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テイクアウト型スイーツの販売マーケティングについての一考察

いきなりですが、観光地におけるテイクアウト型スイーツの販売についての考察をまとめました。

ご笑覧くださいませ。

1,自己紹介

ということで、紆余曲折経て、薩摩芋を売っているお芋屋さんです。

ちょっと漠然すぎるので、自己紹介から始めさせていただきたいと思います。


著者のいしいと申します。

江戸時代から続く観光地で、永年和菓子屋を営む父の次男として生まれました。現在、37歳です。

大学を卒業した後、大学院に入りMBAでマーケティングを勉強し、新卒でインターネット通販の会社に入り、独立し、今に至ります。

僕の一族は、代々、同じ場所に根ざして和菓子屋をやっています。なので、近所の和菓子屋さんたちとは、結構、血縁関係があったりします。

そんな僕が、「なぜ、インターネットの会社に!?」と思われる方もいるかもしれません。


意外と、老舗の商家では普通のことだったりします。

だいたい、老舗の商家では子供を、生産の勉強をさせるか、販売の勉強をさせる傾向があるようです。

先日、にんべんの社長にお話を伺ったところ、当代の社長も先代の社長も百貨店に就職しているということでした。社長もおっしゃっていましたが、鰹節の最大の販路は百貨店。ということで、ある種、販路への就職は、当然の判断かなと思いました。

一方で、和菓子屋さんとかは有名な和菓子屋さんへ修行に行くのは普通だったりします。変わったところでは、吉田カバンさんは、当代も次代もイタリアにバックの生産の勉強に行ったようです。

僕の家の場合、兄は京都の和菓子屋に修業に行きました。ということで、僕は、販売の勉強をすべく、マーケティングを大学院で勉強し、当時、最先端であったインターネット通販の勉強をするため、最大手の会社に入ったというのが事情です。

2,お土産産業について

僕は、まもなく38歳。

普通の人が社会に出てから働き始めるわけですが、僕は子供の頃から家業を手伝っています。なので、1990年代のバブルの余韻の残るお土産業界も当然知っています。もう30年近いキャリアということになります。サラリーマンなら、50代前後の人と同じくらいの経験があるわけです。


お土産産業は、急速にシュリンクしています。

理由は大きくは3つ。 

1,景気の悪化

今更言わなくてもという感じですが、バブルを思い起こさせるような状況にはなっていません。

2,消費環境の変化

若い人には想像が出来ないと思いますが、昔は近所でも観光地に行くとお土産を買い、学校や職場で配るという状況がありました。ディズニーランドだけは、昔ながらの消費環境が生き残っているかもしれません。大量にクランチとかを買っている観光客を見かけることがあります。

3,ナショナルメーカーの参入

今更ながらという話かもしれませんが、ご当地ポッキーを皮切りに、吉本興業さんが「面白い恋人」という商品を作ったり、色々な大手企業が参入してきています。


色々書きましたが、お土産物屋さんというのは、かなり環境が悪化しています。バブルという特殊要因のため、製造販売型から仕入れ販売型に舵を切ったお店は、かなり倒産をしているのではないでしょうか。

現在生き残っているお土産物屋さんは、京都などの巨大な観光地や製造販売モデルを堅持している会社が多いのではないでしょうか。

この必ずしも良いとは言えない市場で、猛烈に拡大しているのは杉養蜂園さんとか船橋屋さんでしょうか。製造販売モデルを構築すると、意外と爆発できるカテゴリーと自分自身では思っています。なぜなら、競合の多くはパパママストアですから。残存者利益、十分に狙えます。


3,自社の環境

色々書きましたが、うちは、仕入れ販売モデルから製造販売モデルへの切り替えに成功し、東東京では人気の和菓子屋になっています。

※父も和菓子を作っていましたが、兄は商品の内製化を一気に進めました。

先程、バブル時代のお土産物屋は、箱物のお土産を主軸に販売を行ってきたと書きました。うちもそうでした。しかし、うちは屋台のチョコバナナのような食べ歩ける商品を積極的に展開して、状況を打開してきました。

これから書くことは、明らかに食べ物屋として不適切なことしか書かないので、店舗名とか場所とかはぼやかしておきます。


家で、急に新商品の開発に関わることになりました。以下、和菓子の修行をしていない僕の悪戦苦闘記をまとめさせていただきます。

基本的に、箱物のお土産は供給過多。だから諦める。では、テイクアウト型のスイーツをいかに成功させるか。MBAで学んだマーケティングの知識をベースに戦っていきます。


4,自社の販売環境

以前、プロ野球チームを運営されていた方に聞いたのですが、球場の側でどれだけ美味しい屋台を出しても、屋台の数を減らしても、屋台の数を増やしても、お客様が落とすお金は入場客数に比例するということでした。

通販でかなり有名なお店を揃えても総売上に変化がなかったそうです。これはかなり勉強になる知見でした。ここから考えられる仮説は、美味しいものを作っても、売上は増えないということです。では、売上をあげるにはどうするか。


▼空腹のお客様を探せ!

