そんな人になりたい
二十年以上前、私が毎日のようにずっとそこにいた時、私はその人の名前も顔もどこにいるのかも知らないのだけど、そこで彼(男性のようだけど女性かもしれない)が書き込むその月に読んだ本、今読んでる本の書評と感想が楽しみで、私がすでに読んでいた本には「そうそうそれは……」で応じたり、知らん本の場合には彼は「こいつにどうやって読ませてやろうか」みたいな工夫もしてくれたりで、ちょろい私はそういうのにすぐ引っかかって実際に読んでみた、とか、そういうことがかなりあった。
同じ場所の別のところでは、「おまえいま買い直すのなら一番新しいリマスターのキングクリムゾンCDを買え音が全然違う」と力説されたりした。ほんとそういうのはありがたかった。あの時いろいろ教えてくれた人ら、本当にどうもありがとう。
別のところではお菓子の作り方を教えてもらった。指導通りにやった。本当にうまく出来上がった。お気に入りのお菓子になった。私がスコーンばっかり焼いているのは彼女のおかげだありがとう、二頭身時代からの知り合い!
今日は「テレビでエイリアンVSプレデターやってる!」というガセ情報で、珍しいな、と思いテレビのスイッチを入れると、そこにはエイリアンもプレデターもいない。可愛い女の子男の子が歌を歌ってる。騙されたなあと思ってつぶやくと「それはこういう映画だ」と教えられ、その方が言うのなら間違いないだろうということで、久しぶりに他人に薦められた映画を観た。最後まで全く飽きずに観られた。とてもよかった。あのつぶやきがなければ私はきっと一生自分からは観なかったと思う。
最初の彼は「あのな、しばらく品切れだった『神聖喜劇』という小説が別の会社の文庫(光文社文庫)になる。とてつもなくすごい小説だ全五巻だ全五巻だけど読め絶対に損はしない(大意)」と、これよりもっと上手な表現で私に薦めた。彼が薦めるなら、と思って買った。第一巻だけでちょっとありえないほどの面白さだった。その歳までその小説の面白さを私の周囲の人は誰も教えてくれなかったのだった。あの時に読んでとてもよかった。第二巻が出るのを待ちきれず、その前の文春文庫版を古書店巡回して探し回った。その本の為だけの古書店巡回まで彼は私にさせた。
私も「あの人が言うなら」みたいな人になりたい。
記憶ちがってた全五巻だったこっそり訂正した。