのではないでしょうか。

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例えば、下記のように『在籍年数に応じて還元率を変動させる』仕組みを導入したとしましょう。
(以下、この施策を導入した企業を『A社』とします)

在籍年数に応じた還元率変動

A社の施策はかなりのインパクトがありますから、とても大きな反響があるはずです。

『還元率80~90%』という魅力に誘われて、A社に入社する社員も増えるでしょう。すでに在籍しているエンジニアも喜ぶはずです。

離職率の低下にもつながりますし、会社に対して長い期間貢献してくれているエンジニアの還元率を高められるとあっては、経営者としても喜ばしい気持ちになるのではないでしょうか。

しかし、この施策には落とし穴が潜んでいます。

長期的視点で考えると、大きなデメリットを抱えてしまうことになるのです。

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はたして『デメリット』とはどのようなものでしょうか?

日本は少子高齢化社会を迎えているといわれていますが、それと同じような現象が社内で起こってしまうのです。

働く若者が少なくなるにもかかわらず年金をもらう人が多くなってしまう。これが日本における少子高齢化が内包している問題であり、日本政府は苦肉の策として年金額の減少や給付開始年齢の引き上げなどの施策を打っています。

これと同じような現象がA社でも起こる。はたしてそれはどのような状況でしょうか?

A社の採用が現在好調であったとしても、その状態が一生続くとは限りません。

仮に採用が不調となってしまったとき、A社における『入社1~5年目』のエンジニアの数は次第に少なくなってきます。
(そのエンジニアが辞めない限り、在籍年数は増え続けていきます)

エンジニアは、在籍年数が増えれば還元率が上がることを知っています。

『新規の採用が不調である』という以外に問題が無いとすれば、エンジニアが自ら退職を選ぶことはほとんどありません。

採用状況が改善しなければ、還元率の高い『入社6年以上』のエンジニアがどんどん増え続けます。それに伴い、A社の利益率は下がり赤字体質の会社になってしまいます。

そのスパイラルに陥ってしまえば、いずれ苦肉の策として『還元率を下げる』という決断をしなければならなくなるのです。

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実は私自身、エンジニアからの声を聞いて『在籍年数に応じて還元率を変動させる』施策を検討したことがありました。

その時の私は、『導入しない』という判断を下しました。

もし在籍年数が一定以上となる人たちの還元率を大幅アップすることができるならば、上がり幅は小さくなるとしても全員一律のアップもできるはずです。

どちらのほうが強く継続性のある施策でしょうか。

例えば、底上げを実現して『全員一律で還元率78%!』を実現したとしましょう。A社では『入社1〜5年:還元率70%』ですから、こちらに入社するケースも増えてくるはずです。

『在籍年数に応じて還元率を変動させる』という選択をすることで、全体の還元率アップが遠のいてしまいます。

結果、『全体の還元率アップ』を実現したライバル企業にエンジニアを奪われる可能性が高まり、制度崩壊の憂き目をみることになってしまいます。

どのような戦略をとるかは経営者の手腕の見せ所。

私としては、『全員一律での還元率アップ』を目指すことをお勧めします。