当店は、駅から数えると16軒目(左右それぞれ8軒ずつ)になります。私のお店に至るまでに、胃袋に商品を詰め込んでいないお客様を探すことからはじめました。

まずは、競合となるテイクアウト型商品を提供しているお店が何を提供し、どんなお客様を取り込んでいるのかを確認しました。

   ○露天商=チョコバナナを提供

露天商という特性上、お土産物販売は考えにくく、客単価は300円、損益分岐点は3万円あたりでしょうから、100人以上の子供を取り込んでいるはずです。

   ○K店    =焼き鳥、焼き魚介類を提供

年齢を問わず、男性を取り込んでいるようです。スタッフを常時1名張り付かせていることを考えると、売上は2万円以上か。休日は1.5名体制なので、売上は4万円以上というところかもしれません。近所なので、あまりジロジロ見るわけも行かず客単価は不明。

   ○F店   =パフェを提供

あんまり売れているようには見せません。。。

   ○T店   =草だんごを提供

立地している観光地の特性上、中高年が多く、T店の提供する草だんごは中高年の男女を取り込んでいます。スタッフを3人投入することもあります。恐らく、お土産用の草だんごもあわせれば、10万円は目指せるあたりなのではないでしょうか。


属性情報は正確にとれませんが、仮説としては、僕らが立地している観光地でのテイクアウト型市場は、女性を放置してしまっているように感じます。ということで、少女、女性をターゲットにすることは決定。

では、何を売るのか。。。。


5,そうだ!芋を売ろう

女性をターゲットにすると決まれば、取扱商品は絞られます。

食べ歩き市場の先駆者であり、らぽっぽ/道頓堀くくるなどで知られる白ハト食品工業では、「いも・たこ・なんきん」に特化した商品を開発しているそうです。

大阪では、江戸時代に「この世女の好むもの 芝居浄瑠璃 いもたこなんきん」という川柳が詠まれたように、昔から女性の三大好物として「いも・たこ・なんきん(カボチャ)」が謳われている。以降、スイートポテトをはじめ、「いも・たこ・なんきん」に特化した食品メーカーとして事業の軸足を移す。wikipediaより

うちの既存の取り扱い商材の中で、主軸の1つが芋ようかんがあるので、芋の調達は容易なので芋を扱うことに決定。


▼どんな芋の商品を売るか。。。。

まずターゲットを3軸に分けることにしました。

    ○少女  =小学生/中学生/高校生

紫芋のパウダーで紫色にしたポップコーンを販売

    ○女性  =20~30代

芋チップスを販売

    ○中年女性=40代以上

スイートポテトを販売


▼結果

 ○ポップコーン =売上0

 ○芋チップス  =売上20

 ○スイートポテト=売上0

驚いたことに、ポップコーンとスイートポテトは、1個も売れなかった。ヒット商品なら1日1000個近く売れる場所で、1個も売れなかった。

▼検証

 ○ポップコーン =売上0

紫芋のポップコーンを買いそうな年齢層の女の子は、ほとんどお店の前を通らなかった。もしかしたら、女の子とポップコーンという組み合わせが良くなかったというのもあるかもしれない。ただ、方向性は変える必要がありそう。

○スイートポテト=売上0

意外だったことは、スイートポテトが売れなかったことだ。スイートポテトは何が悪いのか。。。。実は、僕の本命はスイートポテトだった。浅草で爆発的な成長をしているスイートポテト屋さんがあるので、そこと同じような売上が期待出来るのではないかと思った。

そこで成長している浅草のスイートポテト屋さんを勉強させていただくことにした。

5,スイートポテトの売り方

浅草で人気のお芋屋さんのKさん。店舗は14店舗ある。店舗数が10店舗を超えるため、この商品はどのエリアでも普遍的な成功モデルを確立できているのだろう。

商品しか見ていなかったが、お店を見ていると、2つの事がわかった。正直、Kさんの商品は、びっくりするほど美味しいというものではない。ただ、検証してみると商品戦略が圧巻だった。彼らの特徴は2つ。

  1,ターゲットは年配の女性=おばあちゃん

  2,客単価が異様に高い。

おばあちゃんが大量に購入している。なぜなんだろう。。。

▼スイートポテトが爆発的に売れているのか。

商品的には、恐らくホワイトチョコもしくはホワイトチョコの香料を混ぜている。しかし、商品的にはたいした特徴はない。なぜ、おばあちゃんたちが熱狂するのだろうか。

定番品なので、おばあちゃんが好き。これ自体はわかる。しかし、なぜ大量買いにつながるのか。

▼想定されること

基本的に、おばあちゃんが大量買いする場合は、子供や孫(中高年や子供)が食べている可能性が高い。しかし、味覚として、おばあちゃんは変わったものを好まない。一方で若い人たちは新しい味を好む。両方が好む味を構築する方程式を確立することは、中々難しい。

