新声社とeスポーツ
新潮社の前身は新声(新聲)社である。
それを意識して社名を付けたのか、と新声社の社長に尋ねたことがある。当時短期間だが同社のアドバイザーのようなことをしていた。そのときのことだ。社長は、「新潮社のことは知らなかった」と言っていた。
新声社は、アーケードゲーム専門誌『ゲーメスト』などを出版していた。ゲームファンには思い出深い雑誌だ。同社で社長を交えてミーティングをした際、編集責任者のS氏を紹介された。
それからしばらく後のこと、彼から連絡があった。会社が倒産し、編集者たちと近くの公園で話し合い、もう一度アーケードゲーム雑誌を作ろうという結論になったという。熱い思いは十分伝わった。
事情は理解できたので、面識のあるエンターブレインの社長に打診してみることにした。そして話がついたので連絡したところ、S氏は別ルートで社長に連絡したらしい。その後同社からアーケードゲーム雑誌が創刊されることになる。
『ゲーメスト』が後世に残した功績に『ストリートファイターⅡ(ストⅡ)』大会がある。
このゲームは1991年春ゲームセンターに登場し、翌年スーパーファミコン版が発売され大人気になった。ゲーム雑誌は『ストⅡ』の恩恵を大いに受けた。
アーケードゲーム版の『ストⅡ』がリリースされて半年後、『ゲーメスト』編集部は、池袋のサンシャインシティ展示ホールで『ストⅡ』大会を開催した。
記憶に間違いなければ、当時複数のゲーム会社が集まってサンシャインシティでゲーム展示会を開催していたと思う。東京ゲームショウ以前の話だ。
『ストⅡ』大会は、試合に勝った選手同士が対戦を繰り返して勝者を決めるトーナメント方式で行われた。512人が参加したそうだ。試合の運営は、実況・進行が前述のS氏、『ゲーメスト』編集長のI氏が解説を行った。このイベントは当時業界で話題になった。
イベントは、トーナメント方式で実施され、イベント進行を実況担当が、また試合の解説を専門家が行うという運営スタイルは、今日のeスポーツイベントに受け継がれている。
2年前に世界のビデオゲーム歴史アーカイブを作っているイタリア人から、1980~1990年代の日本のゲーム業界関係者を紹介してほしいという依頼があった。その中にはeスポーツ関係者も含まれていたので、『ゲーメスト』編集長だったI氏を紹介した。研究熱心なイタリア人はとても喜んでくれた。
新声社はなくなってしまったが、同社の『ゲーメスト』編集部が作ったゲームイベントの運営スタイルは、eスポーツの運営スタイルとして今日も生き残っているのがうれしい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?