ひさしぶりのひこうき。
大人になると忘れてしまいがちなことがある。
オニにみつからないようドキドキしたおにごっこ、楽しみすぎて寝られなかった遠足の前夜。ブルースリーの映画をみたあとはアチョーオゥオゥオゥっていって構えてみたり、好きな女の子と目があって顔が真っ赤になったり。でも大人になるにつれ、そんな気持ちはなかなか味わえなくなっていく。忙しく働いたり、子育てに追われるうちに無邪気さをうしなってしまうのかもしれない。
ひさしぶりにひこうきにのった。
前の日からもうそわそわする。向こうで何をするのか想像しながら荷物をまとめる。ひとと会うことや、遠出がしずらい今だからこそ、高揚感はひとしおである。
空港に向かう道すがら、東京タワーに目を奪われる。
飛行場では、ひこうきを牽引する車が並んでいる姿に、ほれぼれする。
機内では雲海の美しさに目を奪われる。夕暮れの空の色が刻一刻と変化していく。1年ぐらい前のフライトのときも、離陸から着陸までの間、窓から見える風景を撮り続けた。キャビンアテンダントの女性から「写真がお好きなんですね」と(なかばあきれられつつ)尋ねられた。
ひこうきだけじゃない。新幹線だって、高速バスだって、今まで以上に高揚感を味わえる。旅先のごはんは脳が痺れるほど美味しいし、絶景には気絶するほど心が震えるだろう。
ぼくらは、飢えているのだ。感受性が強くなっているのだ。
すこしずつ世の中が動き始めている。いつの日か、パリのシャンゼリゼ通りで肩を組んで、記念撮影をできるのかもしれない。今そんなことになったら興奮して卒倒しかねない。
いつか世界は元通りになるだろう。マスクを手放して、ワイワイできる日もくるだろう。でも、今ぼくらが期せずして手に入れたこのワクワクする気持ちは手放さずにいたい。
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