▼テイクアウトスイーツの売り方

そもそも論ですが、基本的に、テイクアウトスイーツは箱買いされない限り、成功と言える水準の売上になりません。1個ずつ売って200円とかだと、お金のやり取りに時間がかかるだけで、量が捌けないからです。あくまでも利益を出す源泉は箱にないといけないんです。

この事実を理解した上で成功したのが、新宿のクリスピークリームというドーナッツ屋です。試食を1個ずつ提供して、基本は箱で販売していきます。もうブームが去ってだいぶ時間は経ちましたが、彼らの戦略は定石をきちんと抑えたものでした。

▼過去の方程式

中高年が買い、子供が食べることで大ヒットさせる方程式を確立出来たものは、高級路線でした。

先日、会社更生法を申請したことが話題になりましたが、ラスクのシベールなどは、この方程式をきちんと確立出来ていました。

ラスクは、GATEAU FESTA HARADA(ガトーフェスタ ハラダ)やシベール東京ラスクなど、大手3社だけの売上をまとめるだけでも、最盛期は500億円を大きく超えていたはずです。

ラスクは、元々の原価が安いため、高級路線といっても単価が低いため、多くの中高年が買いやすく爆発的なブームを起こしました。

▼スイートポテトの売り方

浅草のスイートポテト屋さんのKさんは、売り方の差別化ではなく、味で世代の壁を超えたのではないかというのが僕の仮説です。

中高年が熱狂した理由は老舗の定番感でしょうか。本業のお芋屋さんが作るスイートポテトという打ち出しがマーケティング的に成功したと考えました。

僕が、M&A屋さんなら箱根や熱海などでスイートポテト屋さんを始めるが、今の僕は与えられた場所で商品を作るしか無いので、残念ながら断念。

そもそも草だんごを買っている中高年をスイートポテトに振り向かせることのハードルが高い気がしました。

6,芋チップスの深化

上記の理由から、深掘りすべき商品は芋チップスとすることにしました。正直、売れたといっても、テスト販売では20個しか売れていません。繰り返しますが、ヒット商品は1,000個/日売れるスペースです。当面の販売目標は100個にしました。

ここから考えた改良の軸は、商品の特徴化です。

簡単に言えば、油を活用し、商品に特徴をだしていきます。イメージでいえば、日高屋から、ラーメン二郎にしていきます。

油を食べさせる典型的な戦略は、大きくは2つ。生クリームかバター。どちらも美味しそうに思わせる所謂シズル感を簡単に醸成できます。

最初は、パンケーキと同様に生クリームモリモリの展開を考えました。しかし、販売のオペレーションの点から専任のスタッフが必要になることもあり、親から不可と指摘が入り断念することになりました。

ということで、バターをふんだんに使うという戦略に至りました。問題は、バターをどう展開していくか。

ここで、商品構成をまとめます。

  スタンダード=塩

  子供向け  =チョコ

  男性向け  =????

  女性向け  =???

男性向けの商品と女性向けの商品をバターで作っていくことにします。男性向けには、スイーツより塩味を打ち出したいので、醤油バターにすることに決定しました。逆に女性向けにはハチミツを打ち出したはちみつバターにすることにしました。


7,結果

上記の商品で展開して2週間が経ったのが、現在。現状での販売数は20個だったものが50個を超える売れ行きです。

味付けとしては、シンプルな塩が圧倒的に売れています。

チョコは1個も売れていません。たまたまチョコバナナがお休みだった日は10個以上売れたので、立地依存の問題でチョコを販売しても、売れないことがわかりました。

予想外の結果ですが、バターは面白い結果が出ています。

13時30分までは醤油バターが売れます一方で、14時過ぎると全く売れなくなります。逆に、はちみつバターは、13時30分までは売れず、それ以降の売れ行きがよくなります。

ここから想定されることは、醤油バターはお弁当などの代替需要。バターの2種類は、トレードオフの関係にありそうです。つまり、バターの商品を2種類で展開する必要はあまりなさそうです。

事前に想定していたターゲットは、全くあてはまっていません。ターゲティングの面でいうと、予想外ですが、メインの客層は恐らく50~60代の男女。これは来店客数の比率に依存すると思われますが、若い人よりも年配の人が好む傾向がありそうです。焼き鳥の市場を侵食すると考えていましたが、むしろ草だんごの需要を侵食しているようです。

現状では、コンスタントに50個まで売れるようになってきています。商品が売れない2月という時期では、それなりに合格点というラインにきているのかもしれない。当然、1日100個売れるようになるまで商品改良は続けますが、需要がありそうなら、また書きます。









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