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皆既月食の日、距離をおいていた親と話した話。

5月26日。

夕方、学校から帰ってきた息子が、息を切らして帰ってきました。

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ピョピョピョピョピョピョピョ

ランドセルを背負ったまま、小刻みに揺れている…。

息子のソウちゃんは、小さい頃から、嬉しくなると揺れるクセがあります。
それは、小学3年生になっても変わりません。

この揺れ具合、どれだけ楽しみなんだ…。

私は、皆既月食なんて、そんなに興味はないけど…。


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ピョピョピョピョピョピョピョ

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見るしかないな、コレ。

夕飯を食べて、お風呂に入って、皆既月食が起こる時間まで待つ。

…はずが、息子は皆既月食が楽しみすぎて待てない様子。

ソワソワソワソワ

「ねえ、おばあちゃんたち、今日が皆既月食って知ってるかな?」

「さぁ、どうやろね〜」

「え、知らなかったらやばくない!?」

「え、ヤバイの?」


こうしてはいられない!と、息子は私のスマホを探しに行きました。

親とは、ほとんど連絡をとっていません。
結婚して10年経つけど、一度も実家の家に帰ってない。
里帰りもしませんでした。

正直、親とは元からわだかまりがあって、緊急事態宣言を理由に会うことを避けていました。

昔の漫画も書いているので、知ってる人もいると思うけど…

私はゴミだらけの家で育ちました。
父はいつも怒鳴って暴れていました。
母はお酒を飲んで泣いていました。

3行でまとめるとこんな感じです。

商業誌で毒親漫画を連載するくらいのネタ満載の家族です。


漫画のネタにして、世に出してしまうと、心がスッキリします。
だけど、それまでは結構大変。
漫画にすると言うことは、当時の自分の気持ちと向き合う時間が増えると言うこと。

トラウマを思い出す時間は、辛いです。
不思議なことに、体調も悪くなったりします。

今のタイミングで親と話したりしたら、気持ちも体調もさらにズドンと落ちてしまいそう。
その理由で、親と会うのを避けていました。


しかし、そんなことは、息子は知る由もなく…


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ピョピョピョピョピョピョピョ


こりゃあ、仕方がない。

だって、ソウちゃんは、私の親が好きだし
久しぶりに父と母も孫と話したいだろうし

「いいよ、かけて」

「あんがとね!」

私が承諾すると、ソウちゃんはすぐに親に電話をかけました。

プルルル プルルル 

プルルル プルルル

プルルル プルルル

・・・・・・・・・・・・・・・。

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正直、少しほっとしました。

しかし、息子は慣れた手つきで私のスマホをポチポチして、迷うことなくLINEを開きました。

「メールする!」

「えぇ…まぁいいけど」


息子は、メールを打ち出しました。

なぜか息子は、メールを打つとき、一文字一文字打たないといけない、まんまる絵文字を使います。

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めんどくさくないのかな?と思いつつも、
そんな心配はなんのその、打つのめっちゃ早い。
現代っ子め…!

既読はすぐにつきました。

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しばらく息子と親たちのメールのやりとりが続く…

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息子の皆既月食見てくれの圧がすごい。

60超えの親、メールの返事が追いつかない。

そして、親が孫からの願いをすんなり受け止めた途端、

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もう用はないとばかりに、息子はサヨナラを告げました。

息子よ、本当に、皆既月食のことだけを伝えたかったんだな。


このLINEのやり取りだけ見ると、私の親も、ただの孫が可愛いだけのジジババに見える。


ピリリー ピリリー


忘れないようにセットしていたアラームが鳴りました。

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ピョピョピョピョピョピョピョ
ピョピョピョピョピョピョピョ


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皆既月食を見るため、二人でベランダに出てみることに。
お風呂上がりだったので少し肌寒い。

見渡してみるけど、月はどこにも見えません。

「方角が違うのかもねー」

「外に人がいる!外なら見えるかも!そとおおお!」

ダダダッ

息子はテンション高いまま、玄関に向かいました。
私は息子を追いかけて、一緒にマンションの外に出ました。


でもやっぱり月はどこにも見えません。

高い建物に隠れてるのかな?

ふと近くの公園を見ると、近所の人たちが集まっていました。

私と息子は、公園に向かって走りました。


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皆既月食が観れるのは20分わずか。

間に合いますように…!

公園に着くと、こどもたちが5.6人遊具で遊んでいました。
他にも、家族連れの親子や、老夫婦、会社帰りのスーツ姿の人たちも。


みんなで空を見上げる。

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うん

これは

曇ってるね。


皆既月食、見えない。


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あれだけ楽しみにしてたのね。
息子、ショック。

この辺りは高いマンションが多く、公園の照明も明るい。

空はぼんやりと明るく、少し赤みがかっていました。

でも、それらしい月は見えません。

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これはしばらく帰りそうにない。

私は諦めて、ベンチに座り、ボーっとすることにしました。

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(ソウちゃんって、星とか宇宙好きだよなー)

(お父さんも天体観測好きなんだよなー。そう言うところソウちゃんと似てるかも。)

(それ以外は全く似てないけどな!)

(そういやLINEでも、24年ぶりの皆既月食って言ってたな)

(24年前の私って…13歳か)

(家にいたくなくて、野宿とかしてたなぁ。よくこうやって公園で空を眺めてたっけ)

(でも、皆既月食とかスーパームーンなんて、そんなもの興味なかった。
あの頃はそれどころじゃなかったし)


そう、それどころじゃなかった。

毎日、父は暴れるし、母は泣いてるし、近所の人も、警察も来たり、
学校にもなかなか行けなくて……


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そのために、自分ができることはなんでもやろうとしてた。

たくさん勉強したり、警察に相談したり、時には危ないことをしてみたり。
今覚えば、無意識に親に心配させるようなことをしたかったのかもしれない。

だけど、親は変わらなかった。

何をやっても変わらないから、諦めた。


だから、せめてものって、自分だけでも、変わろう思ったんだっけ。


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家族や周りに反対されながらイラストレーターになるために、転職を1年で4回も繰り返し、好きな人には4回フラれて結婚してもらい、息子のソウちゃんが生まれて…

新しい家族ができた。


一番欲しかった、「普通」の家族。


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必死で、手にいれた宝物。
だから、自分の親を遠ざけてたのかもしれない。

・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・。


なんで今、こんなことを思い出すんだろう。



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きっと、あれだ。皆既日食のせいだ。
皆既日食のせいでセンチメンタルになってしまったんだ。


月、全く見えないけど。


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それって…月と太陽に挟まれた地球が…
あったかいってこと…?



子どもの発想って………

なんて………………



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結局、空は晴れないまま、皆既月食を見ることはできないまま
私たちは帰宅しました。


すると…

プルルル プルルル プルルル

リビングにある固定電話が鳴っていました。

この電話にかけてくるのは、セールスか学校関係か、親しかいない…。

頭によぎったときには、すでに遅く…


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息子が元気いっぱいに電話をとってしまいました。

電話は、やっぱり母からでした。

ソウちゃんと、皆既月食が見れなかったことなんかを話をしているのだろう。

「ママ!おばあちゃんが代わってって!」

「はいよ…」

まぁ、そうなるよなー。


仕方なく、電話を代わり、数ヶ月ぶりに母と話しました。


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ガチャ、ガチャチャ、ガチャ!

え、何、何?

受話器越しに、騒がしくなった、その瞬間……


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大声ダイナマイト。



電話の声が父に代わりました。
耳が痛い。

父は、一通り叫び終わったあと、鼻息を荒くして黙り込みました。

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「ソウちゃん!」

「はーい」

気まずいので、ソウちゃんにバトンタッチしました。

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コミュニケーションスキル、高。

ソウちゃんは、怒鳴り声の父にも怖がらず、普通に話すことができます。

我が息子ながら、とんでもないコミュニケーション能力…
いや、これが孫パワーなのかも。

それとも私が、特別親に対して苦手意識が強いだけなのかもしれない。

父は声が大きいだけで、怒っていないこともある、と思う。
息子に対して、怒って怒鳴り散らしたところは見たことがない。

だけど、私は大きな声で話しかけられるだけで

イライラする。

嫌になる。

体が強張る。


「ママ、お電話でないー?」

「でない!!!」

私は、大人気なく断りました。

「じゃ、おじいちゃんおばあちゃん、またね〜」

ガチャ

電話を切ったソウちゃんは、思い出したように筆箱の中の鉛筆を削り始めました。


あ、明日あの学校の用意やね。


ガラガラガラガラガラガラガラガラ

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ガラガラガラガラガラガラガラガラ

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ガラガラガラガラガラガラガラガラ


LINE読み返したら、なんかおもしろいし。


ガラガラガラガラガラガラガラガラ

ガラガラガラガラガラガラガラガラ


でも、親と普通に話すことに、正直、素直に喜べない自分もいました。

昔の我慢してたころの私の気持ちが、最初からなかったことにされるみたいで。

胸の奥に、つっかえた石があるみたいな。
自分でとろうとすると、どんどん奥に入りこんでしまうような。



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私はまだ、父と母のことを心から許せてないんだと思います。


だけど、晴れやかな気持ちもあるのは確か。

その分、ここまで、変わることができたんだって実感できる。


私が変わろうと決めて走ってきた時間が、ここまで連れてきたんだって。


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あの頃、「そんなこと」って思ってたような皆既月食を、わざわざ公園まで子どもと見に行くくらい。

一つ、一つ、少しずつ、少しずつ、
今よりも居心地のいい場所へ行きたいって、考えて、行動し続けて…。


ふと、息子が言ってた言葉を思い出す。

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なんかいろいろ重なって、
だから私も少しだけ、あったかくなった気がしたんだ。


ガッ!ガラッ!ガガッ!ガーッ!


って、

「ちょっと鉛筆削りの音、おかしくない?」
    
「なんか、奥の方がつっかかってんだけど…」


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おわり

カワグチマサミ(@kawaguhi_game)


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